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第16章『消えゆくもの』
番外篇『桜咲く』
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そんなこんなで迎えた卒業式。
「今からご飯食べに行かない?」
「それいいな!こうやってみんなで集まれるの、最後になるかもしれないし…」
特に興味が持てなかった俺は、誰にも声をかけられないうちに放送室へ向かう。
入ろうとしたけど、中から声がして扉に耳をくっつけた。
「桜良先輩、卒業おめでとうございます」
「…これ、わざわざ用意してくれたの?」
「桜良先輩に普段使ってもらえそうなものを贈りたくて…迷惑でしたか?」
「いいえ。こういう経験があまりなくて驚いただけ。ありがとう」
ふたりで仲良く話してるなら、そこに割って入る訳にはいかない。
先に監査室へ行くことにして扉を開けると、大きな音で埋め尽くされた。
「監査部長、お疲れ様でした!」
「ありがとうございました」
一斉に浴びせられる拍手に、俺なりのやり方でもついてきてくれたみんなへの感謝がこみあげてくる。
「俺は、先輩みたいにしっかりできなかったと思う。でも、みんながついてきてくれたおかげでなんとか乗り切れたよ。
こんな頼りない俺についてきてくれてありがとう。最高の監査部部長生活をおくれました。内部進学したから、来年度からも困ったことがあれば俺なり先輩を頼ってね」
それから少し盛り上がって、今度こそ放送室へ向かった。
「桜良、いる?」
「その花束…」
「監査室へ行ってきたんだ」
「そう」
見たことがないマグカップを使っている様子で、なんとなく察した。
「……これ」
「え、何これ!?」
いつの間に用意してくれてたのか分からない。
ただ、とにかく嬉しかった。
「開けてもいい?」
「大したものは入ってないけど、それでよければ」
中から出てきたのはハンカチとネクタイピンだった。
「卒業祝い」
「ありがとう。大事にするよ。あと…俺からも、これ」
「…お互いに卒業祝いを贈るなんて、不思議な話ね」
「まあ、俺たちらしくていいんじゃない?」
桜良が中身を確認している間に袋の底を突っついていると、封筒が入っているのが見えた。
「これ、俺宛?」
「……一応」
「俺も桜良宛にしたんだ。あとは先生とか先輩とか」
「…そう」
ちょっと嬉しそうなのが分かったけど、一旦見なかったことにした。
家を追い出される形で出て、じいさんが亡くなるまで世話になりっぱなしで…今もバイトと遺族年金でなんとか生活できている。
一生桜良とふたりきりで過ごすんだと思ってたら、いつの間にか仲間も増えて…駄目だな、こういうの。
「どうかした?」
「なんでもない。先輩たちがパーティーの準備をしてくれてるらしいから行こう」
「…そうね」
明日になったら墓参りに行こう。
じいさんへの報告と、今までの感謝の気持ちを伝えに。
そうやってまた、笑って前を向くのだ。
「今からご飯食べに行かない?」
「それいいな!こうやってみんなで集まれるの、最後になるかもしれないし…」
特に興味が持てなかった俺は、誰にも声をかけられないうちに放送室へ向かう。
入ろうとしたけど、中から声がして扉に耳をくっつけた。
「桜良先輩、卒業おめでとうございます」
「…これ、わざわざ用意してくれたの?」
「桜良先輩に普段使ってもらえそうなものを贈りたくて…迷惑でしたか?」
「いいえ。こういう経験があまりなくて驚いただけ。ありがとう」
ふたりで仲良く話してるなら、そこに割って入る訳にはいかない。
先に監査室へ行くことにして扉を開けると、大きな音で埋め尽くされた。
「監査部長、お疲れ様でした!」
「ありがとうございました」
一斉に浴びせられる拍手に、俺なりのやり方でもついてきてくれたみんなへの感謝がこみあげてくる。
「俺は、先輩みたいにしっかりできなかったと思う。でも、みんながついてきてくれたおかげでなんとか乗り切れたよ。
こんな頼りない俺についてきてくれてありがとう。最高の監査部部長生活をおくれました。内部進学したから、来年度からも困ったことがあれば俺なり先輩を頼ってね」
それから少し盛り上がって、今度こそ放送室へ向かった。
「桜良、いる?」
「その花束…」
「監査室へ行ってきたんだ」
「そう」
見たことがないマグカップを使っている様子で、なんとなく察した。
「……これ」
「え、何これ!?」
いつの間に用意してくれてたのか分からない。
ただ、とにかく嬉しかった。
「開けてもいい?」
「大したものは入ってないけど、それでよければ」
中から出てきたのはハンカチとネクタイピンだった。
「卒業祝い」
「ありがとう。大事にするよ。あと…俺からも、これ」
「…お互いに卒業祝いを贈るなんて、不思議な話ね」
「まあ、俺たちらしくていいんじゃない?」
桜良が中身を確認している間に袋の底を突っついていると、封筒が入っているのが見えた。
「これ、俺宛?」
「……一応」
「俺も桜良宛にしたんだ。あとは先生とか先輩とか」
「…そう」
ちょっと嬉しそうなのが分かったけど、一旦見なかったことにした。
家を追い出される形で出て、じいさんが亡くなるまで世話になりっぱなしで…今もバイトと遺族年金でなんとか生活できている。
一生桜良とふたりきりで過ごすんだと思ってたら、いつの間にか仲間も増えて…駄目だな、こういうの。
「どうかした?」
「なんでもない。先輩たちがパーティーの準備をしてくれてるらしいから行こう」
「…そうね」
明日になったら墓参りに行こう。
じいさんへの報告と、今までの感謝の気持ちを伝えに。
そうやってまた、笑って前を向くのだ。
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