夜紅譚

黒蝶

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第17章『名を奪う者』

第147話

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「折原」
「何かあったのか?」
「……名前、消えかかっているな」
「レポートも提出できなくて参ってるよ」
先生の言葉に苦笑でかえすしかない。
あたりを見回す先生に、浮かんでいるであろう疑問の答えを告げる。
「瞬なら放送室にいる。桜良が新作のお菓子を作ったから味見してほしいって言ってたんだ。
今はもう穢に呑まれる様子はなかったし、穢自体も感じなかった」
「…そうか」
ほっとした様子の先生だったがすぐに表情を変えた。
「忘れ去られてしまうというのは地獄じゃないか?」
「まだ実感がない。…周りの人たちが覚えていてくれるからかな」
「それがなくなると精神を壊す」
心配させたいわけじゃないのに、どうしていつもこんな顔をさせてしまうんだろう。
先生に桜良に分けてもらったお菓子を手渡す。
「先生は忘れないでくれるだろ?」
「それは…まあ、俺は半怪異だからな」
先生は持っていた日記帳を開いて、ある頁を見せてくれた。
【××日後、夜紅は本当の名前を取り戻す】
「私の名前、忘れちゃうんだな」
「それは分からないが、これからどんどん忘れ去られてしまう可能性が高い」
「何日かかるか日記でも予測できないってことは、別の怪異が動き出すのか?」
「それも分からない」
現状、私たちが分かっていることは少ない。
そんななか手探りで解決するのは難しいだろう。
「桜良が記事をまとめておいてくれたんだ。先生、この事件を知らないか?」
そこには、あるふたりの男性におこった事件が書かれている。
「…成程。この男があの中の男と同一人物ってことか」
「私はそう思う。陽向を襲った怨霊にも説明がつくしな」
「岡副を襲ったのが怨霊ならほぼ確定だな」
不安や恐怖、憎悪…様々な感情が凝縮された怨霊なら、ふたり揃って一緒に行動できる。
「あとはどこへ出現するか、か」
「うん。それが掴めない限り、私たちには倒すこともできない」
噂はまだまだ不確定要素が多く、人が消えたらしいなんていう話はすぐ消えてしまう。
これだけ痕跡が何ひとつ残らないなんて、まるで殺し屋のようだ。
「とにかく今は情報を少しでも多く集めるしかない」
「同意見だ。せめて時間帯が決まっていればもう少しなんとかできるんだが…」
そこで気づいたことがある。
「…あの銃って夜しか使えないんじゃないか?」
「どういうことだ」
「いつでも撃てるならもっと人間が減ってると思う。それに…あれだけ強大な力を持つ怨霊が側にいるんだ、無事でいられるはずがない」
「…そのとおりだ」
怨霊はひたすら強大な力を喰らう。
たとえそれが、大切な仲間だったとしても。
「その線で陽向たちにも情報共有しておくよ」
今夜で決着をつけられればいいが、そんなに甘くないだろう。
…私という餌につられてくれないだろうか。
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