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第19章『空の涙』
第162話
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「詩乃ちゃん」
「どうした?」
傘をさして花壇を観察していると、瞬がこちらに向かって全力疾走していた。
「濡れたら風邪ひくぞ」
「大丈夫だよ。僕、死んでるんだし」
「体が弱ることもあるみたいだから、無理しない方がいい」
「ありがとう」
予備の傘を開いて渡すとなんとか受け取ってもらえた。
「ところで、なんであんなに慌ててたんだ?」
「あのね、新しい噂が流行りはじめたみたいで…」
瞬の話によると、名前の書かれていない黒無地の傘をさすと何かがおこるというものが広まっているらしい。
噂を恐れて傘を変えた生徒がいるようだが、名前までは分からなかったとのことだった。
「ごめん。もっとちゃんと聞けばよかった…」
「そんなことない。噂に関する情報を集められない私からしてみればすごくありがたいよ」
「ならいいけど…。他にも何か分かったらすぐ教えるね」
「そうしてくれると助かる。傘は好きに使ってくれ」
「え、ちょっと…」
そういえば、今私がさしている傘は黒無地のものだ。
特に何もおこらないが、何かあってからでは遅い。
「先輩?さぼりですか?」
「リモート講義だ。あんまり直接顔を出したくないからな…」
「俺もそうします。あんまり興味ないやつだし…分からなかったら先輩に聞いちゃっていいですか?」
「教えられる科目ならな」
大学生になって増えたのは自由時間だ。
ただ、噂の状況を確認する術が減ってしまった。
「この課題、ちんぷんかんぷんです…」
「芸術的なことか」
「選択してみたものの、よく分からないものが多くて…」
しばらく談笑した後、桜良が夜仕事の仲間で話せるように用意してくれたアプリに連絡を入れてくれた。
「何かあったのかもしれない。放送室へ行った方がいいんじゃないか?」
「そうします。…桜良?」
『聞こえてる。室星先生は授業中?』
「どうだろう…。最近忙しそうだから通話は難しいかもしれない。何があったんだ?」
少し落ち着きがない桜良に問いかけると、言いづらそうにしながら教えてくれた。
『芸術専攻の課題を完成させていたら、突然よく分からない絵の画像が送られてきたんです。
見たことがないし、作家名もなくて…。ここで共有してもいいですか?』
「いいよ。見せてくれ」
穂乃にはまだこのアプリのことを伝えていない。
陽向は通話を聞いているだろうから後で確認するだろう。
「…雨?」
『傘を持っている人の顔が描かれていないんです。それに、なんだか哀しげな雰囲気が…』
「そうだな。吸いこまれそうになる」
そういえば、突然出てきたというのはどういうことだろう。
詳しく聞こうとしたところで瞬の声が入ってきた。
『もしかして、黒無地の傘?』
「どうした?」
傘をさして花壇を観察していると、瞬がこちらに向かって全力疾走していた。
「濡れたら風邪ひくぞ」
「大丈夫だよ。僕、死んでるんだし」
「体が弱ることもあるみたいだから、無理しない方がいい」
「ありがとう」
予備の傘を開いて渡すとなんとか受け取ってもらえた。
「ところで、なんであんなに慌ててたんだ?」
「あのね、新しい噂が流行りはじめたみたいで…」
瞬の話によると、名前の書かれていない黒無地の傘をさすと何かがおこるというものが広まっているらしい。
噂を恐れて傘を変えた生徒がいるようだが、名前までは分からなかったとのことだった。
「ごめん。もっとちゃんと聞けばよかった…」
「そんなことない。噂に関する情報を集められない私からしてみればすごくありがたいよ」
「ならいいけど…。他にも何か分かったらすぐ教えるね」
「そうしてくれると助かる。傘は好きに使ってくれ」
「え、ちょっと…」
そういえば、今私がさしている傘は黒無地のものだ。
特に何もおこらないが、何かあってからでは遅い。
「先輩?さぼりですか?」
「リモート講義だ。あんまり直接顔を出したくないからな…」
「俺もそうします。あんまり興味ないやつだし…分からなかったら先輩に聞いちゃっていいですか?」
「教えられる科目ならな」
大学生になって増えたのは自由時間だ。
ただ、噂の状況を確認する術が減ってしまった。
「この課題、ちんぷんかんぷんです…」
「芸術的なことか」
「選択してみたものの、よく分からないものが多くて…」
しばらく談笑した後、桜良が夜仕事の仲間で話せるように用意してくれたアプリに連絡を入れてくれた。
「何かあったのかもしれない。放送室へ行った方がいいんじゃないか?」
「そうします。…桜良?」
『聞こえてる。室星先生は授業中?』
「どうだろう…。最近忙しそうだから通話は難しいかもしれない。何があったんだ?」
少し落ち着きがない桜良に問いかけると、言いづらそうにしながら教えてくれた。
『芸術専攻の課題を完成させていたら、突然よく分からない絵の画像が送られてきたんです。
見たことがないし、作家名もなくて…。ここで共有してもいいですか?』
「いいよ。見せてくれ」
穂乃にはまだこのアプリのことを伝えていない。
陽向は通話を聞いているだろうから後で確認するだろう。
「…雨?」
『傘を持っている人の顔が描かれていないんです。それに、なんだか哀しげな雰囲気が…』
「そうだな。吸いこまれそうになる」
そういえば、突然出てきたというのはどういうことだろう。
詳しく聞こうとしたところで瞬の声が入ってきた。
『もしかして、黒無地の傘?』
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