夜紅譚

黒蝶

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第15章『バレンタインの災難』

第124話

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「おい、そんなに走ったら…」
あまりの光景に先生でさえ言葉を失う。
「さっき見つけたんだ。恋愛電話の横でぐったりしてた」
「…出血が酷いな。ひとまず止血してから点滴、あとは…包帯の場所、分かるか?」
「柔らかいやつでいいんだよな?」
「ああ。頼む」
先生は消毒セット一式を用意して、お湯をはった桶やらオキシドールやらを用意しているようだ。
見たことがないものもあるが、今は話している時間も惜しい。
「…これで大丈夫なはずだ」
「やっぱり手際がいいな」
「それほどでもない。だが、この時期噂が流行りやすいこいつがこれだけやられるというのは問題だ」
結月の恋愛電話の噂は、毎年バレンタインやホワイトデー近くになると必ずと言っていいほど人づてにまわる。
怪異にとって噂というのは力の源なのだから、相当強くなっていたはずだ。
それが誰かによって傷つけられてしまった。
「こいつを見ておくから瞬を頼めるか?」
「分かった」
元々血やグロテスクなものを見るのが苦手な瞬だ、今の結月を見たらショックで倒れてしまう。
それに、なんとなくだが今はふたりきりにしてあげたかった。
早く目をさますことを願いながらその場を後にした。
「結月、どうですか?」
「多分大丈夫だ」
「夕方会ったときは元気そうだったのに…」
そう呟いて俯く瞬に訊いた。
「そのときの話、ちょっとだけ聞いてもいいか?」
「忙しそうだったから声をかけたんだ。あと、おまんじゅうが好きだから食べるかなと思って持っていった。
…なんだかんだで気に入ってくれてみたいで、悪くなかったって食べてくれたよ」
ただほっこりする話だ。
「ということは、ちびとわかれた後襲われたってことか」
「そういえば、紙に名前を書きながらぶつぶつ言ってる人がいたよ。もしかして、あれが今流行ってる噂?」
「赤い紙だったか?」
「うん。よく見えなかったけど、誰かの名前を書いて笑ってた。猫さんがあんまり凝視したら駄目だって…巻きこまれたら大変だからって」
たまたま赤い紙がいくつも転がっているはずがない。
つまり、誰かが名前を書いて悪用しようとしている。
「あの話、元になった話が別にあるみたいだな」
「そうなんですね」
「人間の身勝手さが引き起こしたものだって結月が言ってた」
「なんか、説得力マシマシですね」
何やら熟考している陽向の隣で、瞬は震えながら尋ねてきた。
「猫さん、大丈夫だよね?」
「そんなに心配しなくても大丈夫だ。今は先生が診ているし、傷それ自体は深くないみたいだから」
「そっか…」
念のため、安堵したように息を吐く瞬にも訊いてみる。
「今流行ってる噂について、どれくらい知ってる?」
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