夜紅譚

黒蝶

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第18章『虚ろな瞳の先』

第157話

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いつの間にかインカムの電源が入っていたらしい。
陽向が聞いてくれるなら、顔見知りが多い場所で聞いてみることにしよう。
「お疲れ様でした」
「詩乃ちゃん、お疲れ」
「すみません店長。ちょっとお願いがあって…」
店長に頼んだのは、烏合学園の生徒が来たらこいのぼりの話をそれとなくしてみてほしいということだ。
「うちには軽音楽部の生徒さんも来るし、自分たちでバンド活動している子たちも顔馴染みだから訊いてみるよ。
もし何か聞けたらメッセージ送っても大丈夫?」
「はい。…すみません」
「謝ることないよ。それに、詩乃ちゃんが俺に頼み事なんて珍しいからね。
他の店にも話しておくよ。手首、お大事に」
「ありがとうございます」
正直言って大量の人間を相手する事態は避けたかった。
やはり一定の関係を築けている人以外と話すのは苦手だ。
楽器屋と猫カフェの店長は人と話すのが上手いから、それとなく話を聞いてくれるんじゃないかと思った。
「お疲れ様でした」
流石に夜の書店に顔を出す生徒は少ないだろうし、喫茶店も常連さんがほとんどだ。
もっと情報を集めなければならないが、もうひとつ案があった。
「目安箱ですか?」
「それに近いものだな。しばらくお試しでやったことがあっただろ?」
「そういえばありましたね」
深夜の旧校舎、陽向と合流して作戦を考える。
「文字何か見た生徒がいても、誰かに話を聞かれているんじゃないかって不安になったら来てくれない」
「ですね。だったら、困りごとを相談する場という名目で設置して証言を集められればいい…」
「そういうことだ」
生徒たちの困りごとを解決するために監査部主導で設置するということになれば、教員たちも文句を言いづらいだろう。
以前試したときは割と効果があったが、心無い人間によって破壊されてしまった。
「これならそう簡単に壊されないだろう」
「先輩、日曜大工もできるんですね」
「瞬に教えてもらったんだ。私だけだったらここまで丁寧にできなかった」
細かい作業が得意な瞬にやり方を聞きながら用意したそれは、翌朝から早速効果を発揮したようだ。
「お姉ちゃん」
「どうした?」
「あの意見箱、お姉ちゃんが作ったんだよね?」
「一応は。何かあったのか?」
「これ…朝、中を確認したら入ってたんだ」
そこには、書きなぐられたごめんなさいの文字の羅列。
「こいのぼりのことだと思うか?」
「中等部の監査部ではそういう方向で話しあいになってるよ」
「そうか…」
「だけど、高等部の方にも同じ内容の紙が入ってたんだって。ちょっと変だよね」
その紙を入れた生徒を探す…それもまた時間がかかりそうだ。
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