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第17章『名を奪う者』
第151話
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「桜良先輩…あれ、お姉ちゃんたちもいる」
「穂乃か。お疲れ様」
もう放課後の時間か。
邪魔にならないよう退散しようとしたが、穂乃に引き止められた。
「もし時間があるなら、今のうちに書いてもらってもいい?」
「分かった。すぐ書くよ」
毎年書いてきた、家族の緊急連絡先カード。
だが、ふと分からなくなったことがあった。
「お姉ちゃんの名前を書いたら終わりだよ?」
「そうだな」
……分からない。
私の下の名前、なんだっただろう。
「放送しなくていいの?」
「あ、そうだった…!」
穂乃が放送しているのを聞きながら絞り出そうとしたが、やはり思い出せない。
そんな様子を察してか、桜良から1枚のメモを渡された。
【折原詩乃先輩】
「…ありがとう」
桜良は心配そうにこちらを見つめていたが、穂乃に知られたくないことは話しておいたため何も言わずにいてくれた。
文字を見ると思い出す。…覚えておこう。
「お姉ちゃん、終わった?」
「うん。これで不備はないと思う」
「ありがとう!早速出してくるね」
穂乃が去った後、結月に肩をたたかれた。
「あんた、記憶がちょっと曖昧なんじゃない?」
「…そうみたいだ。一瞬名前が出てこなかった」
名字は唐牛で思い出せたが、どうしても名前が出てこなかった。
「そろそろ決着をつけないと、あんた消されるわよ」
「そうだな」
まさかここまで早いとは思っていなかった。
焦燥感が溢れそうになるのを抑えつつ、保健室へ向かうからと放送室を出る。
「…意外と怖いものだな」
先生に言われたことを思い出し、そんな言葉を呟いていた。
誰もいない廊下を歩いていると、背後から銃を突きつけられる。
《一緒に来てもらおうか》
一度名前を奪った相手のことを覚えていないのか、名前を奪われたからなのか。
インカムの電源を入れ、大人しくついて行ってみる。
「今日はバイトなんだ。なるべく早く終わらせてくれないか?」
《俺がそんなことを聞くとでも?》
「聞いてくれるよ。迷惑をかけるのが嫌なんだろ?だったら、私が迷惑をかけたくない気持ちも分かってくれるはずだ」
《……今夜だ》
「ありがとう。ここに来ればいいのか?」
旧校舎屋上へ続く階段…図書室近く。
それだけ分かれば問題ない。
《おかしな奴だ》
男はそれだけ言うと姿を消した。
『詩乃先輩』
「ごめん桜良。聞いていてくれてありがとう」
『……いえ』
「今夜で決着がつきそうだ」
陽向と見たものとは別の大鏡があるが、自分の姿形だけで中に人影は見えない。
『他のみんなにも共有しておきます』
「ありがとう」
嘘かもしれない私の話を信じてくれるような奴が悪人だとは思えない。
そのままバイト先へ向かい、情報収集しつつ夜になるのを待った。
「穂乃か。お疲れ様」
もう放課後の時間か。
邪魔にならないよう退散しようとしたが、穂乃に引き止められた。
「もし時間があるなら、今のうちに書いてもらってもいい?」
「分かった。すぐ書くよ」
毎年書いてきた、家族の緊急連絡先カード。
だが、ふと分からなくなったことがあった。
「お姉ちゃんの名前を書いたら終わりだよ?」
「そうだな」
……分からない。
私の下の名前、なんだっただろう。
「放送しなくていいの?」
「あ、そうだった…!」
穂乃が放送しているのを聞きながら絞り出そうとしたが、やはり思い出せない。
そんな様子を察してか、桜良から1枚のメモを渡された。
【折原詩乃先輩】
「…ありがとう」
桜良は心配そうにこちらを見つめていたが、穂乃に知られたくないことは話しておいたため何も言わずにいてくれた。
文字を見ると思い出す。…覚えておこう。
「お姉ちゃん、終わった?」
「うん。これで不備はないと思う」
「ありがとう!早速出してくるね」
穂乃が去った後、結月に肩をたたかれた。
「あんた、記憶がちょっと曖昧なんじゃない?」
「…そうみたいだ。一瞬名前が出てこなかった」
名字は唐牛で思い出せたが、どうしても名前が出てこなかった。
「そろそろ決着をつけないと、あんた消されるわよ」
「そうだな」
まさかここまで早いとは思っていなかった。
焦燥感が溢れそうになるのを抑えつつ、保健室へ向かうからと放送室を出る。
「…意外と怖いものだな」
先生に言われたことを思い出し、そんな言葉を呟いていた。
誰もいない廊下を歩いていると、背後から銃を突きつけられる。
《一緒に来てもらおうか》
一度名前を奪った相手のことを覚えていないのか、名前を奪われたからなのか。
インカムの電源を入れ、大人しくついて行ってみる。
「今日はバイトなんだ。なるべく早く終わらせてくれないか?」
《俺がそんなことを聞くとでも?》
「聞いてくれるよ。迷惑をかけるのが嫌なんだろ?だったら、私が迷惑をかけたくない気持ちも分かってくれるはずだ」
《……今夜だ》
「ありがとう。ここに来ればいいのか?」
旧校舎屋上へ続く階段…図書室近く。
それだけ分かれば問題ない。
《おかしな奴だ》
男はそれだけ言うと姿を消した。
『詩乃先輩』
「ごめん桜良。聞いていてくれてありがとう」
『……いえ』
「今夜で決着がつきそうだ」
陽向と見たものとは別の大鏡があるが、自分の姿形だけで中に人影は見えない。
『他のみんなにも共有しておきます』
「ありがとう」
嘘かもしれない私の話を信じてくれるような奴が悪人だとは思えない。
そのままバイト先へ向かい、情報収集しつつ夜になるのを待った。
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