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第15章『バレンタインの災難』
第129話
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「今日は安心して眠れそうです」
「やっぱり不安だったのか」
なんとなく感じ取ってはいたが、陽向は表立って不安という言葉を口にすることがない。
「あの子、大丈夫ですかね?呪い返し的なものに遭ったりしません?」
「…どうだろうな。今夜になってみないと分からない」
あの紙人形が巨大化して襲ってきているのであれば、もう私にまとわりついてくることはないだろう。
だが、嫉妬に狂った人間というのはどう転ぶか行動の予測ができない。
「もう少し様子を見た方がいいな」
「ですね」
──そしてその夜、恐れていたことがおきた。
「詩乃ちゃん、ちょっと来て」
「どうかしたのか?」
「あ、あれ…」
瞬が震えながら指さした方にはあの生徒が転がっていて、何かに引きずられるように視界から消えた。
「助けて!なんでもするから…ごめんなさい、ごめんなさい!」
走って追いかけたが、もうすでに何かに呑みこまれた後だった。
「あれって、」
口元に指をたてて様子をうかがう。
…やはりあの紙人形が関係しているらしいことだけは理解した。
「瞬、悪いけど陽向たちに報告してくれ」
「詩乃ちゃんは?」
「あれを追う」
「流石に無茶だよ…」
不安そうにしている瞬と目を合わせて笑顔を作る。
「頼む。通信が途絶えるかもしれないし、瞬の方が足が速いだろう?」
「……分かった。絶対知らせて追いつくから」
瞬の後ろ姿を見送った直後、また足に痛みがはしった。
「そういえば、先生の診察行かなかったな」
だが、今を逃せば次のチャンスはいつになるか分からない。
噂の全容が分からない以上、消えた相手がどこへ連れて行かれるのか調べる必要がある。
『先輩、聞こえますか?』
「ああ。瞬が知らせてくれたのか」
『いきなりでびっくりしましたよ。そっちの様子を教えてください』
ぐにゅぐにゅと蠢くそれは、間違いなく紙人形の姿をしていたはずの怪異だ。
「今のところ、生徒を呑みこんだであろう怪異が動いてる。スライムみたいな動きをしているが、そんなに可愛い見た目じゃない」
『人が入ってるんですよね…』
「ああ。階段を降りて、取り壊しの話が出ている旧校舎奥の格技場に入っていった」
本当にこちらに気づいていないのか、おびき寄せられているのか。
隙間から覗いてみると、無数に蠢く真っ赤なスライム状の怪異が集まっていた。
『先輩、大丈夫ですか?』
「あれひとつひとつに人間が入っているとすれば、相当な数になるな」
『え、そんなに多いんですか!?』
「怪異たちが集まっている真ん中に核のようなものがある。…おそらく消えた人間たちはそこに集められているはずだ」
一旦退却しようと後退ったとき、杖を床に強めに打ちつけてしまった。
《……ア?》
《シンニュウジャダ!》
「…ごめん。失敗した」
『ちょ、それってどういう、』
無数のどろどろした相手を前に絶望している場合ではない。
本調子ではないものの札を構えた。
「暇つぶしになるかは分からないが、満足するまで相手してやる」
「やっぱり不安だったのか」
なんとなく感じ取ってはいたが、陽向は表立って不安という言葉を口にすることがない。
「あの子、大丈夫ですかね?呪い返し的なものに遭ったりしません?」
「…どうだろうな。今夜になってみないと分からない」
あの紙人形が巨大化して襲ってきているのであれば、もう私にまとわりついてくることはないだろう。
だが、嫉妬に狂った人間というのはどう転ぶか行動の予測ができない。
「もう少し様子を見た方がいいな」
「ですね」
──そしてその夜、恐れていたことがおきた。
「詩乃ちゃん、ちょっと来て」
「どうかしたのか?」
「あ、あれ…」
瞬が震えながら指さした方にはあの生徒が転がっていて、何かに引きずられるように視界から消えた。
「助けて!なんでもするから…ごめんなさい、ごめんなさい!」
走って追いかけたが、もうすでに何かに呑みこまれた後だった。
「あれって、」
口元に指をたてて様子をうかがう。
…やはりあの紙人形が関係しているらしいことだけは理解した。
「瞬、悪いけど陽向たちに報告してくれ」
「詩乃ちゃんは?」
「あれを追う」
「流石に無茶だよ…」
不安そうにしている瞬と目を合わせて笑顔を作る。
「頼む。通信が途絶えるかもしれないし、瞬の方が足が速いだろう?」
「……分かった。絶対知らせて追いつくから」
瞬の後ろ姿を見送った直後、また足に痛みがはしった。
「そういえば、先生の診察行かなかったな」
だが、今を逃せば次のチャンスはいつになるか分からない。
噂の全容が分からない以上、消えた相手がどこへ連れて行かれるのか調べる必要がある。
『先輩、聞こえますか?』
「ああ。瞬が知らせてくれたのか」
『いきなりでびっくりしましたよ。そっちの様子を教えてください』
ぐにゅぐにゅと蠢くそれは、間違いなく紙人形の姿をしていたはずの怪異だ。
「今のところ、生徒を呑みこんだであろう怪異が動いてる。スライムみたいな動きをしているが、そんなに可愛い見た目じゃない」
『人が入ってるんですよね…』
「ああ。階段を降りて、取り壊しの話が出ている旧校舎奥の格技場に入っていった」
本当にこちらに気づいていないのか、おびき寄せられているのか。
隙間から覗いてみると、無数に蠢く真っ赤なスライム状の怪異が集まっていた。
『先輩、大丈夫ですか?』
「あれひとつひとつに人間が入っているとすれば、相当な数になるな」
『え、そんなに多いんですか!?』
「怪異たちが集まっている真ん中に核のようなものがある。…おそらく消えた人間たちはそこに集められているはずだ」
一旦退却しようと後退ったとき、杖を床に強めに打ちつけてしまった。
《……ア?》
《シンニュウジャダ!》
「…ごめん。失敗した」
『ちょ、それってどういう、』
無数のどろどろした相手を前に絶望している場合ではない。
本調子ではないものの札を構えた。
「暇つぶしになるかは分からないが、満足するまで相手してやる」
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