夜紅譚

黒蝶

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第20章『近づく足音』

第173話

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「何かあったのか?」
廊下でひとり立っていた白露に声をかけると、一瞬何か言いたげな表情をした後首をふった。
《特に何も》
「話してくれ。力になれるか分からないけど、様子がおかしいのを放っておくわけにはいかない」
白露はしばらく黙っていたが、観念したのか口を開いた。
《…夢を見るんだ》
「夢?どんな?」
《昔のことだ。ある人物と話していた頃の…。つまらない話をしたな》
「つまらないなんて思わないよ。言いたくないなら言わなくていいけど、それが悩みのタネになっているならもう少し詳しく聞きたい」
誰にだって、話したくない過去のひとつやふたつある。
それを強引に聞き出すつもりはなかった。
《……色々と話す仲だった。いつも話を聞くばかりだったが、悪くない時間だったな》
「前の持ち主には怒られなかったのか?」
《見つからないようにしていた。あの下衆に見つかればただではすまなかっただろうな》
白露がおかれた環境は壮絶だったはずだ。
未だに知らないことの方が多いが力になりたい。
「その夢で何か言われるのか?」
《何か言っているのは分かるが、細かいことまでは…》
「…そうか」
何かがばたばたと迫ってくる音がして身構えると、陽向が疲れた様子で駆け寄ってきた。
《俺はこれで》
「あ……」
白露を引き止めきれず、そのままいなくなってしまった。
「すみません、お邪魔でしたか?」
「…いや。何かあったのか?」
「この時期あるあるなんですけど、また短冊に関する噂が広まりつつあるみたいです。
書けばなんでも願いが叶うとか…。ただの噂ですけど、悪い変化がおきないとも限らないですよね」
「そうだな」
可愛らしい噂のままでいられればいいが、人間には悪意を持った者も多い。
欲望の渦に巻きこまれれば最後、人間に害をなすものになるだろう。
「短冊って、どの短冊でもいいのか?」
「中高の生徒会が用意したもののなかに、頼んだ覚えがない短冊が混ざっていたみたいです。
古い紙でできてるけど、風情があるってことでいいってなったみたいです」
「…もう願いを書いた生徒がいるだろうな」
「中庭行ってみましょう」
「そうだな」
毎年生徒会が計画している、七夕飾りの催し物。
ここに関する噂がおきやすく、必ずと言っていいほど暴走してしまう。
早速笹を観察していると、古い紙が結びつけられていた。
「これですかね?」
【恋が叶いますように】
【新しい洋服がほしい】
【友達と仲直りできますように】
そんな微笑ましい願いばかりならよかったが、1枚の短冊が目についた。
【みんな死んじゃえばいいんだ】
「…かなりまずいことになりそうだな」
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