夜紅譚

黒蝶

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第16章『消えゆくもの』

第141話

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「いやあ、流石に吃驚しました」
泡沫が消えた後、失われた感情や陽向の体の機能が戻ってきた。
早く咲いて早く散る…泡沫が眠る木だけ何故か毎年そういった現象がおこるそうだ。
「みんな無事だったし、一件落着だな」
「けど、好きな相手をずっと待ち続けてただけってきついですね」
「本人が来年を望むなら、強引に噂を変えればいいというものでもないだろうからな」
「それもそうですね。…そういえば、ちびに何か言いました?」
陽向は書類を捲る手を止め、問いかけてくる。
「少し、な」
「やっぱり。いきなり謝られて、何かと思ったら先生と話したって報告でした」
「そうか」
瞬の言葉はきっと先生に届いただろう。
仲良く過ごせるならそれが1番だ。
「なんとか卒業式前に諸々片づけられてよかったです」
「そうだな。…桜良は今放送室か?」
「だと思いますけど…急ぎの用ですか?」
「いや。私がというより、穂乃がどうしているかだから多分問題ない」
「ならいいですけど…あ、先生が探してました。もし見つけたら保健室に来るよう言っておいてくれって。足、大丈夫なんですか?」
「先生が少し大袈裟に言っているだけで特に痛みはないんだ。教えてくれてありがとう」
保健室に向かう途中、一瞬右足の感覚がなくなった。
杖を持っていたおかげでかろうじで立て直せたが、そのまま階段を転がり落ちていたら…なんて考えてしまう。
「やっと来たか」
「探してたって陽向が教えてくれた」
先生のことだから、きっと私の異常を見抜いている。
説教されると思っていたが、そうではなかったらしい。
「大学部に進学した監査部の生徒たちに、若干特殊な立ち位置を用意することにした」
「つまり、監査部として表立って動けるってことか?」
「大学部にも生徒に相談できる場所がほしいと要望があったそうだ。
岡副には了承を得た。…折原、おまえはどうしたい」
他の学部と生徒たちの様子も見られるし、噂も集めやすくなる。
…それに、堂々と旧校舎へ入れるのはありがたい。
「勿論やるよ」
「そうか。あと、足」
「足がどうかしたのか?」
先生は眉をひそめ、じっと足首を見つめる。
「感覚が鈍くなっているんじゃないか?」
「今はちゃんとあるよ」
「過労からくるものだろう。或いは力の使いすぎが原因だ。
…今のおまえの体はあやふやな状態が続いている。ゆめゆめ忘れるな」
「分かった。気をつけるよ」
自分でも理解はしているつもりだ。
あの薬を飲んだ日から、少しずつ妖力じみたものが使えるようになっていることを。
…自分で選んだこととはいえ、周りに隠し通せるか不安になる。
だけど、今は。
「桜、満開だな」
「そうだな」
この瞬間の景色を楽しむことに専念しよう。
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