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第18章『虚ろな瞳の先』
第161話
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あれから数日が経った。
旧校舎から空を泳ぐこいのぼりを見つめていると、陽向が真っ青な顔で駆け寄ってくる。
「どうした?」
「噂、聞きました?」
「富永ヒロトのことか?」
「はい。まさかあんなえげつない死に方をするなんて…」
心から謝っていない様子だったあの生徒は、凄惨な死を遂げた。
事故死として片づけられたようだが、記事を読む限り恐怖と絶望に溺れながら死んでいったのは間違いない。
「やっぱり付喪神を敵に回したら怖いですね」
「まあ、自業自得だと言われてしまえばそこまでだからな…」
「もうやらかしたのか」
その一報を知らせてくれたのは白露だった。
《四肢が通常ではありえない方向に捻じ曲げられている。校舎の裏門とやらの側で倒れていた。
…随分水を飲んでいたようだったが、近くに海や川はないだろう?》
その場しのぎの謝罪で赦されるはずがない。
はじめから予想していたこととはいえ、まさかそこまでグロテスクな状態になっていたとは思わなかった。
「あれって溺死ですかね?それとも失血死?」
「考えないようにしよう」
「…ですね」
約束したことだ、こうなる結末は変えられなかった。
だが、ひとつだけ懸念点がある。
「こいのぼりに関する噂はどうなっているか分かるか?」
「俺が知る限りでは若干曰くつきになりつつあるみたいです」
こいのぼりを破壊した犯人が富永だと、どこからか情報が漏れたようだ。
犯人が亡くなったのはこいのぼりの祟りだ、なんていわれてしまっているらしい。
「ある意味正解ですけど間違ってますよね。修正しようにもしようがないし…」
「祟りじゃなくて契約違反なんだけどな…。誰にも説明できないのが厳しいけど」
「視えない人間に信じてくれっていうのが無理な話ですよね」
「そうだな。だからこそ、私たちは忘れないようにしよう」
きっと来年も同じ時期になればあの付喪神が現れる。
今はただ、大空を泳ぐこいのぼりを楽しむことにしよう。
鰭が傷ついた子も、しっかり泳いでいるのだから。
「ひ、ひい!」
付喪神の冷たい視線が男子生徒に突き刺さる。
《もう傷つけないって言ったのに。嘘つき》
「寄るな、近づくな!」
男子生徒は近くに転がっていた石を投げつけたが、付喪神は顔色ひとつ変えず生徒の腕を掴んだ。
瞬間、骨が粉々になる音がなる。
「──!」
声にならない悲鳴をあげる生徒の体を少しずつ壊していく。
相手が声をあげなくなったのを満足気に見つめ、無表情のまま淡々と告げた。
《僕の友だちに手を出したんだ。…赦せるはずがない》
そのまま立ち去る付喪神について記された手帳を握りしめ、教師は息を吐いた。
「…これが富永ヒロトの末路か」
【折原詩乃によって救われた命を散らした愚か者の末路】
頁のタイトルを見つめ、室星は再び大きく息を吐いた。
旧校舎から空を泳ぐこいのぼりを見つめていると、陽向が真っ青な顔で駆け寄ってくる。
「どうした?」
「噂、聞きました?」
「富永ヒロトのことか?」
「はい。まさかあんなえげつない死に方をするなんて…」
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その一報を知らせてくれたのは白露だった。
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はじめから予想していたこととはいえ、まさかそこまでグロテスクな状態になっていたとは思わなかった。
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「考えないようにしよう」
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だが、ひとつだけ懸念点がある。
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「俺が知る限りでは若干曰くつきになりつつあるみたいです」
こいのぼりを破壊した犯人が富永だと、どこからか情報が漏れたようだ。
犯人が亡くなったのはこいのぼりの祟りだ、なんていわれてしまっているらしい。
「ある意味正解ですけど間違ってますよね。修正しようにもしようがないし…」
「祟りじゃなくて契約違反なんだけどな…。誰にも説明できないのが厳しいけど」
「視えない人間に信じてくれっていうのが無理な話ですよね」
「そうだな。だからこそ、私たちは忘れないようにしよう」
きっと来年も同じ時期になればあの付喪神が現れる。
今はただ、大空を泳ぐこいのぼりを楽しむことにしよう。
鰭が傷ついた子も、しっかり泳いでいるのだから。
「ひ、ひい!」
付喪神の冷たい視線が男子生徒に突き刺さる。
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男子生徒は近くに転がっていた石を投げつけたが、付喪神は顔色ひとつ変えず生徒の腕を掴んだ。
瞬間、骨が粉々になる音がなる。
「──!」
声にならない悲鳴をあげる生徒の体を少しずつ壊していく。
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《僕の友だちに手を出したんだ。…赦せるはずがない》
そのまま立ち去る付喪神について記された手帳を握りしめ、教師は息を吐いた。
「…これが富永ヒロトの末路か」
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