夜紅譚

黒蝶

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第17章『名を奪う者』

番外篇『秘密の買い物』

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「これがお願いか?」
「うん。いつも色々やってもらっているから、僕も何かおかえししたかったんだ」
生きていた頃は使ったことがなくて、サイトには入れてもやり方が分からなくてずっと困ってた。
それが今、叶いそうになっている。
「まさかネット通販の方法を教えてほしいなんて言われるとは思ってなかった」
「だって、先生にも履歴が分かるようになってるはずだから内緒で注文できなくて…」
結局、詩乃ちゃんの端末から入らせてもらっている。
色々な商品が並んでいるけど、今日の目的は決まっていた。
「まさか来てほしい場所がもう使われていない音楽室だとは思わなかったよ」
もうだいぶ前にピアノが壊れて空き教室になってしまったらしい音楽室。
ここはまだ先生に見つかっていないはずだ。
「何がほしいんだ?」
「えっと…これ」
「先生、手荒れがひどいのか?」
「見る限りだけどね。実はシャンプーとか化粧水とか、合わないものだらけで困ってるんだよ」
「知らなかった」
先生のことは、他のみんなよりは詳しい。
研修旅行のとき、ホテルの備え付けのシャンプーが使えなくて困っていたのを覚えている。
【こんな夜にどこへ行こうとしてる?】
【……ハンカチ、汚しちゃったから】
【補導されるだろ。ほら】
近くのコンビニまで歩いて、替えの包帯まで用意してくれた。
…あのときは先生の気遣いでひとり部屋にしてもらえたんだったな。
「懐かしいものでもあったか?」
「あ、うん。ちょっと色々思い出してただけ…」
懐かしいことを思い出した。
ずっと助けられていたのに、絶望だらけになった僕はそんな時間も思い出せなかったんだ。
「……」
「どうしたの?」
「支払先の設定をしているだけだよ。私の家に届くようにしておくから、届いたらすぐ渡すよ」
「ありがとう。お金はこれで足りると思うんだけど…」
「丁度だ。あとこれ、今月の給料だ」
「ありがとう」
詩乃ちゃんとひな君のおかげで、インターネットを使った内職ができている。
ひな君からもらった分もあるし、これでまたいつか出掛けるときのために貯めておけると思ったらほっとした。
「楽しそうだな」
「早く届くといいなって思って…。あと、先生がどんな反応をするのか想像したらわくわくしちゃって」
先生は驚いてくれるだろうか。
…そもそも、喜んでもらえるのかな。
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