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第18章『虚ろな瞳の先』
第160話
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攻撃しようとしてふと気づいた。
「…瞬」
「どうかした?」
「あれの左側には絶対当てるな。いいな?」
「え……」
呆然とするのも無理はない。
まさか相手の口から人間の腕のようなものがはみ出ているなんて、誰も考えないだろう。
「包丁で右側を狙え。いいな?」
「う、うん」
震える瞬の手に自分の手を添え、一文字に切り裂く。
《ギャア!》
「──燃えろ」
傷口を焼くように相手の体に炎を当て、何とか中に入っていた人間を取り出した。
「そ、その人、生徒だね」
「ああ」
まだ息がある。今なら間に合うかもしれない。
「瞬、走れるか?」
「うん。頑張る」
「この時間なら先生は高校棟にいるはずだ。新校舎の保健室にいるから知らせてくれ」
「分かった」
瞬に斬らせてしまったことを申し訳なく思いつつ、なんとか生徒を運ぶ。
その生徒の腕にはペンだこができていた。
「…瞬は大丈夫か?」
「ああ。おまえが支えてくれたから平気だったって」
先生の後ろからひょこっと顔を出した瞬は少しすっきりしている。
「ごめん。辛かっただろ」
「ううん。詩乃ちゃんがいてくれたから大丈夫だったよ。…だって、いつももっと辛い思いをしてるでしょ?」
…グロテスクなものが苦手なのに一緒に戦ってくれたのはそれが理由か。
瞬は先生の服にしがみついたままそう言って笑う。
「苦しくならなかったか?」
「…うん」
誤魔化しているのは明らかだ。
どう話しかけようか考えていると、眠っていた生徒がゆっくり体を起こした。
「伊藤弥彦さん、だったか」
「なんで僕の名前…憲兵姫?」
「率直に訊こう。君は助けを必要としているか?」
「それは…」
持っていた紙の束を見て、少年の顔はどんどん青ざめていく。
「この紙の後ろに模様みたいなボールペンの跡がついているのが気になって調べたんだ。
…これを書いたのが君なら、安心して話してほしい」
話してもらえないと思っていたが、相手は握りしめた拳を震わせ涙を流している。
余程辛い思いをしてきたのだろう。
少年はひと呼吸おいて話しはじめた。
「…僕は、やめた方がいいって言ったんです。でも、富永君が怖くて、止めきれなくて…。
もしばらしたら、おまえの秘密を世界中に配信するって言われてやりました」
「紙を入れただけってことか?」
「はい。犯人は自分だって言えって…妹に何かされたらと思うと、怖くて…」
「妹さんが狙われると思った理由は?」
先生からの質問に驚いた顔をしていたが、はっきり答えてくれた。
「…妹は病弱で、家でひとりでいる時間が多いんです。富永君の家が近所で逃げられません」
「…瞬」
「どうかした?」
「あれの左側には絶対当てるな。いいな?」
「え……」
呆然とするのも無理はない。
まさか相手の口から人間の腕のようなものがはみ出ているなんて、誰も考えないだろう。
「包丁で右側を狙え。いいな?」
「う、うん」
震える瞬の手に自分の手を添え、一文字に切り裂く。
《ギャア!》
「──燃えろ」
傷口を焼くように相手の体に炎を当て、何とか中に入っていた人間を取り出した。
「そ、その人、生徒だね」
「ああ」
まだ息がある。今なら間に合うかもしれない。
「瞬、走れるか?」
「うん。頑張る」
「この時間なら先生は高校棟にいるはずだ。新校舎の保健室にいるから知らせてくれ」
「分かった」
瞬に斬らせてしまったことを申し訳なく思いつつ、なんとか生徒を運ぶ。
その生徒の腕にはペンだこができていた。
「…瞬は大丈夫か?」
「ああ。おまえが支えてくれたから平気だったって」
先生の後ろからひょこっと顔を出した瞬は少しすっきりしている。
「ごめん。辛かっただろ」
「ううん。詩乃ちゃんがいてくれたから大丈夫だったよ。…だって、いつももっと辛い思いをしてるでしょ?」
…グロテスクなものが苦手なのに一緒に戦ってくれたのはそれが理由か。
瞬は先生の服にしがみついたままそう言って笑う。
「苦しくならなかったか?」
「…うん」
誤魔化しているのは明らかだ。
どう話しかけようか考えていると、眠っていた生徒がゆっくり体を起こした。
「伊藤弥彦さん、だったか」
「なんで僕の名前…憲兵姫?」
「率直に訊こう。君は助けを必要としているか?」
「それは…」
持っていた紙の束を見て、少年の顔はどんどん青ざめていく。
「この紙の後ろに模様みたいなボールペンの跡がついているのが気になって調べたんだ。
…これを書いたのが君なら、安心して話してほしい」
話してもらえないと思っていたが、相手は握りしめた拳を震わせ涙を流している。
余程辛い思いをしてきたのだろう。
少年はひと呼吸おいて話しはじめた。
「…僕は、やめた方がいいって言ったんです。でも、富永君が怖くて、止めきれなくて…。
もしばらしたら、おまえの秘密を世界中に配信するって言われてやりました」
「紙を入れただけってことか?」
「はい。犯人は自分だって言えって…妹に何かされたらと思うと、怖くて…」
「妹さんが狙われると思った理由は?」
先生からの質問に驚いた顔をしていたが、はっきり答えてくれた。
「…妹は病弱で、家でひとりでいる時間が多いんです。富永君の家が近所で逃げられません」
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