夜紅譚

黒蝶

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第18章『虚ろな瞳の先』

第162話

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付喪神は少し考えるような仕草を見せた後、じっとこちらを見て断言した。
《断る》
「なん、で…謝っただろ!?あんなおんぼろがどうなろうが、」
「「ちょっと黙れ」」
陽向と同時に発された言葉は生徒を怯えさせるのに充分だったらしい。
「誰かにとってのがらくたは、誰かにとってかけがえのないものになる。
そういうことが考えられないから静かにしてろ」
「というか君、本気で謝ってるの?」
「あ、あ……」
首を強く絞められたのか、生徒はそのまま意識を失った。
問題は相手をどう説得するかだが、激しい怒りを感じる。…無理もない。
「ごめん。野蛮な人間ばかりじゃないんだ」
《……》
「赦してほしいとは言えないけど、もう一度だけ償う機会をあげてほしい」
付喪神は何も話さない。
このままではどうなるか…悩んでいると、後ろから聞き覚えのある声がした。
「勝手だよね、人間って。いつの間にかありがたさを忘れているんだから」
「ちび、おまえ…」
「だけど、その人誓ってたでしょ?もうやらないって」
《…そうだった》
「だから、もう少しだけ見ててほしいんだ。人間はすぐ他人を貶めるし、どうしようもないけど…信じてほしい」
瞬が言うと言葉の重みが違う。
悪意を持った人間たちからの扱いによって孤独を抱え、誰にも心を開けず自ら命を絶った。
そんな死霊の言葉が届かないはずがない。
《…君がそう言うなら》
「ありがとう」
「そのかわり、もしこの生徒が約束を破ったら私たちは干渉しない。そのときは好きにしてくれ」
《…分かった》
生徒は目を開け、怯えた様子でこちらを見ている。
瞬の姿は視えていないのだろう、私たちに頭を下げた。
「お願いします!助けてください!」
「…だったらその子に誓え。もう二度とやらないって」
「誓います!もうしませんから…」
「チャンスは一度だけだ。その後何かあっても責任はとれない。いいな?」
「は、はい!」
付喪神は満足したのか、そっと生徒の上からどいた。
その目には深い闇が写し出されていて、大体どういう末路を辿るのか察する。
「もう遅い時間だから帰った方がいい」
「は、はい!」
そそくさと立ち去る背中を見送り、ふと視線をやると付喪神が静かに姿を消したところだった。
「これでよかったんだよね?」
「ちび、おまえ…すごいかっこよかった!」
「え、なになに!?」
ふたりが楽しそうにしている…今はそれでよしとしよう。
先生にどう報告するか迷ったが、ありのままを伝えることにした。
「ふたりとも、お疲れ様。寄るところがあるから先に行くよ」
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