夜紅譚

黒蝶

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第17章『名を奪う者』

第154話

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「また無茶しましたね?」
「…ごめん」
先生から周囲を警戒するよう言われたらしい陽向は顔を真っ青にしてやってきた。
瞬はふくれっつらでこちらを凝視している。
「ふたりとも、ありがとう。名取さんたちをなんとか成仏させられたのはふたりのおかげだ」
「なんですか、それ…。そんなこと言われたら文句言えないじゃないですか」
「まさかあんな攻撃を繰り出してくるとは思わなかったんだ」
診断結果は全身打撲と手首の捻挫。
これでは弓が使いづらいので少々困っている。
「もっと僕たちにも話してよ。詩乃ちゃんはすぐひとりで背負っちゃうんだから…」
「ごめん。これでも今回は焦っていたんだ」
名前を失えばどうなってしまうか分からない。
そんな状況で周りに迷惑をかけることだけは避けたかった。
早期解決案件ではあるものの、あのふたりを強引に祓ってしまえばいいとも思えない。
そんななかどうにかできたのがこれだけだった。
「お姉ちゃん」
「穂乃…昨日は帰れなくてごめん」
「夕飯作って待ってるから、今日は絶対帰ってきてね」
「分かった。約束する」
「夜仕事は私もついていく」
「金曜日だからな…」
中学生にこんな顔をさせてしまって申し訳ない。
今にも泣き出しそうな穂乃の頭にそっと手をやると、ぷるぷる体を震わせて泣きはじめた。
「あ、先輩が泣かせた!」
「ごめん」
「私、お姉ちゃんがいなくなったら……。白露がいても、さ、寂しい…」
「ごめん。泣かせるつもりじゃなかったんだ」
母が死んだ日のことを思い出すと、穂乃の気持ちはなんとなく分かる。
誰にも頼れず、心のどこかに孤独が巣食っていて…とにかく不安だらけだった。
「私はいなくならないよ」
「本当…?」
「ああ。そのつもりだ」
少なくとも、今の半妖状態で穂乃より先に死ぬことはない。
致命傷を負わない限り、そう簡単にやられたりしないだろう。
…先生以外は知らない話だが。
「仲良しだね」
穂乃が教室へ行った後、瞬が微笑ましそうにしている。
瞬の家庭環境を知っている以上、傷つけないよう返す言葉を選ばなければならない。
「…そうだな。自慢の妹だ」
瞬の表情が曇らなかったのを確認しつつ、気になったことがあった。
「いなくなった人たちはどうなった?」
「戻ってきてるみたいですよ。全員は確認できてませんけど…」
「それはよかった」
陽向の答えに安堵する。
すると、瞬が言いづらそうにしながら声をかけてくれた。
「詩乃ちゃんがもうちょっとよくなったら、一緒に行ってほしい場所があるんだ」
「私でよければ」
「ありがとう」
どんな内容かは分からないが、瞬の頼みなら叶えたい。
ただ、その前にあのふたりを弔える場所を作りたいと思った。
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