夜紅譚

黒蝶

文字の大きさ
上 下
231 / 309
第21章『夜の学校』

第194話

しおりを挟む
「それならもうすぐ来るはずだ」
《どういうことだ》
「みんな、用意はいいか?」
「嫌ですけど、仕方ないですよね…」
『大丈夫です』
『こっちも準備できた』
蔵の四方に札を貼り、真ん中に陽向と鏡の妖と座る。
一応リモート参加でも人数に数えられるだろう。
「これからここで、中途半端に怖い話を終わらせる」
《……?》
「俺たちが話している間、おまえはそこに座ってるだけでいいから。…着物の人が来たらめいっぱい声をかけてくれればいい」
意味が分からないといった様子だったものの妖は頷く。
『まずは俺からか』
「先生の話、めちゃくちゃ怖いのに…」
『比較的マイルドな話を用意したから大丈夫だろう』
みんなが順番に話していくのを聞いていたが、やっぱり先生の話が1番ぞっとした。
『詩乃先輩の番です』
「そうだな…どの話にしようか」
『詩乃ちゃんの話も怖いの?』
「分からない。こういう経験、あまりないんだ。…ある老人の話でもしようか」
老人の杖は様々な現象をおこす。
老人は人助けのために使っていたが、次第に人間たちは悪巧みするようになり…という内容だ。
「老人は最終的に──」
『さ、最終的に?』
「……やめた。ここまでにしておかないといけない気がするから」
『続きが気になります』
「こんな不完全燃焼で終わるなんて…」
「ここまでにしておく必要があるんだ」
1本だけ用意しておいた蝋燭の火を消すと同時に悪寒が走る。
「陽向」
「捕まえました」
《離セエ!》
百物語の噂に着物の女が関係しているなら、中途半端にしている私たちに近寄ってくるはず…賭けだったが当たりだったらしい。
別の場所に行かないよう、札で私たちの居場所を示しておいた。
《主様、ようやくお姿を拝見することができました》
《ウウ……》
「熱っ!?」
邪気で少しずつ焼けてきているのか、陽向が顔をしかめる。
《主をこちらへ》
「焼けないように気をつけろよ?」
陽向は優しい手つきで着物の女を引き渡した。
彼女を抱きしめ、鏡の妖は想いを叫ぶ。
《あなたがもう美しい音色を奏でられずとも、俺がずっとそばにいます。だからどうか、心優しいあなたに戻ってください。どこへだってついていきますから…》
邪気が弱まると同時に、鏡の妖の体も炎に包まれる。
「おいおい嘘だろ…。まさか、最初からそのつもりだったのか?」
《いかにも。俺の妖術が役に立つときがきてよかった。…この方は俺が連れて行く》
《あ、あ……》
《主様、俺が分かりますか?》
着物の女の瞳に光が戻り、一筋の涙を流す。
《さらばだ。…おまえたちを信じたことは間違っていなかった。感謝する》
ふたつの陰はどこまでも高く昇っていき、何も見えなくなった。
あのふたりはこれからどこへ向かうのだろう。
どこまでも一緒にいられるならきっと大丈夫だ。
──長い間、ずっとふたりきりだったのだから。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヒロイン失格  初恋が実らないのは知っていた。でもこんな振られ方ってないよ……

ななし乃和歌
ライト文芸
天賦の美貌を持って生まれたヒロイン、蓮華。1分あれば男を落とし、2分あれば理性を壊し、3分あれば同性をも落とす。ところが、このヒロイン…… 主人公(ヒーロー役、京一)を馬鹿にするわ、プライドを傷つけるわ、主人公より脚が速くて運動神経も良くて、クラスで大モテの人気ナンバー1で、おもっきし主人公に嫉妬させるわ、さらに尿漏れオプション持ってるし、ゲロまみれの少女にキスするし、同級生のムカつく少女を奈落の底に突き落とすし……、最後に死んでしまう。 理由は、神様との契約を破ったことによる罰。 とまあ、相手役の主人公にとっては最悪のヒロイン。 さらに死んでしまうという、特殊ステータス付き。 このどん底から、主人公は地獄のヒロインを救い出すことになります。 主人公の義務として。

借景 -profiles of a life -

黒井羊太
ライト文芸
人生は、至る所にある。そこにも、ここにも、あそこにも。 いつだったかの群像・新人文学賞一次通過作。 ライト文芸大賞に参加してます。

記憶味屋

花結まる
ライト文芸
あなたの大切な記憶を味わいに行きませんか。 ふと入った飲み屋に、何故か自分の予約席がある。 メニューもないし、頼んでもないのに、女店主はせっせと何かを作っている。 「お客様への一品はご用意しております。」 不思議に思ったが、出された一品を食べた瞬間、 忘れられない記憶たちが一気に蘇りはじめた。

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

僕の大切な義妹(ひまり)ちゃん。~貧乏神と呼ばれた女の子を助けたら、女神な義妹にクラスチェンジした~

マナシロカナタ✨ねこたま✨GCN文庫
ライト文芸
可愛すぎる義妹のために、僕はもう一度、僕をがんばってみようと思う――。 ――――――― 「えへへー♪ アキトくん、どうどう? 新しい制服似合ってる?」  届いたばかりのまっさらな高校の制服を着たひまりちゃんが、ファッションショーでもしているみたいに、僕――神崎暁斗(かんざき・あきと)の目の前でくるりと回った。  短いスカートがひらりと舞い、僕は慌てて視線を上げる。 「すごく似合ってるよ。まるでひまりちゃんのために作られた制服みたいだ」 「やった♪」  僕とひまりちゃんは血のつながっていない義理の兄妹だ。  僕が小学校のころ、クラスに母子家庭の女の子がいた。  それがひまりちゃんで、ガリガリに痩せていて、何度も繕ったであろうボロボロの古着を着ていたこともあって、 「貧乏神が来たぞ~!」 「貧乏が移っちまう! 逃げろ~!」  心ない男子たちからは名前をもじって貧乏神なんて呼ばれていた。 「うっ、ぐすっ……」  ひまりちゃんは言い返すでもなく、いつも鼻をすすりながら俯いてしまう。  そして当時の僕はというと、自分こそが神に選ばれし特別な人間だと思い込んでいたのもあって、ひまりちゃんがバカにされているのを見かけるたびに、助けに入っていた。  そして父さんが食堂を経営していたこともあり、僕はひまりちゃんを家に連れ帰っては一緒にご飯を食べた。  それはいつしか、ひまりちゃんのお母さんも含めた家族ぐるみの付き合いになっていき。  ある時、僕の父さんとひまりちゃんのお母さんが再婚して、ひまりちゃんは僕の義妹になったのだ。 「これからは毎日一緒にいられるね!」  そんなひまりちゃんは年々綺麗になっていき、いつしか「女神」と呼ばれるようになっていた。  対してその頃には、ただの冴えない凡人であることを理解してしまった僕。  だけどひまりちゃんは昔助けられた恩義で、平凡な僕を今でも好きだ好きだと言ってくる。  そんなひまりちゃんに少しでも相応しい男になるために。  女神のようなひまりちゃんの想いに応えるために。  もしくはいつか、ひまりちゃんが本当にいい人を見つけた時に、胸を張って兄だと言えるように。  高校進学を機に僕はもう一度、僕をがんばってみようと思う――。

透明の「扉」を開けて

美黎
ライト文芸
先祖が作った家の人形神が改築によりうっかり放置されたままで、気付いた時には家は没落寸前。 ピンチを救うべく普通の中学2年生、依る(ヨル)が不思議な扉の中へ人形神の相方、姫様を探しに旅立つ。 自分の家を救う為に旅立った筈なのに、古の予言に巻き込まれ翻弄されていく依る。旅の相方、家猫の朝(アサ)と不思議な喋る石の付いた腕輪と共に扉を巡り旅をするうちに沢山の人と出会っていく。 知ったからには許せない、しかし価値観が違う世界で、正解などあるのだろうか。 特別な能力なんて、持ってない。持っているのは「強い想い」と「想像力」のみ。 悩みながらも「本当のこと」を探し前に進む、ヨルの恋と冒険、目醒めの成長物語。 この物語を見つけ、読んでくれる全ての人に、愛と感謝を。 ありがとう 今日も矛盾の中で生きる 全ての人々に。 光を。 石達と、自然界に 最大限の感謝を。

死にたがりのうさぎ

初瀬 叶
ライト文芸
孤独とは。  意味を調べてみると 1 仲間や身寄りがなく、ひとりぼっちであること。思うことを語ったり、心を通い合わせたりする人が一人もなく寂しいこと。また、そのさま。 2 みなしごと、年老いて子のない独り者。 らしい。 私はこれに当てはまるのか? 三十三歳。人から見れば孤独。 そんな私と死にたがりのうさぎの物語。 二人が紡ぐ優しい最期の時。私は貴方に笑顔を見せる事が出来ていますか? ※現実世界のお話ですが、整合性のとれていない部分も多々あるかと思います。突っ込みたい箇所があっても、なるべくスルーをお願いします ※「死」や「病」という言葉が多用されております。不快に思われる方はそっと閉じていただけると幸いです。 ※会話が中心となって進行していく物語です。会話から二人の距離感を感じて欲しいと思いますが、会話劇が苦手な方には読みにくいと感じるかもしれません。ご了承下さい。 ※第7回ライト文芸大賞エントリー作品です。

クリスマスツリーは知っている

さんかく ひかる
ライト文芸
一枚の枯れ葉、そしてクリスマスツリーの答え。 物言わぬ彼らの気持ちになってみました。 前編 枯れ葉は、音もたてず大人しく運命に従って落ちていくだけ? 枯れ葉の気持ちになってみました。 後編 そしてクリスマスツリーは、どんな気持ちで落ちていく枯れ葉を見つめていたのでしょう?

処理中です...