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第19章『空の涙』
第171話
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《ザ、ザ…ガア!》
「今目の前にいる人物が誰か分かるか?おまえを待ち続けた人だ」
《ザザ…!》
ずっと叫び続ける男を、どうにか札の効果で抑えるしかない。
できればもう一本くらい撃ちこんでおきたかったが、もう体が重くなってきた。
「頼む。話を聞いてくれ」
《ヨグ、モ、ヨグモオ!》
「殺された恨みが強いんでしょうね。…誰だって愛する人が殺されたらそうなります」
ふらふらと立ちあがった陽向の体はもう傷がふさがっている。
外の時間は分からないが、もしかすると日が沈んだのかもしれない。
「陽向、もう一発いけそうか?」
「やります」
《お願い、彼を止めて》
震える声でそう告げた女性の肩に手をおく。
「心配しなくても、悪いようにはしない。…矢を深く突き刺してくれ」
「了解!」
穢を溜めこんだ男に、地面にめりこんだ矢を抜くことはできない。
《ウギャア!》
「身勝手な人間が苦しめてごめん。…だけど、話を聞いてほしいんだ。ずっと探していたんだろう?」
女性を男の眼前に突きつけると、今にも放たれそうだったナイフが全て消えた。
《……さざ、んか》
《空、私が分かりますか?》
《山茶花…。そこにいたんだね》
先程までとは全く違う、穏やかな雰囲気。
泣きながら微笑みあうふたりから少し距離をとる。
《ずっと感謝を伝えたかった。遅くなってしまったけれど…ありがとう。あなたが信じてくれたから、ちっとも寂しくなかった》
《君がいなくなってしまった日からずっと探していた。…会えて嬉しいよ》
《私もよ》
ふたりの会話に割って入りたくはなかったが、もうひとつ訊いておきたいことがあった。
「どうして傘の姿手助けを求めにきたんだ?」
《あっちの方が体力を温存できるから。憎しみがつもることもないし、とにかく動きやすかった》
「…そうか」
《助けてくれて…見つけてくれて、ありがとう》
《僕が怪我をさせてしまった少年はどうしているかな…?》
「今のところ問題なく回復してる」
《そうか。それだけ分かればもう充分だ。…ありがとう。あの少年とお兄さんに申し訳なかったと伝えてください》
そらと呼ばれた男性の目には涙が浮かんでいる。
《歌が綺麗な子にもお礼を伝えて》
山茶花と呼ばれた少女は口元に笑みを浮かべている。
そして、ふたりは抱きあったまま傘とともに姿を消した。
「先生のこと、お兄ちゃんだと思ってましたね」
「そうだな」
ふたりの喜びを表すように、ぽたぽたと雨粒が落ちる。
ふたりが離れ離れになることはもうない。
それを確信し、陽向とふたり旧校舎を走った。
「今目の前にいる人物が誰か分かるか?おまえを待ち続けた人だ」
《ザザ…!》
ずっと叫び続ける男を、どうにか札の効果で抑えるしかない。
できればもう一本くらい撃ちこんでおきたかったが、もう体が重くなってきた。
「頼む。話を聞いてくれ」
《ヨグ、モ、ヨグモオ!》
「殺された恨みが強いんでしょうね。…誰だって愛する人が殺されたらそうなります」
ふらふらと立ちあがった陽向の体はもう傷がふさがっている。
外の時間は分からないが、もしかすると日が沈んだのかもしれない。
「陽向、もう一発いけそうか?」
「やります」
《お願い、彼を止めて》
震える声でそう告げた女性の肩に手をおく。
「心配しなくても、悪いようにはしない。…矢を深く突き刺してくれ」
「了解!」
穢を溜めこんだ男に、地面にめりこんだ矢を抜くことはできない。
《ウギャア!》
「身勝手な人間が苦しめてごめん。…だけど、話を聞いてほしいんだ。ずっと探していたんだろう?」
女性を男の眼前に突きつけると、今にも放たれそうだったナイフが全て消えた。
《……さざ、んか》
《空、私が分かりますか?》
《山茶花…。そこにいたんだね》
先程までとは全く違う、穏やかな雰囲気。
泣きながら微笑みあうふたりから少し距離をとる。
《ずっと感謝を伝えたかった。遅くなってしまったけれど…ありがとう。あなたが信じてくれたから、ちっとも寂しくなかった》
《君がいなくなってしまった日からずっと探していた。…会えて嬉しいよ》
《私もよ》
ふたりの会話に割って入りたくはなかったが、もうひとつ訊いておきたいことがあった。
「どうして傘の姿手助けを求めにきたんだ?」
《あっちの方が体力を温存できるから。憎しみがつもることもないし、とにかく動きやすかった》
「…そうか」
《助けてくれて…見つけてくれて、ありがとう》
《僕が怪我をさせてしまった少年はどうしているかな…?》
「今のところ問題なく回復してる」
《そうか。それだけ分かればもう充分だ。…ありがとう。あの少年とお兄さんに申し訳なかったと伝えてください》
そらと呼ばれた男性の目には涙が浮かんでいる。
《歌が綺麗な子にもお礼を伝えて》
山茶花と呼ばれた少女は口元に笑みを浮かべている。
そして、ふたりは抱きあったまま傘とともに姿を消した。
「先生のこと、お兄ちゃんだと思ってましたね」
「そうだな」
ふたりの喜びを表すように、ぽたぽたと雨粒が落ちる。
ふたりが離れ離れになることはもうない。
それを確信し、陽向とふたり旧校舎を走った。
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