夜紅譚

黒蝶

文字の大きさ
上 下
149 / 309
第15章『バレンタインの災難』

第122話

しおりを挟む
「ああ、もう!」
猫耳少女は大きなため息を吐く。
「どうしたんだ?」
荒れている結月を見て放っておけず声をかけると、うんざりした様子で答えた。
「この時期に来る人間っていうのは、ねちねちねちねち似たようなことばっかり言うの。
せめて告白するって覚悟を決めてから来ればいいのに」
そう言いつつ、恋愛電話の噂は瞬く間に広まっていた。
てっきり自分でやったのだと思っていたがそうではないらしい。
「困りごとか?」
「あの混み具合じゃ身が持たない」
「手伝えることはあるか?」
「怪我人にそんなことさせられないわけないでしょ」
たしかに杖を使って歩いているが、そこまで酷い怪我というわけでもない。
…ただ、杖を使わず歩いた瞬間先生の殺気だった視線がこちらを射抜くだけだ。
「心配してくれるのはありがたいけど、みんなそんな感じだから何かやらせてくれ。このままだと体がなまってしまいそうだ」
「それなら、あっちに集められてる紙束に関する噂を調べて」
そこには願い事が書かれているようだが、何故か全て赤い紙だ。
よく見ると、小さな字で恋愛成就に関する言葉が書き連ねられている。
そして、その紙束には全て別の紙でできた何かが貼りつけられていた。
「これが何か関係しているのか?」
「それが分からないから調べてほしいの。おそらくだけど、ここに純粋に電話をかけにやってくる人間の中にまざって別の何かを果たそうとしている存在がいる」
他でもない恋愛電話の持ち主である結月がそう感じているのだ、ほぼ間違いないだろう。
「分かった。少し調べてみるよ」
「しばらく動けそうにないから、何かあれば知らせて」
「任せてくれ」
学園内に蔓延る噂は大学部には入りづらい。
つまり、今はまだそこまで強力なものにはなっていないはずだ。
「陽向、少しいいか?」
「え、あ、先輩!?」
慌てて何かを隠したのが気になるが、それより噂について話を聞きたい。
「驚かせたなら悪い。また後で出直そうか」
「いや、全然大丈夫です。何かあったんですか?」
「恋愛電話の横にあった紙の話なんだけど、何か知ってるか?」
陽向は少し黙りこんで、深呼吸をひとつして話しはじめた。
「愛っていい感情ばっかりじゃないんです。それこそ嫉妬の塊になって、ストーカー化する人間もいるし…。
あの赤い紙はそういう負の感情が書きこまれてるみたいです」
「恋が実らないようにする、ということか?」
「それに近いです。下手をすると大きな呪いになるかもしれません」
深刻な話になってきた。
恨みつらみが重なり合えばどうなるか、私はよく知っている。
「恋の邪魔をすることができるらしい、とかいう噂ならもう少し様子を見たかったんですけど…」
「邪魔者を消すらしい、ということか」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ノーヴォイス・ライフ

黒蝶
恋愛
ある事件をきっかけに声が出せなくなった少女・八坂 桜雪(やさか さゆき)。 大好きだった歌も歌えなくなり、なんとか続けられた猫カフェや新しく始めた古書店のバイトを楽しむ日々。 そんなある日。見知らぬ男性に絡まれ困っていたところにやってきたのは、偶然通りかかった少年・夏霧 穂(なつきり みのる)だった。 声が出ないと知っても普通に接してくれる穂に、ただ一緒にいてほしいと伝え…。 今まで抱えてきた愛が恋に変わるとき、ふたりの世界は廻りはじめる。

皓皓、天翔ける

黒蝶
ライト文芸
何の変哲もない駅から、いつものように片道切符を握りしめた少女が乗りこむ。 彼女の名は星影 氷空(ほしかげ そら)。 いつもと雰囲気が異なる列車に飛び乗った氷空が見たのは、車掌姿の転校生・宵月 氷雨(よいづき ひさめ)だった。 「何故生者が紛れこんでいるのでしょう」 「いきなり何を……」 訳も分からず、空を駆ける列車から呆然と外を眺める氷空。 氷雨いわく、死者専用の列車らしく…。 少女が列車の片道切符を持っていた理由、少年に隠された過去と悲しき懺悔…ふたりは手を取り歩きだす。 これは、死者たちを見送りながら幸福を求める物語。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

約束のスピカ

黒蝶
キャラ文芸
『約束のスピカ』 烏合学園中等部2年の特進クラス担任を任された教師・室星。 成績上位30名ほどが集められた教室にいたのは、昨年度中等部1年のクラス担任だった頃から気にかけていた生徒・流山瞬だった。 「ねえ、先生。神様って人間を幸せにしてくれるのかな?」 「それは分からないな…。だが、今夜も星と月が綺麗だってことは分かる」 部員がほとんどいない天文部で、ふたりだけの夜がひとつ、またひとつと過ぎていく。 これは、ある教師と生徒の後悔と未来に繋がる話。 『追憶のシグナル』 生まれつき特殊な力を持っていた木嶋 桜良。 近所に住んでいる岡副 陽向とふたり、夜の町を探索していた。 「大丈夫。俺はちゃんと桜良のところに帰るから」 「…約束破ったら許さないから」 迫りくる怪異にふたりで立ち向かう。 これは、家庭内に居場所がないふたりが居場所を見つけていく話。 ※『夜紅の憲兵姫』に登場するキャラクターの過去篇のようなものです。 『夜紅の憲兵姫』を読んでいない方でも楽しめる内容になっています。

サイケデリック・ブルース・オルタナティブ・パンク!

大西啓太
ライト文芸
日常生活全般の中で自然と生み出された詩集。

未熟な蕾ですが

黒蝶
キャラ文芸
持ち主から不要だと捨てられてしまった式神は、世界を呪うほどの憎悪を抱えていた。 そんなところに現れたのは、とてつもない霊力を持った少女。 これは、拾われた式神と潜在能力に気づいていない少女の話。 …そして、ふたりを取り巻く人々の話。 ※この作品は『夜紅の憲兵姫』シリーズの一部になりますが、こちら単体でもお楽しみいただけると思います。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指すい桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

処理中です...