194 / 309
第18章『虚ろな瞳の先』
第162話
しおりを挟む
付喪神は少し考えるような仕草を見せた後、じっとこちらを見て断言した。
《断る》
「なん、で…謝っただろ!?あんなおんぼろがどうなろうが、」
「「ちょっと黙れ」」
陽向と同時に発された言葉は生徒を怯えさせるのに充分だったらしい。
「誰かにとってのがらくたは、誰かにとってかけがえのないものになる。
そういうことが考えられないから静かにしてろ」
「というか君、本気で謝ってるの?」
「あ、あ……」
首を強く絞められたのか、生徒はそのまま意識を失った。
問題は相手をどう説得するかだが、激しい怒りを感じる。…無理もない。
「ごめん。野蛮な人間ばかりじゃないんだ」
《……》
「赦してほしいとは言えないけど、もう一度だけ償う機会をあげてほしい」
付喪神は何も話さない。
このままではどうなるか…悩んでいると、後ろから聞き覚えのある声がした。
「勝手だよね、人間って。いつの間にかありがたさを忘れているんだから」
「ちび、おまえ…」
「だけど、その人誓ってたでしょ?もうやらないって」
《…そうだった》
「だから、もう少しだけ見ててほしいんだ。人間はすぐ他人を貶めるし、どうしようもないけど…信じてほしい」
瞬が言うと言葉の重みが違う。
悪意を持った人間たちからの扱いによって孤独を抱え、誰にも心を開けず自ら命を絶った。
そんな死霊の言葉が届かないはずがない。
《…君がそう言うなら》
「ありがとう」
「そのかわり、もしこの生徒が約束を破ったら私たちは干渉しない。そのときは好きにしてくれ」
《…分かった》
生徒は目を開け、怯えた様子でこちらを見ている。
瞬の姿は視えていないのだろう、私たちに頭を下げた。
「お願いします!助けてください!」
「…だったらその子に誓え。もう二度とやらないって」
「誓います!もうしませんから…」
「チャンスは一度だけだ。その後何かあっても責任はとれない。いいな?」
「は、はい!」
付喪神は満足したのか、そっと生徒の上からどいた。
その目には深い闇が写し出されていて、大体どういう末路を辿るのか察する。
「もう遅い時間だから帰った方がいい」
「は、はい!」
そそくさと立ち去る背中を見送り、ふと視線をやると付喪神が静かに姿を消したところだった。
「これでよかったんだよね?」
「ちび、おまえ…すごいかっこよかった!」
「え、なになに!?」
ふたりが楽しそうにしている…今はそれでよしとしよう。
先生にどう報告するか迷ったが、ありのままを伝えることにした。
「ふたりとも、お疲れ様。寄るところがあるから先に行くよ」
《断る》
「なん、で…謝っただろ!?あんなおんぼろがどうなろうが、」
「「ちょっと黙れ」」
陽向と同時に発された言葉は生徒を怯えさせるのに充分だったらしい。
「誰かにとってのがらくたは、誰かにとってかけがえのないものになる。
そういうことが考えられないから静かにしてろ」
「というか君、本気で謝ってるの?」
「あ、あ……」
首を強く絞められたのか、生徒はそのまま意識を失った。
問題は相手をどう説得するかだが、激しい怒りを感じる。…無理もない。
「ごめん。野蛮な人間ばかりじゃないんだ」
《……》
「赦してほしいとは言えないけど、もう一度だけ償う機会をあげてほしい」
付喪神は何も話さない。
このままではどうなるか…悩んでいると、後ろから聞き覚えのある声がした。
「勝手だよね、人間って。いつの間にかありがたさを忘れているんだから」
「ちび、おまえ…」
「だけど、その人誓ってたでしょ?もうやらないって」
《…そうだった》
「だから、もう少しだけ見ててほしいんだ。人間はすぐ他人を貶めるし、どうしようもないけど…信じてほしい」
瞬が言うと言葉の重みが違う。
悪意を持った人間たちからの扱いによって孤独を抱え、誰にも心を開けず自ら命を絶った。
そんな死霊の言葉が届かないはずがない。
《…君がそう言うなら》
「ありがとう」
「そのかわり、もしこの生徒が約束を破ったら私たちは干渉しない。そのときは好きにしてくれ」
《…分かった》
生徒は目を開け、怯えた様子でこちらを見ている。
瞬の姿は視えていないのだろう、私たちに頭を下げた。
「お願いします!助けてください!」
「…だったらその子に誓え。もう二度とやらないって」
「誓います!もうしませんから…」
「チャンスは一度だけだ。その後何かあっても責任はとれない。いいな?」
「は、はい!」
付喪神は満足したのか、そっと生徒の上からどいた。
その目には深い闇が写し出されていて、大体どういう末路を辿るのか察する。
「もう遅い時間だから帰った方がいい」
「は、はい!」
そそくさと立ち去る背中を見送り、ふと視線をやると付喪神が静かに姿を消したところだった。
「これでよかったんだよね?」
「ちび、おまえ…すごいかっこよかった!」
「え、なになに!?」
ふたりが楽しそうにしている…今はそれでよしとしよう。
先生にどう報告するか迷ったが、ありのままを伝えることにした。
「ふたりとも、お疲れ様。寄るところがあるから先に行くよ」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百々五十六の小問集合
百々 五十六
ライト文芸
不定期に短編を上げるよ
ランキング頑張りたい!!!
作品内で、章分けが必要ないような作品は全て、ここに入れていきます。
毎日投稿頑張るのでぜひぜひ、いいね、しおり、お気に入り登録、よろしくお願いします。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
嘘つき師匠と弟子
聖 みいけ
ファンタジー
見事な満月の晩。その魔術師は幼い少年をひろった
驚くほど鮮やかな青の瞳をした少年は、魔術師と会った晩のことを何も覚えていなかった
少年の心を守るため、魔術師は小さな嘘をつく
「お前を俺の弟子にすることにした」
精霊と共に、世界を気ままに旅する強面の魔術師が、人形のような幼い少年を子守りする話
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
プラトニック添い寝フレンド
天野アンジェラ
ライト文芸
※8/25(金)完結しました※
※交互視点で話が進みます。スタートは理雄、次が伊月です※
恋愛にすっかり嫌気がさし、今はボーイズグループの推し活が趣味の鈴鹿伊月(すずか・いつき)、34歳。
伊月の職場の先輩で、若い頃の離婚経験から恋愛を避けて生きてきた大宮理雄(おおみや・りおう)41歳。
ある日二人で飲んでいたら、伊月が「ソフレがほしい」と言い出し、それにうっかり同調してしまった理雄は伊月のソフレになる羽目に。
先行きに不安を感じつつもとりあえずソフレ関係を始めてみるが――?
(表紙イラスト:カザキ様)
峽(はざま)
黒蝶
ライト文芸
私には、誰にも言えない秘密がある。
どうなるのかなんて分からない。
そんな私の日常の物語。
※病気に偏見をお持ちの方は読まないでください。
※症状はあくまで一例です。
※『*』の印がある話は若干の吸血表現があります。
※読んだあと体調が悪くなられても責任は負いかねます。
自己責任でお読みください。
【受賞】約束のクローバー ~僕が自ら歩く理由~
朱村びすりん
ライト文芸
【第6回ほっこり・じんわり大賞】にて《涙じんわり賞》を受賞しました! 応援してくださった全ての方に心より御礼申し上げます。
~あらすじ~
小学五年生のコウキは、軽度の脳性麻痺によって生まれつき身体の一部が不自由である。とくに右脚の麻痺が強く、筋肉が強張ってしまう。ロフストランド杖と装具がなければ、自力で歩くことさえ困難だった。
ほとんどの知人や友人はコウキの身体について理解してくれているが、中には意地悪くするクラスメイトもいた。
町を歩けば見ず知らずの人に不思議な目で見られることもある。
それでもコウキは、日々前向きに生きていた。
「手術を受けてみない?」
ある日、母の一言がきっかけでコウキは【選択的脊髄後根遮断術(SDR)】という手術の存在を知る。
病院で詳しい話を聞くと、その手術は想像以上に大がかりで、入院が二カ月以上も必要とのこと。
しかし術後のリハビリをこなしていけば、今よりも歩行が安定する可能性があるのだという。
十歳である今でも、大人の付き添いがなければ基本的に外を出歩けないコウキは、ひとつの希望として手術を受けることにした。
保育園の時から付き合いがある幼なじみのユナにその話をすると、彼女はあるものをコウキに手渡す。それは、ひとつ葉のクローバーを手に持ちながら、力強く二本脚で立つ猫のキーホルダーだった。
ひとつ葉のクローバーの花言葉は『困難に打ち勝つ』。
コウキの手術が成功するよう、願いが込められたお守りである。
コウキとユナは、いつか自由気ままに二人で町の中を散歩しようと約束を交わしたのだった。
果たしてコウキは、自らの脚で不自由なく歩くことができるのだろうか──
かけがえのない友との出会い、親子の絆、少年少女の成長を描いた、ヒューマンストーリー。
※この物語は実話を基にしたフィクションです。
登場する一部の人物や施設は実在するものをモデルにしていますが、設定や名称等ストーリーの大部分を脚色しています。
また、物語上で行われる手術「選択的脊髄後根遮断術(SDR)」を受ける推奨年齢は平均五歳前後とされております。医師の意見や見解、該当者の年齢、障害の重さや特徴等によって、検査やリハビリ治療の内容に個人差があります。
物語に登場する主人公の私生活等は、全ての脳性麻痺の方に当てはまるわけではありませんのでご理解ください。
◆2023年8月16日完結しました。
・素敵な表紙絵をちゅるぎ様に描いていただきました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる