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第16章『消えゆくもの』
第140話
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陽向は苦笑しながらはっきり答える。
「…やっぱりふたりには隠し通せないか」
「何があったの?」
桜良の気迫はすさまじいものだった。
陽向は答えづらそうにしていたものの、少しずつ話しはじめる。
「先輩から聞いた情報を元に、色々と調べていたんです。俺も泡沫?に会いました。
けど、そこで不自由そうだって言われて反論したんです。そしたら攻撃してきて…」
「それが当たったの?」
「避けきれなかった。そのまま突っ立ってたら、多分胸のあたりに当たってたと思う」
ほぼ不死の体を狙っていたのか、心を狙っていたのか。
だが、ここで気になることがあった。
「本人は、相手の困りごとを解消したくて感情を奪っていたはずだ。だが、それが体に出ている」
「手を震わせていました。声をかけようとしたんですが、頭をかかえたまま消えてしまって…」
「噂が、書き換わりつつあるから…かもしれません」
桜良は少し話しづらそうにしながらも、必死に説明してくれた。
「全て奪って、人間を滅ぼす。桜が散る、前に、止められなかっ、たら…戻れない、という話、を、聞いたんです」
「知らなかった。教えてくれてありがとう桜良。陽向はここで待機。いいな?」
「分かりました」
「それじゃあ行ってくる」
旧校舎でしばらく時間を潰し、日が沈むのを待ってすぐ桜の木へ足を運ぶ。
そこにはたしかに頭を抱える泡沫の姿があった。
《私、違ウ、ワタ、シ……は、》
「泡沫」
《近づかナイで!》
涙を流しながらかざされた手から鞭のようなものが出現する。
我武者羅に振り回されるそれを避け、ナイフで切りながら間合いをつめていく。
「ごめん。人間たちが噂を捻じ曲げたばっかりに苦しい思いをさせて…」
《私ハ、ただ…》
「狭山という名前に聞き覚えはあるか?」
《狭山、さん……》
「おまえがただひとり待ち続けた相手の名前だ」
先生から聞かされた名前はそれだけだし、深碧が知っていたのも名字だけだった。
「生まれつき体が弱く、おまえを迎えに行く途中で命尽きたらしい」
《そう…そうだった。彼は、狭山さんはいつも薬を持ち歩いていて、私を大切にしてくれた。
桜の木の下で会おう、そこで待っているからと…。けれど、彼は現れず私は殺された》
桜良が持ってきてくれた新聞記事には、当主候補の娘が惨殺死体となって発見されたと書かれていた。
《もう会えないのね…》
泡沫の哀しみはそう簡単には消えないだろう。
それでも、少しは救われただろうか。
「相手はおまえのことをずっと心配していたんだと思う。…そのことは忘れないでくれ」
《そうね…そう信じたいわ》
花びらがどんどん散っていき、泡沫の姿も薄れていく。
──また来年と言い残して。
「…やっぱりふたりには隠し通せないか」
「何があったの?」
桜良の気迫はすさまじいものだった。
陽向は答えづらそうにしていたものの、少しずつ話しはじめる。
「先輩から聞いた情報を元に、色々と調べていたんです。俺も泡沫?に会いました。
けど、そこで不自由そうだって言われて反論したんです。そしたら攻撃してきて…」
「それが当たったの?」
「避けきれなかった。そのまま突っ立ってたら、多分胸のあたりに当たってたと思う」
ほぼ不死の体を狙っていたのか、心を狙っていたのか。
だが、ここで気になることがあった。
「本人は、相手の困りごとを解消したくて感情を奪っていたはずだ。だが、それが体に出ている」
「手を震わせていました。声をかけようとしたんですが、頭をかかえたまま消えてしまって…」
「噂が、書き換わりつつあるから…かもしれません」
桜良は少し話しづらそうにしながらも、必死に説明してくれた。
「全て奪って、人間を滅ぼす。桜が散る、前に、止められなかっ、たら…戻れない、という話、を、聞いたんです」
「知らなかった。教えてくれてありがとう桜良。陽向はここで待機。いいな?」
「分かりました」
「それじゃあ行ってくる」
旧校舎でしばらく時間を潰し、日が沈むのを待ってすぐ桜の木へ足を運ぶ。
そこにはたしかに頭を抱える泡沫の姿があった。
《私、違ウ、ワタ、シ……は、》
「泡沫」
《近づかナイで!》
涙を流しながらかざされた手から鞭のようなものが出現する。
我武者羅に振り回されるそれを避け、ナイフで切りながら間合いをつめていく。
「ごめん。人間たちが噂を捻じ曲げたばっかりに苦しい思いをさせて…」
《私ハ、ただ…》
「狭山という名前に聞き覚えはあるか?」
《狭山、さん……》
「おまえがただひとり待ち続けた相手の名前だ」
先生から聞かされた名前はそれだけだし、深碧が知っていたのも名字だけだった。
「生まれつき体が弱く、おまえを迎えに行く途中で命尽きたらしい」
《そう…そうだった。彼は、狭山さんはいつも薬を持ち歩いていて、私を大切にしてくれた。
桜の木の下で会おう、そこで待っているからと…。けれど、彼は現れず私は殺された》
桜良が持ってきてくれた新聞記事には、当主候補の娘が惨殺死体となって発見されたと書かれていた。
《もう会えないのね…》
泡沫の哀しみはそう簡単には消えないだろう。
それでも、少しは救われただろうか。
「相手はおまえのことをずっと心配していたんだと思う。…そのことは忘れないでくれ」
《そうね…そう信じたいわ》
花びらがどんどん散っていき、泡沫の姿も薄れていく。
──また来年と言い残して。
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