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第16章『消えゆくもの』
第134話
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少女は肩を震わせ泣いている。
だが、怒りが頂点に達したからといって刃物を振り回すようにはとても見えない。
「話してくれてありがとう。大変だったな」
「いえ…。あ、そういえば私、いつから旧校舎にいたんだろう」
「どういうことだ?」
「記憶が曖昧なんです。信じてもらえないだろうけど…」
少女は不安そうに話を続けた。
「カッターはダンボールアートを作るためにいつも筆箱に入れていたから多分それです。
でも、ずっと中庭にいたのにどうやってここまで来たか分からないんです」
とても嘘を言っているようには見えない。
自分が刃物を振り回していたことへの恐怖が演技だというなら、何を信じればいいか分からなくなる。
なにより、自分がされたことを正直に話してくれた心を信じたかった。
「その話、信じるよ。怒りで記憶が曖昧なのかもしれないし、色々あるだろうから」
「ありがとうございます。あの、でも私、どうなっちゃうんでしょうか…」
「辛いと思うけど、いじめの内容を詳しくまとめてほしい」
「え…?」
「理由もなく刃物を振り回したなら警察に話した方がいいんだろうけど、心が限界に達するまで気づけなかったことに責任がある。
…今は大学部在籍とはいえ、監査部として謝らせてほしい」
頭を下げるだけで許されるはずがない。
それでも、今はこれくらいのことしかできなかった。
「…いいんです。相手の生徒は外部進学するから会わないし、憲兵姫が私の話を聞いて信じてくれたから…ありがとうございます」
「4月から高等部か」
「はい」
「副業等と情報共有しておいてもかまわないかな?」
「お願い、します…」
ぽろぽろと涙を流す少女は俯いたまま、それ以上話そうとしない。
内線を使って先生を呼び、後のことは任せることにした。
「…相変わらずだな」
「室星先生がいてくれると動きやすくて助かります」
久しぶりの、監査部らしい会話。
大学部には監査部がないため、少し懐かしく感じる。
「それじゃあ、私はこれで失礼します」
「あの…ありがとうございました!」
「相手とは監査部が話をするから、また何かあればすぐに知らせてくれ」
少し明るくなった少女を見て少し安心した。
加害生徒の部屋へ入ると、陽向が思いきり頬を殴られたのが目に入る。
「あ、あたしは悪くない!被害者なのにこいつが」
「…明らかな暴行だな」
「え……」
「それと、当該生徒たちに対するいじめ行為について聞かせてもらおうか」
久しぶりの尋問…取り調べがなんだか楽しくなってしまう。
下校時間になるまで加害生徒への聞き込みを続けた。
だが、怒りが頂点に達したからといって刃物を振り回すようにはとても見えない。
「話してくれてありがとう。大変だったな」
「いえ…。あ、そういえば私、いつから旧校舎にいたんだろう」
「どういうことだ?」
「記憶が曖昧なんです。信じてもらえないだろうけど…」
少女は不安そうに話を続けた。
「カッターはダンボールアートを作るためにいつも筆箱に入れていたから多分それです。
でも、ずっと中庭にいたのにどうやってここまで来たか分からないんです」
とても嘘を言っているようには見えない。
自分が刃物を振り回していたことへの恐怖が演技だというなら、何を信じればいいか分からなくなる。
なにより、自分がされたことを正直に話してくれた心を信じたかった。
「その話、信じるよ。怒りで記憶が曖昧なのかもしれないし、色々あるだろうから」
「ありがとうございます。あの、でも私、どうなっちゃうんでしょうか…」
「辛いと思うけど、いじめの内容を詳しくまとめてほしい」
「え…?」
「理由もなく刃物を振り回したなら警察に話した方がいいんだろうけど、心が限界に達するまで気づけなかったことに責任がある。
…今は大学部在籍とはいえ、監査部として謝らせてほしい」
頭を下げるだけで許されるはずがない。
それでも、今はこれくらいのことしかできなかった。
「…いいんです。相手の生徒は外部進学するから会わないし、憲兵姫が私の話を聞いて信じてくれたから…ありがとうございます」
「4月から高等部か」
「はい」
「副業等と情報共有しておいてもかまわないかな?」
「お願い、します…」
ぽろぽろと涙を流す少女は俯いたまま、それ以上話そうとしない。
内線を使って先生を呼び、後のことは任せることにした。
「…相変わらずだな」
「室星先生がいてくれると動きやすくて助かります」
久しぶりの、監査部らしい会話。
大学部には監査部がないため、少し懐かしく感じる。
「それじゃあ、私はこれで失礼します」
「あの…ありがとうございました!」
「相手とは監査部が話をするから、また何かあればすぐに知らせてくれ」
少し明るくなった少女を見て少し安心した。
加害生徒の部屋へ入ると、陽向が思いきり頬を殴られたのが目に入る。
「あ、あたしは悪くない!被害者なのにこいつが」
「…明らかな暴行だな」
「え……」
「それと、当該生徒たちに対するいじめ行為について聞かせてもらおうか」
久しぶりの尋問…取り調べがなんだか楽しくなってしまう。
下校時間になるまで加害生徒への聞き込みを続けた。
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