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第17章『名を奪う者』
第150話
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名前のないファイル。
それが嫌がらせではないことはよく分かっている。
「…折原」
「このファイル、先生が用意してくれたんだろ?名前を書いたら、いないはずの生徒の名前のファイルだって騒ぎになるもんな」
「すまない」
「先生が謝ることじゃないよ」
誰が悪いわけでもない。
噂好きな人間たちが噺を面白おかしく流行らせてしまった結果だ。
私からすれば面白くもないが、視えない人間からすればただの物語でしかない。
「空白のファイルには必要書類があるので消さないでほしいと伝えてある」
「そうか。…中原さん、やっぱり忘れちゃったんだな」
こればかりはしかたない。
たまたま穂乃の書類を提出するために入った中学職員室でもきょとんとされたし、すれ違う相手は憲兵姫としか呼ばないから忘れられる以前の問題だ。
「おまえの名前は?」
「折原詩乃。大丈夫、まだ忘れてない」
「…そうか」
瞬が青ざめた顔で駆け寄ってきて、先生に勢いよく抱きついた。
「どうした?」
「あのね、さっき…人が、目の前から消えて……探してって」
「被害者か、岡副と折原が視たっていう奪われた名前か…判別できないがおそらく後者だろうな」
「そうだな。…その子、どんな子だった?」
瞬から聞いた見た目は覚えがあるものだったが、そうかとかえすことしかできない。
「私はリモートで講義を受けてくるよ」
「気をつけろ」
「うん。ありがとう」
ふたりに見つからないよう中庭へ向かう。
──そこにいたのは、間違いなくあの銀髪の少女だった。
「名を奪われたよ。もうすぐ誰も分からなくなるかもしれない」
《……ごめんなさい》
「おまえのせいじゃないんだろう?謝る必要はない。けど、何を見つけてほしいんだ?」
《鍵を開けて》
「どこの?」
《あなたはもう、集めている。全て集めて》
少女はそれだけ話すと姿を消した。
相変わらず出てこられる時間が短いようだ。
「この玉が鍵?」
一応小さな巾着に軽い封印のまじないをかけて持ち歩いているが、今回も解決すれば新しい玉が転がっているのだろうか。
「…やるしかないか」
相手から違和感を持たれない程度にリモートで講義を受け、資料作りを終えてすぐ桜良に借りていたスクラップを返しにいった。
「桜良、今少しいいか?」
「お疲れ様です」
「これを返しておこうと思ったんだ。あと、お礼」
家で作ってきたドーナツを渡すと、思った以上に喜んでくれた。
「わざわざすみません」
「朝ご飯を抜いてる時があるから心配だって陽向から聞いたんだ」
「そうですか。陽向が…」
知られていないと思っていた様子でドーナツを食べている。
「美味しいです」
「それはよかった。もし食べたい味があったら教えてくれ」
「分かりました」
報告会を兼ねたお茶会をしていると、結月が窓の隙間から顔を出した。
「どうかしたのか?」
《…別に。怪我が治ったから報告に来ただけ》
結月はそう言って猫耳少女の姿になる。
おそらく心配してきてくれたんだろう。
「ありがとう。…私は大丈夫だ」
それが嫌がらせではないことはよく分かっている。
「…折原」
「このファイル、先生が用意してくれたんだろ?名前を書いたら、いないはずの生徒の名前のファイルだって騒ぎになるもんな」
「すまない」
「先生が謝ることじゃないよ」
誰が悪いわけでもない。
噂好きな人間たちが噺を面白おかしく流行らせてしまった結果だ。
私からすれば面白くもないが、視えない人間からすればただの物語でしかない。
「空白のファイルには必要書類があるので消さないでほしいと伝えてある」
「そうか。…中原さん、やっぱり忘れちゃったんだな」
こればかりはしかたない。
たまたま穂乃の書類を提出するために入った中学職員室でもきょとんとされたし、すれ違う相手は憲兵姫としか呼ばないから忘れられる以前の問題だ。
「おまえの名前は?」
「折原詩乃。大丈夫、まだ忘れてない」
「…そうか」
瞬が青ざめた顔で駆け寄ってきて、先生に勢いよく抱きついた。
「どうした?」
「あのね、さっき…人が、目の前から消えて……探してって」
「被害者か、岡副と折原が視たっていう奪われた名前か…判別できないがおそらく後者だろうな」
「そうだな。…その子、どんな子だった?」
瞬から聞いた見た目は覚えがあるものだったが、そうかとかえすことしかできない。
「私はリモートで講義を受けてくるよ」
「気をつけろ」
「うん。ありがとう」
ふたりに見つからないよう中庭へ向かう。
──そこにいたのは、間違いなくあの銀髪の少女だった。
「名を奪われたよ。もうすぐ誰も分からなくなるかもしれない」
《……ごめんなさい》
「おまえのせいじゃないんだろう?謝る必要はない。けど、何を見つけてほしいんだ?」
《鍵を開けて》
「どこの?」
《あなたはもう、集めている。全て集めて》
少女はそれだけ話すと姿を消した。
相変わらず出てこられる時間が短いようだ。
「この玉が鍵?」
一応小さな巾着に軽い封印のまじないをかけて持ち歩いているが、今回も解決すれば新しい玉が転がっているのだろうか。
「…やるしかないか」
相手から違和感を持たれない程度にリモートで講義を受け、資料作りを終えてすぐ桜良に借りていたスクラップを返しにいった。
「桜良、今少しいいか?」
「お疲れ様です」
「これを返しておこうと思ったんだ。あと、お礼」
家で作ってきたドーナツを渡すと、思った以上に喜んでくれた。
「わざわざすみません」
「朝ご飯を抜いてる時があるから心配だって陽向から聞いたんだ」
「そうですか。陽向が…」
知られていないと思っていた様子でドーナツを食べている。
「美味しいです」
「それはよかった。もし食べたい味があったら教えてくれ」
「分かりました」
報告会を兼ねたお茶会をしていると、結月が窓の隙間から顔を出した。
「どうかしたのか?」
《…別に。怪我が治ったから報告に来ただけ》
結月はそう言って猫耳少女の姿になる。
おそらく心配してきてくれたんだろう。
「ありがとう。…私は大丈夫だ」
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