夜紅譚

黒蝶

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第16章『消えゆくもの』

第135話

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「先輩って相変わらず敵に回したくない聞き取り調査をしますよね…」
「被害者をあそこまで追い詰めたんだ、自分が何をされても文句は言えないだろ?」
勿論、ネットに情報を流出させたり暴力や脅迫で相手を怯えさせたわけではない。
ただ、私が満面の笑みで淡々と質問をぶつける姿を怖いと感じる人々が多いのも事実だ。
「先輩にあんなふうに迫られたら、誰だって怖がりますよ」
「そんなに怖いのか…」
ひと息ついて陽向の手元を見ると、今回の件とは関係なさそうな資料が握られていた。
「仕事納めか?」
「はい。先輩からアドバイスをもらったおかげでなんとか無事終えられました。ありがとうございます」
「頑張ったのは陽向だろ?お疲れ様」
「けど、まさか最後の最後でこんな大きな事件がおきるなんて…」
苦笑する陽向に、先程たてたばかりの仮説を話した。
「実は、被害生徒のことなんだが──」
ひととおり話し終えたところで驚きの声があがる。
「中庭にありましたよね、桜の木…」
「そこから記憶が途切れているなら、可能性が高いんじゃないか?」
「……たしかに。被害者の恐怖心が消えて、追い詰められた感情が高ぶったなら充分あり得ます」
「夜仕事、本格的に回らないとまずいな」
このままどんどん伝染していけば、負の感情に支配された人間で溢れかえってしまうかもしれない。
止められなくなる前に噂の原因を探らなければ、取り返しがつかないことになる。
「桜良には休んでいてもらうとして、瞬たちにも知らせておこう」
「ですね。今夜は穂乃ちゃんも来ますし」
……すっかり忘れていた。
どうしても穂乃を関わらせたくないと思いがちだが、約束は約束だ。
「穂乃ちゃんに桜良の相手をお願いしてもいいですか?」
「私はかまわないけど、何か理由があるのか?」
「…最近、ちょっと塞ぎこんでるように見えるんです。俺と話すより、他の人の方が話しやすいこともあるのかなって…」
「分かった。そのあたりは伏せて穂乃に話しておく」
「ありがとうございます」
恐らく、さっき話したときに桜良から訊かれたことと関係しているのだろう。
桜良は隠し事が上手いようでちょっとした仕草に出やすい。
特に陽向は変化に気づきやすいだろうから、桜良の願いを叶えるには穂乃にいてもらった方がよさそうだ。
「そういえば、穂乃ちゃんが放送部を存続させてくれるらしいですね」
「ひとりになっても絶対辞めないと直訴したらしい」
しばらくは大学部から手伝いに来てもらえるから大丈夫だと、先生とふたりで他の教員を黙らせたと聞いた。
そういうときの穂乃は絶対に引き下がらないことをよく知っている。
「他に分かったことがあれば知らせてくれ」
「分かりました」
「これからバイトなんだ。…あと、その書類は書類倉庫のファイル23を見ながらやれば早く終わるぞ」
「え!?」
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