夜紅譚

黒蝶

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第20章『近づく足音』

第180話

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なかなか減らない虫に、いい加減うんざりしてくる。
何かを護ろうとしている様子もないし、がむしゃらに攻撃しているようだ。
「音が…」
羽音が耳にはりついたように鳴り続け、少し気が狂いそうになる。
「もう少し静かにして」
大量の霊力がこめられている水鉄砲で、穂乃が周囲を駆逐する。
だが、その姿はどうも妹に見えない。
「…誰だ?」
「《ごめんなさいね。この体なら動かせそうだと思って借りたの。
私はだいぶ昔にこの苗木の下に埋められた短冊の付喪神です》」
穂乃の体に悪いものが入ってしまったのではないかと思ったが、危険を冒してまで話しに来たのは理由があるのだろう。
「穂乃の体を借りないと外に出るのは厳しいか?」
「《この子がいてくれないとほとんど動けないもの。その育った若木の根本を掘りおこせる?》」
「…無理だな」
穂乃が憑かれたというのは納得いかないが、こうなってしまつてはしかたない。
「《私はただ、願いを叶えようと思っただけ。けれど、それは捻じ曲げられ続けて別の形になってしまった…》」
「予想外の展開になったってことか?」
「《流石に巨大な虫だの怪獣だのと望む人間がいるとは思わなかったもの。
常識の範囲内でと噂にくわえたくなったのはこれが初めてだったわ》」
「どうすれば終わらせられる?」
「《七夕をすぎれば終わるはずよ》」
あと3日以上ただ待つだけなんて、できるはずがない。
だが、嘘を言っているようには見えなかった。
「ありがとう。なんとかしてみる」
「《答えになっていないような気もするけれど、まあいいでしょう。…私にはどうしようもできないことだもの》」
「その子の体を返してくれるか?」
「《それが…勢いで入ったものだから、離れられなくなってしまったみたいなの》」
つまり、解決するまで穂乃の体に付喪神がいることになる。
強引に引き剥がせば穂乃の精神がどうなるか…誰かに肩を掴まれて顔をあげると、先生が警戒したように穂乃を見つめた。
「大丈夫だ。精神を喰らうタイプじゃない」
「《ごめんなさいね。悪気はなかったの》」
相手も反省しているようだし、私が焦っても仕方ない。
「穂乃、申し訳ないけど少し我慢してくれ。問題を解決したらすぐ出てもらうから」
幸いまだ日曜だ。
穂乃だけど穂乃じゃない1日があっても、学校までになんとかすればいい。
「やっぱりのんびり待っていられない。…私に考えがある」
失敗したらどうしよう、もし何も変えられなかったら…んな不安もあったものの覚悟を決める。
先生からもらった短冊に願い事を書いた。
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