夜紅譚

黒蝶

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第20章『近づく足音』

第175話

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文字が消えると願いが叶うのか。あるいは願いが逆行した呪いに変わるのか。
…どのみち厄介な相手だ。
「短冊そのものに何かあるんですかね?それとも、誰か管理人がいるのか…」
「どちらとも言えないな。ただ、この短冊を回収しないといけない」
何か理由がなければ説得は難しいだろう。
だが、短冊に書かれた願いをひとつひとつ精査するのも厳しい。
先生も同じことを考えていたのか、何か思いついたように話しはじめる。
「書かれていないものをすり替えることはできる。…似たものを作るのが得意な奴がいるからな」
「…そういうことか」
旧校舎の階段に、異空間へ繋がる扉が現れるらしい…今はそんな噂になっているはずだ。
決まった時間にしか辿り着けない場所であるため、暴走したときほどは広まっていない。
「御蔭さん、少しいいか?」
本来なら午前4時まで開かない場所だが、今回は緊急事態だ。
出てきてくれるか不安だったが、眠そうにしながら階段から現れた。
《なに…?緊急事態…?》
「力を貸してほしいんだ」
御蔭さんの部屋には鏡があり、様々な場所に行き来することができる。
そんな彼なら似たものを取り寄せられるかもしれない。
《基本的に見るの専門なんだけどな…》
「頼む。もう時間がない。…他に揃えられる人がいないんだ」
御蔭さんはフードをかぶったまま、ふっと小さく笑った。
《そんなに必死に頼まれたら断れないなあ…。じゃあ、最近流行ってるらしいりんごガムと交換ってことで》
「ありがとう。すぐ買ってくる」
《あと2時間くらいで揃えておくよ》
御蔭さんに言われたものを手に入れ、夜になるのを待つ。
そこへ穂乃が小走りでやってきて、困った顔をしていた。
「どうした?」
「生徒さんがひとり消えたって聞いたの。…本当なの?」
「うん。今のところはひとりだ」
「他の人も消えちゃうの?」
「他者へ危害をくわえるような内容ならな」
「よかった…。クラスの子たちが、短冊にお願いを書いちゃったって慌ててたんだ」
金曜日の夜、妹は霊力をこめた水鉄砲を持ってやる気満々だ。
「白露はどうした?」
「見回りするって言ってたよ。見つけられても手に負えないことかもしれないけどって」
「…そうか」
相手に関する情報は少ない。
取り敢えず、まだ何も書かれていない短冊を御蔭さんからもらったものにすり替える。
これで解決してくれればいい…なんて考えは甘かった。
「桜良、穂乃を頼む」
「分かりました」
それからすぐ、先生に抱えられた陽向が目に入った。
「岡副」
「俺、なんでこうなっちゃ、うん…ですかね」
「もういい。今は眠れ」
「何があった?」
陽向は血反吐を吐きながらふっと笑った。
「最悪ですよ。なんなんですかね、あれ……」
血だらけの手で1枚の短冊を渡される。
そこには顔を背けたくなる内容が書かれていた。
【大きな怪獣が見てみたい】
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