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第20章『近づく足音』
第183話
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「穂乃、具合はどうだ?」
「なんだか体がふわふわする…」
どうやら憑かれていた間の記憶があったりなかったりするらしく、噂が片づいたと話しても実感がわかないようだった。
「あれだけ強力な付喪神に憑かれてもその程度なのか」
「そんなに驚くことなのか?」
「精神が混ざりあってしまってもおかしくないのに、見たところぴんぴんしている」
「えっと…元気すぎるってことですか?」
「簡単に言えばそういうことになる」
そもそも式神を常時出現させたまま行動できること自体とんでもないことなのだが、見慣れてしまったせいかあまり深く考えていなかった。
やっぱり穂乃の霊力はずば抜けて強い。
…だからこそ心配になる。
「お姉ちゃん?」
「ごめん。なんでもないよ」
今回はたまたま相手がよかったからいいものの、いつもそうとは限らない。
もう少し強めの護符を作った方がいいだろうか。
「一旦家に帰ってゆっくり寝た方がいい。私もできるだけ早く帰るから」
「分かった。また後でね」
穂乃と白露を見送った後、退屈そうにしていた瞬に声をかける。
「瞬、今月分を引き落としてきた」
「ありがとう。…ねえ、穂乃ちゃんって本当に大丈夫なの?」
「ああ。前に憑かれたときもあんな感じだったから…」
「本当に力が強いんだね」
瞬はそう言って、はっとしたように問いかけてきた。
「そういえば、願いの影響を受けた人たちはどうなるの?」
「流石に消えたままってことはないはずだ」
いなくなった人間が全員戻ってくるまでは時間がかかるだろう。
「ごめんね。僕も何かできればよかったんだけど…」
「瞬は何も悪くない。寧ろ今はちゃんと休んでいてくれた方が安心する。…特に先生が」
先生の表情が時折曇っていたのを見逃さなかった。
立ったまま動かない先生に笑顔で話しかける。
「本当は瞬がどうしてるか、ずっと気になってただろ」
「そうなの?」
「……大人しく寝ているか考えていただけだ」
先生でも照れることがあるのかと少し微笑ましくなる。
「ほら、終わったぞ」
「ありがとう」
相変わらず若干痛む手首を握らながら席を立つ。
「それじゃあ私はこれで。ふたりとも、また明日」
早めにバイトをすませて、穂乃たちのところへ帰らなければ。
白露はあの短冊を使っただろうか。
結局何も聞けないままではあるものの、無理矢理話させるのも違う気がしてそのままになってしまっている。
いつかもう少し話してくれればいいが、今はまだ早い。
少しでも苦しみがなくなることを祈りながら、日曜日の旧校舎を後にした。
「なんだか体がふわふわする…」
どうやら憑かれていた間の記憶があったりなかったりするらしく、噂が片づいたと話しても実感がわかないようだった。
「あれだけ強力な付喪神に憑かれてもその程度なのか」
「そんなに驚くことなのか?」
「精神が混ざりあってしまってもおかしくないのに、見たところぴんぴんしている」
「えっと…元気すぎるってことですか?」
「簡単に言えばそういうことになる」
そもそも式神を常時出現させたまま行動できること自体とんでもないことなのだが、見慣れてしまったせいかあまり深く考えていなかった。
やっぱり穂乃の霊力はずば抜けて強い。
…だからこそ心配になる。
「お姉ちゃん?」
「ごめん。なんでもないよ」
今回はたまたま相手がよかったからいいものの、いつもそうとは限らない。
もう少し強めの護符を作った方がいいだろうか。
「一旦家に帰ってゆっくり寝た方がいい。私もできるだけ早く帰るから」
「分かった。また後でね」
穂乃と白露を見送った後、退屈そうにしていた瞬に声をかける。
「瞬、今月分を引き落としてきた」
「ありがとう。…ねえ、穂乃ちゃんって本当に大丈夫なの?」
「ああ。前に憑かれたときもあんな感じだったから…」
「本当に力が強いんだね」
瞬はそう言って、はっとしたように問いかけてきた。
「そういえば、願いの影響を受けた人たちはどうなるの?」
「流石に消えたままってことはないはずだ」
いなくなった人間が全員戻ってくるまでは時間がかかるだろう。
「ごめんね。僕も何かできればよかったんだけど…」
「瞬は何も悪くない。寧ろ今はちゃんと休んでいてくれた方が安心する。…特に先生が」
先生の表情が時折曇っていたのを見逃さなかった。
立ったまま動かない先生に笑顔で話しかける。
「本当は瞬がどうしてるか、ずっと気になってただろ」
「そうなの?」
「……大人しく寝ているか考えていただけだ」
先生でも照れることがあるのかと少し微笑ましくなる。
「ほら、終わったぞ」
「ありがとう」
相変わらず若干痛む手首を握らながら席を立つ。
「それじゃあ私はこれで。ふたりとも、また明日」
早めにバイトをすませて、穂乃たちのところへ帰らなければ。
白露はあの短冊を使っただろうか。
結局何も聞けないままではあるものの、無理矢理話させるのも違う気がしてそのままになってしまっている。
いつかもう少し話してくれればいいが、今はまだ早い。
少しでも苦しみがなくなることを祈りながら、日曜日の旧校舎を後にした。
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