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第16章『消えゆくもの』
第139話
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視える人間の中でもほぼ一部にしか視えないらしい、展望室の近くにある扉をノックする。
「瞬、少し話をしないか?」
「……」
たしかに中から人の気配がする。
「先生が大変なんだ。出てきてほしい」
すると、慌てた様子の瞬が勢いよく扉を開けた。
「どういうこと?」
「…おまえに嫌われたんじゃないかって落ちこんでる」
「なんで……」
「我儘を言ったら相手を困らせる、でも顔を合わせたら寂しいって言ってしまいそうだ…違うか?」
瞬は俯いたまま小さく頷く。
「その気持ちはなんとなく分かる。私も周りに言えないから」
「え…?」
「どこまで言っていいか分からなくなるんだ」
体に毒をうけた影響で上手く立てなくても言えなかった。
どれだけ傷つけられても大丈夫以外言ったことがない。
…母親にもあまり甘えられなかった。
「だけど、おまえの言葉を聞いて気持ちを知りたいと思っている相手がある。それを無視するのは駄目なんじゃないか?」
「それは…」
「先生なら、嫌は事ははっきりそう言う。このまま何も言わずにいて、また遠くなったら悲しい。
想いをぶつけることは難しいことだけど、相手の想いを知る切っ掛けにもなるはずだ」
「先生の気持ちを知る…」
「あとは瞬が決めることだ。私に言えることはもうない。それじゃあ、また今夜」
余分に作っておいたお弁当を渡し、今度は中庭へ向かう。
「深碧、いるか?」
《どうかされましたか?》
中庭に住む妖ならば、泡沫のことも分かるかもしれない。
「忘却の桜の噂について調べているんだ。知っていることを教えてほしい」
《泡沫という少女の話ですか?》
「うん。あの子のことをもっと知れば、忘れてしまった想いを取り戻せるかもしれない」
深碧は考えるような仕草を見せた後、知っていることを教えてくれた。
《私が知るのはそれだけです。役に立ちましたか?》
「ありがとう。充分だ」
旧校舎の屋上で提出課題を仕上げ、夜になるのを待つ。
昼間に桜の木を確認したが、泡沫が見つからなかった。
これ以上噂が大きくなる前になんとかしたい。
『……詩乃先輩』
「桜良か。何かあったのか?」
突然ラジオから聞こえてきた声に戸惑いつつも問いかける。
『陽向の様子が変なんです。何が原因なのか分からなくて…』
隠し事をしているからだと思っていた。
桜良にはばれないようにしていると、本人が話していたから。
だが、それとは違う、斜め上の言葉がふってきた。
『ずっと歩き方がロボットみたいなんです』
「すぐ向かう」
──遅かった。
今日なんとかできればいいと思っていたが、そう単純なものではなかったのだ。
放送室の扉を開けると、ふたりが向かいあって座っていた。
「あれ、先輩?」
「触るぞ」
「え、ちょ、」
思い切り陽向の足首を掴む。
「いきなりなんなんですか、もう…」
これで分かった。
「…足の感覚がないのか」
「瞬、少し話をしないか?」
「……」
たしかに中から人の気配がする。
「先生が大変なんだ。出てきてほしい」
すると、慌てた様子の瞬が勢いよく扉を開けた。
「どういうこと?」
「…おまえに嫌われたんじゃないかって落ちこんでる」
「なんで……」
「我儘を言ったら相手を困らせる、でも顔を合わせたら寂しいって言ってしまいそうだ…違うか?」
瞬は俯いたまま小さく頷く。
「その気持ちはなんとなく分かる。私も周りに言えないから」
「え…?」
「どこまで言っていいか分からなくなるんだ」
体に毒をうけた影響で上手く立てなくても言えなかった。
どれだけ傷つけられても大丈夫以外言ったことがない。
…母親にもあまり甘えられなかった。
「だけど、おまえの言葉を聞いて気持ちを知りたいと思っている相手がある。それを無視するのは駄目なんじゃないか?」
「それは…」
「先生なら、嫌は事ははっきりそう言う。このまま何も言わずにいて、また遠くなったら悲しい。
想いをぶつけることは難しいことだけど、相手の想いを知る切っ掛けにもなるはずだ」
「先生の気持ちを知る…」
「あとは瞬が決めることだ。私に言えることはもうない。それじゃあ、また今夜」
余分に作っておいたお弁当を渡し、今度は中庭へ向かう。
「深碧、いるか?」
《どうかされましたか?》
中庭に住む妖ならば、泡沫のことも分かるかもしれない。
「忘却の桜の噂について調べているんだ。知っていることを教えてほしい」
《泡沫という少女の話ですか?》
「うん。あの子のことをもっと知れば、忘れてしまった想いを取り戻せるかもしれない」
深碧は考えるような仕草を見せた後、知っていることを教えてくれた。
《私が知るのはそれだけです。役に立ちましたか?》
「ありがとう。充分だ」
旧校舎の屋上で提出課題を仕上げ、夜になるのを待つ。
昼間に桜の木を確認したが、泡沫が見つからなかった。
これ以上噂が大きくなる前になんとかしたい。
『……詩乃先輩』
「桜良か。何かあったのか?」
突然ラジオから聞こえてきた声に戸惑いつつも問いかける。
『陽向の様子が変なんです。何が原因なのか分からなくて…』
隠し事をしているからだと思っていた。
桜良にはばれないようにしていると、本人が話していたから。
だが、それとは違う、斜め上の言葉がふってきた。
『ずっと歩き方がロボットみたいなんです』
「すぐ向かう」
──遅かった。
今日なんとかできればいいと思っていたが、そう単純なものではなかったのだ。
放送室の扉を開けると、ふたりが向かいあって座っていた。
「あれ、先輩?」
「触るぞ」
「え、ちょ、」
思い切り陽向の足首を掴む。
「いきなりなんなんですか、もう…」
これで分かった。
「…足の感覚がないのか」
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