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第17章『名を奪う者』
第153話
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《オマエ、モラウ》
「……っ、げほ!」
地面にたたきつけられ、全身に痛みを感じる。
《……ナマエ?》
「それは、私のか?」
《オイジイ》
……そういえば、私の名前ってなんだっけ。
《だから早く殺してくれと言ったのに》
銃が私に向けられた瞬間、細い糸がひかれる。
「何をやっているんだ」
「…先生?」
先生の怒っている顔が視界いっぱいにうつる。
「折原」
そうか、私は折原……
体が怠くて目を閉じる。
そのとき感じたものは、もういなくなってしまった人の存在だった。
【自由に生きてほしいという意味をこめたの。ほら、詩って色々なものから心を解き放って創られるものだから…。
だから、あの人たちに縛られなくていいのよ。お母さんはあなたの味方だからね】
──詩乃
「ひとつ教えてくれ。…おまえはただ、名取幸太郎を護りたいだけなんだろ?」
「折原、おまえ…」
全身が怠いがそんなことを気にしていられない。
「言いたいことがあるなら言っていいんだ。心は自由なんだから」
《ゴウ、ダ》
《マサ、俺が分かるか?》
《こう、た……》
「おまえは小林正次。小林家の跡取りとして縛られ続けた男だ」
怨霊は頭を抱え慟哭する。
《一体何をした?》
銃を向けられるのなんてもう慣れている。
「さっき投げた札があっただろ?…あれの残り火で縛りつけていた楔を焼いた」
《幸、太郎…》
《マサ!》
《ごめん。僕が弱いからあんな事になって、他の人たちも傷つけて…》
《いいんだ。おまえが自由になれたならこれ以上何も望まない》
抱きあって喜ぶふたりにホットケーキを渡す。
《…なんだこれは》
「ごめん。先に渡そうと思っていたのに、結局戦闘になってタイミングが分からなくなった」
《…俺たちに親切にしてくれるんだな》
「困っている人がいたら助けたいし、あれだけ動きまわっていたらお腹も減るだろう?」
《…すごいな、おまえは》
ふたりはホットケーキを食べた後、手を取り合ってどこかへ向かうようだった。
「行けそうか?」
《もう大丈夫だ。体が軽い》
《僕たちを助けてくれてありがとう》
小林正次から何かを手渡され、ふたりはそのまま姿を消した。
「何をもらったんだ?」
「…今の私に必要なもの、かな」
「そうか」
先生は深く訊かないでいてくれた。
黄色の玉…やはりこれを集めることに意味があるらしい。
あのふたりは希望の道を進めているだろうか。
…きっと大丈夫だと信じるしかない。
全身の痛みに耐えきれず、その場で崩れ落ちる。
「その体で動けていたのが不思議なくらいだ」
「…ごめん」
先生は折りたたみ式の車椅子に私を乗せて、そのまま保健室まで押してくれた。
名前を思い出せたのは、あの人のおかげだ。
もう会えなくても、どこかで見守ってくれていると信じたい。
「…ありがとう、お母さん」
「……っ、げほ!」
地面にたたきつけられ、全身に痛みを感じる。
《……ナマエ?》
「それは、私のか?」
《オイジイ》
……そういえば、私の名前ってなんだっけ。
《だから早く殺してくれと言ったのに》
銃が私に向けられた瞬間、細い糸がひかれる。
「何をやっているんだ」
「…先生?」
先生の怒っている顔が視界いっぱいにうつる。
「折原」
そうか、私は折原……
体が怠くて目を閉じる。
そのとき感じたものは、もういなくなってしまった人の存在だった。
【自由に生きてほしいという意味をこめたの。ほら、詩って色々なものから心を解き放って創られるものだから…。
だから、あの人たちに縛られなくていいのよ。お母さんはあなたの味方だからね】
──詩乃
「ひとつ教えてくれ。…おまえはただ、名取幸太郎を護りたいだけなんだろ?」
「折原、おまえ…」
全身が怠いがそんなことを気にしていられない。
「言いたいことがあるなら言っていいんだ。心は自由なんだから」
《ゴウ、ダ》
《マサ、俺が分かるか?》
《こう、た……》
「おまえは小林正次。小林家の跡取りとして縛られ続けた男だ」
怨霊は頭を抱え慟哭する。
《一体何をした?》
銃を向けられるのなんてもう慣れている。
「さっき投げた札があっただろ?…あれの残り火で縛りつけていた楔を焼いた」
《幸、太郎…》
《マサ!》
《ごめん。僕が弱いからあんな事になって、他の人たちも傷つけて…》
《いいんだ。おまえが自由になれたならこれ以上何も望まない》
抱きあって喜ぶふたりにホットケーキを渡す。
《…なんだこれは》
「ごめん。先に渡そうと思っていたのに、結局戦闘になってタイミングが分からなくなった」
《…俺たちに親切にしてくれるんだな》
「困っている人がいたら助けたいし、あれだけ動きまわっていたらお腹も減るだろう?」
《…すごいな、おまえは》
ふたりはホットケーキを食べた後、手を取り合ってどこかへ向かうようだった。
「行けそうか?」
《もう大丈夫だ。体が軽い》
《僕たちを助けてくれてありがとう》
小林正次から何かを手渡され、ふたりはそのまま姿を消した。
「何をもらったんだ?」
「…今の私に必要なもの、かな」
「そうか」
先生は深く訊かないでいてくれた。
黄色の玉…やはりこれを集めることに意味があるらしい。
あのふたりは希望の道を進めているだろうか。
…きっと大丈夫だと信じるしかない。
全身の痛みに耐えきれず、その場で崩れ落ちる。
「その体で動けていたのが不思議なくらいだ」
「…ごめん」
先生は折りたたみ式の車椅子に私を乗せて、そのまま保健室まで押してくれた。
名前を思い出せたのは、あの人のおかげだ。
もう会えなくても、どこかで見守ってくれていると信じたい。
「…ありがとう、お母さん」
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