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第19章『空の涙』
番外篇『見てしまった涙』
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「ここにいるのかな…」
「だといいが」
懐かしい教室に足を踏み入れて、ふたりで周りを確認する。
教室を出ようとしたら、遠くで何かが光った。
「先生!」
先生が傷ついたら、僕は…。
先生の前に出た瞬間、お腹に痛みがはしってその場に倒れこんだ。
「瞬!」
ナイフが刺さった衝撃って、こんなに強かったっけ。
自分で刺したときよりだいぶ痛いのは、睡眠薬を飲んでいないから?
「大、丈夫、大丈夫……」
表情を歪ませている先生は、ゆっくりナイフを抜いてくれたみたいだった。
痛い気もするけど、痛くない気もする。
よく分からない感覚のまま、意識が闇に引きずりこまれた。
──次に目を開けたとき、この世の終わりみたいな顔をした先生が呆然としていた。
声をかけようとしたけど、僕の手を握って掠れた声で呟く。
「またおまえを失うことになったら、俺は…」
先生は肩を震わせて俯く。
ぽたぽたと手に落ちる雫で、泣いているんだと理解した。
腕を伸ばそうとしたけど、片手は点滴の管がついているし、片手は先生が握っているしで動けない。
意外と傷が痛いのもあって、そのままもう一度寝た。
「…せんせ?」
「目が覚めたか。気分はどうだ?」
「大丈夫」
「…そうか」
先生はほっとしたように僕の脇腹をさする。
結構痛くて顔をしかめると、悲しそうな声で言った。
「いいか?絶対安静だ。しばらくはふらふらするのも禁止。ここか部屋か、それ以外は行くな」
「分かった」
「…俺がもっとちゃんと見ていれば、こんな傷を負わせずにすんだのに」
「それは違う、よ。先生、怪我してないでしょ?…それで、いいんだ。先生が、いなくなるのは…」
「失いたくないと思うのがおまえだけの感覚だと思うな」
先生の目はやっぱり赤くなっていて、泣かせてしまったんだって思ったら申し訳なくなる。
「…ごめん」
「次は自分が怪我しないようにしてくれ」
先生が授業へいったら独りになると思っていたけど、そんなことなかった。
ご飯を食べていないんじゃないかって詩乃ちゃんが持ってきてくれたり、ひな君が頼んでおいたものを持ってきてくれたり…。
だけど、先生の真っ青になっていた顔が頭に残って離れない。
「…泣かせるつもりじゃなかったのに」
「何か言ったか?」
「ううん、なんでもない」
先生が作ってくれたテストを解きながら、ふと横顔を見る。
先生の様子はいつもどおり…とまではいかなくても、少し明るくなった気がした。
先生が傷つくのは嫌だけど、あんな顔をさせたいわけじゃない。
悲しませないように気をつけようと心に決めて、目の前の問題に集中した。
「だといいが」
懐かしい教室に足を踏み入れて、ふたりで周りを確認する。
教室を出ようとしたら、遠くで何かが光った。
「先生!」
先生が傷ついたら、僕は…。
先生の前に出た瞬間、お腹に痛みがはしってその場に倒れこんだ。
「瞬!」
ナイフが刺さった衝撃って、こんなに強かったっけ。
自分で刺したときよりだいぶ痛いのは、睡眠薬を飲んでいないから?
「大、丈夫、大丈夫……」
表情を歪ませている先生は、ゆっくりナイフを抜いてくれたみたいだった。
痛い気もするけど、痛くない気もする。
よく分からない感覚のまま、意識が闇に引きずりこまれた。
──次に目を開けたとき、この世の終わりみたいな顔をした先生が呆然としていた。
声をかけようとしたけど、僕の手を握って掠れた声で呟く。
「またおまえを失うことになったら、俺は…」
先生は肩を震わせて俯く。
ぽたぽたと手に落ちる雫で、泣いているんだと理解した。
腕を伸ばそうとしたけど、片手は点滴の管がついているし、片手は先生が握っているしで動けない。
意外と傷が痛いのもあって、そのままもう一度寝た。
「…せんせ?」
「目が覚めたか。気分はどうだ?」
「大丈夫」
「…そうか」
先生はほっとしたように僕の脇腹をさする。
結構痛くて顔をしかめると、悲しそうな声で言った。
「いいか?絶対安静だ。しばらくはふらふらするのも禁止。ここか部屋か、それ以外は行くな」
「分かった」
「…俺がもっとちゃんと見ていれば、こんな傷を負わせずにすんだのに」
「それは違う、よ。先生、怪我してないでしょ?…それで、いいんだ。先生が、いなくなるのは…」
「失いたくないと思うのがおまえだけの感覚だと思うな」
先生の目はやっぱり赤くなっていて、泣かせてしまったんだって思ったら申し訳なくなる。
「…ごめん」
「次は自分が怪我しないようにしてくれ」
先生が授業へいったら独りになると思っていたけど、そんなことなかった。
ご飯を食べていないんじゃないかって詩乃ちゃんが持ってきてくれたり、ひな君が頼んでおいたものを持ってきてくれたり…。
だけど、先生の真っ青になっていた顔が頭に残って離れない。
「…泣かせるつもりじゃなかったのに」
「何か言ったか?」
「ううん、なんでもない」
先生が作ってくれたテストを解きながら、ふと横顔を見る。
先生の様子はいつもどおり…とまではいかなくても、少し明るくなった気がした。
先生が傷つくのは嫌だけど、あんな顔をさせたいわけじゃない。
悲しませないように気をつけようと心に決めて、目の前の問題に集中した。
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