197 / 309
第19章『空の涙』
第162話
しおりを挟む
「詩乃ちゃん」
「どうした?」
傘をさして花壇を観察していると、瞬がこちらに向かって全力疾走していた。
「濡れたら風邪ひくぞ」
「大丈夫だよ。僕、死んでるんだし」
「体が弱ることもあるみたいだから、無理しない方がいい」
「ありがとう」
予備の傘を開いて渡すとなんとか受け取ってもらえた。
「ところで、なんであんなに慌ててたんだ?」
「あのね、新しい噂が流行りはじめたみたいで…」
瞬の話によると、名前の書かれていない黒無地の傘をさすと何かがおこるというものが広まっているらしい。
噂を恐れて傘を変えた生徒がいるようだが、名前までは分からなかったとのことだった。
「ごめん。もっとちゃんと聞けばよかった…」
「そんなことない。噂に関する情報を集められない私からしてみればすごくありがたいよ」
「ならいいけど…。他にも何か分かったらすぐ教えるね」
「そうしてくれると助かる。傘は好きに使ってくれ」
「え、ちょっと…」
そういえば、今私がさしている傘は黒無地のものだ。
特に何もおこらないが、何かあってからでは遅い。
「先輩?さぼりですか?」
「リモート講義だ。あんまり直接顔を出したくないからな…」
「俺もそうします。あんまり興味ないやつだし…分からなかったら先輩に聞いちゃっていいですか?」
「教えられる科目ならな」
大学生になって増えたのは自由時間だ。
ただ、噂の状況を確認する術が減ってしまった。
「この課題、ちんぷんかんぷんです…」
「芸術的なことか」
「選択してみたものの、よく分からないものが多くて…」
しばらく談笑した後、桜良が夜仕事の仲間で話せるように用意してくれたアプリに連絡を入れてくれた。
「何かあったのかもしれない。放送室へ行った方がいいんじゃないか?」
「そうします。…桜良?」
『聞こえてる。室星先生は授業中?』
「どうだろう…。最近忙しそうだから通話は難しいかもしれない。何があったんだ?」
少し落ち着きがない桜良に問いかけると、言いづらそうにしながら教えてくれた。
『芸術専攻の課題を完成させていたら、突然よく分からない絵の画像が送られてきたんです。
見たことがないし、作家名もなくて…。ここで共有してもいいですか?』
「いいよ。見せてくれ」
穂乃にはまだこのアプリのことを伝えていない。
陽向は通話を聞いているだろうから後で確認するだろう。
「…雨?」
『傘を持っている人の顔が描かれていないんです。それに、なんだか哀しげな雰囲気が…』
「そうだな。吸いこまれそうになる」
そういえば、突然出てきたというのはどういうことだろう。
詳しく聞こうとしたところで瞬の声が入ってきた。
『もしかして、黒無地の傘?』
「どうした?」
傘をさして花壇を観察していると、瞬がこちらに向かって全力疾走していた。
「濡れたら風邪ひくぞ」
「大丈夫だよ。僕、死んでるんだし」
「体が弱ることもあるみたいだから、無理しない方がいい」
「ありがとう」
予備の傘を開いて渡すとなんとか受け取ってもらえた。
「ところで、なんであんなに慌ててたんだ?」
「あのね、新しい噂が流行りはじめたみたいで…」
瞬の話によると、名前の書かれていない黒無地の傘をさすと何かがおこるというものが広まっているらしい。
噂を恐れて傘を変えた生徒がいるようだが、名前までは分からなかったとのことだった。
「ごめん。もっとちゃんと聞けばよかった…」
「そんなことない。噂に関する情報を集められない私からしてみればすごくありがたいよ」
「ならいいけど…。他にも何か分かったらすぐ教えるね」
「そうしてくれると助かる。傘は好きに使ってくれ」
「え、ちょっと…」
そういえば、今私がさしている傘は黒無地のものだ。
特に何もおこらないが、何かあってからでは遅い。
「先輩?さぼりですか?」
「リモート講義だ。あんまり直接顔を出したくないからな…」
「俺もそうします。あんまり興味ないやつだし…分からなかったら先輩に聞いちゃっていいですか?」
「教えられる科目ならな」
大学生になって増えたのは自由時間だ。
ただ、噂の状況を確認する術が減ってしまった。
「この課題、ちんぷんかんぷんです…」
「芸術的なことか」
「選択してみたものの、よく分からないものが多くて…」
しばらく談笑した後、桜良が夜仕事の仲間で話せるように用意してくれたアプリに連絡を入れてくれた。
「何かあったのかもしれない。放送室へ行った方がいいんじゃないか?」
「そうします。…桜良?」
『聞こえてる。室星先生は授業中?』
「どうだろう…。最近忙しそうだから通話は難しいかもしれない。何があったんだ?」
少し落ち着きがない桜良に問いかけると、言いづらそうにしながら教えてくれた。
『芸術専攻の課題を完成させていたら、突然よく分からない絵の画像が送られてきたんです。
見たことがないし、作家名もなくて…。ここで共有してもいいですか?』
「いいよ。見せてくれ」
穂乃にはまだこのアプリのことを伝えていない。
陽向は通話を聞いているだろうから後で確認するだろう。
「…雨?」
『傘を持っている人の顔が描かれていないんです。それに、なんだか哀しげな雰囲気が…』
「そうだな。吸いこまれそうになる」
そういえば、突然出てきたというのはどういうことだろう。
詳しく聞こうとしたところで瞬の声が入ってきた。
『もしかして、黒無地の傘?』
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる