夜紅譚

黒蝶

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第21章『夜の学校』

第191話

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生徒の格好をしているが、雰囲気でなんとなく察した。
「先輩、その子…」
「生徒じゃない。…人間じゃない、が正確か」
『どんな子ですか?』
「手首に赤いリボンに鈴を通した飾りをつけている。高等部では見たことがないから、生徒として在籍しているとしても中等部の可能性が高い」
高入生の名簿も一応見たが、こんな制度はいなかったはずだ。
《あれ、私……》
「目が覚めたか」
《こ、殺さないで!》
そう言って膝に頭をのせたまま震える少女は、他人に危害をくわえるようには見えない。
「何もするつもりはないよ。…ただ、何か見たなら話を聞かせてほしい。名前は?」
《……ミカ》
「ミカがいたあの場所に封印されていたものが外へ出て、生徒が3人行方不明になっている。何か知らないか?」
ミカと名乗った妖は、はっとしたように顔をあげる。
《百物語をしている生徒を止めようとしたの。あれってやっちゃ駄目なんでしょ?…友人が言っていたの》
「友人って?」
《……あのぎらぎらした目つきの男が外に出ちゃったの?》
ミカは陽向の言葉をスルーして問いかけてきた。
「かなり怒っていた。鏡を割ったんじゃないかと間違えられるくらい」
《やっぱり…。話しかけなくて正解だった》
「そういえば、なんであんなところにいたの?君も封印されてた系?」
《……》
「俺、黙ってます」
しゅんとした陽向を何か言いたげな表情で見たが、ミカは話を戻した。
《私、守護系の妖術が使えるの。変な気配がしたから流れを止めようとしたら息苦しくなって…》
「あてられて意識を失ったのか」
《奥の部屋にひとり隠れたのは見たけど、あとのことは分からない》
「充分だ。ありがとう」
急いで奥の方を探すと、女子生徒がひとり倒れていた。
「保健室へ運ぶか」
「その必要はない」
「え、先生!?ちびは…」
「恋猫がいるから大丈夫だろう」
恋猫…結月のことか。
「通信は途中途中聞かせてもらっていた」
「そうか。この子は目を覚ますと思うか?」
「おそらくあてられて気絶しただけだ」
先生がそう告げると同時にゆっくり瞼があげられる。
「あれ、室星先生…?」
「部屋を抜け出すのは禁止事項だったはずだが」
「ご、ごめんなさい!私以外は誰もいないんですか?」
「同じ部屋の生徒がふたり戻っていない。ひとりは倒れているのを見つけて保健室へ運んだ」
「そうですか…」
まだ少しふらついている陽向と色々教えてくれたミカを連れ、物陰に隠れる。
相手が先生だけなら事情を話しやすいかもしれない。
「何かあったのか?」
「お願いします、助けてください!男の人にいきなり襲われそうになって…ふたりもどこかにいるはずなんです。
でも、みんなばらばらに逃げたからどこにいるか分からなくて…助けてください」
助けてくださいと繰り返す女子生徒を先生は落ち着かせる。
足音をたてないよう気をつけつつその場を離れた。
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