夜紅譚

黒蝶

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第14章『冬女咲きほこる』

番外篇『いつか夢見た一等星』

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「詩乃ちゃん、まだ車椅子なの?」
「先生が降りるなって言うんだ。仕方ないからバイト以外ではこうしてる」
詩乃ちゃんが不自由していないならいいけど、なんとなく過ごしづらそうに見える。
「穂乃ちゃんとは話したの?」
「この状態だから、できるだけ心配をかけないように気をつけてる…つもりだ」
「そっか。お大事に」
「ありがとう」
詩乃ちゃんとわかれた後、先生が新しい錠剤をくれた。
「これ、どうしたの?」
「…行くぞ」
先生はそれしか言わない。
こうなってしまったらもうついていくしかなかった。


「ここって…」
薬の効果で一時的に外に出られた僕は、訳が分からず先生を見る。
見たことがない、大きな望遠鏡。
「当たった」
「チケットがってこと?」
「…ペアチケットだ。今日は貸切状態になるらしい」
いつの間に応募していたんだろう。
それとも、商店街でよくあるがらがら回すやつ?
先生が無心でがらがら回しているのを想像したら、ちょっとだけ面白くて笑ってしまった。
「何がおかしい?」
「先生が爆速でがらがらするやつを回したところを想像して…」
「はがきで応募したんだ。折原たちにもあたったら物々交換をと頼んでおいたが、そっちは当たらなかった」
どうしてそこまでして、先生はチケットが欲しかったんだろう。
ただの大きな望遠鏡なら学園のだって負けてないはずだ。
「覗いてみろ。許可はとってある」
「う、わ……」
新品の望遠鏡を触る機会なんてもうないと思っていた。
「僕のよりはっきり見える…あ、流れ星」
「流星群、見るんだろ?」
そういえば、まだ生きていた頃にそんな話をしたことがあった。
「律儀に約束を守ってくれたの?」
「俺が見たかっただけだ」
「そうなんだ。けど、僕は嬉しいよ」
もう叶えられないことも多いけど、先生はこうやって僕の話を覚えてくれている。
「…ありがとう、先生」
先生は器用そうで不器用だ。
今みたいに言葉が足りないことも多いけど、それが優しさからくるものだってよく知ってる。
「俺が見たかっただけだ」
「先生もお願い事しないの?今日、流星群なんでしょ?」
時間感覚があんまりないけど、校内のポスターや先生とか詩乃ちゃんたちと話すことでなんとか見失わないで過ごせている。
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