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第14章『冬女咲きほこる』
第119話
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見つけた。
「何かあったんですか?」
「少し探しものをしているんだ。たまたまそこに転がってた」
このペースで探して間に合うのか不安だが、どうにか誤魔化しつつやるしかない。
「その探しものって、俺のせいですか?」
「なんでそうなるんだ」
「俺が無傷で解放されたのって、先輩のおかげですよね?それに、願いを叶えられなかったら氷漬けにされるなら…」
自分を逃がす代わりに私が凍らされることになったのでは、と思っているんだろう。
「断じて違う。これはおまえが凍らされる前から頼まれていたんだ。
けど、今日が終わるまでに集めてなんとか持っていってやりたい」
流石に現物を見せるのはまずいと判断し、ケースに入れ終わったところで頭を下げた。
「え、ちょ、先輩!?」
「本当はひとりでやろうと思っていたんだ。けど、今の私じゃただ移動するにも時間がかかる。
…だから、陽向の負担にならない程度に力を貸してほしい」
しばらく沈黙が流れた後、恐る恐る頭をあげる。
怒っているかと思いきや、陽向は何故かにやにやしていた。
「当たり前じゃないですか!というか先輩、頼るの遅すぎます」
「…怒ってないのか?」
「怒ってませんよ。…あ、けど、もうちょっと早く言ってくれればよかったのに、とは思ってます」
陽向はいつものように笑って車椅子を動かしはじめた。
「先に放送室に寄ってもいいですか?」
「勿論」
「けど、あそこって車椅子じゃ無理ですよね」
「迷惑じゃなければ松葉杖でついていってもいいか?」
「はい!穂乃ちゃんがいるはずですから」
身構えながら教室に入ると、瞳をうるうるさせた穂乃を桜良が困った顔で慰めていた。
「えっと…どういう状況?」
「穂乃さんが心配だからと泣き出してしまって、その…」
「穂乃、私は大丈夫だから」
「お姉ちゃん…本当?」
「嘘じゃない」
言えない。体が凍りつつあるなんて話せば確実に周囲を追い詰めることになる。
「……!」
一瞬手の感覚が消え、近くの机に倒れそうになる。
「大丈夫ですか?」
「ごめん。やっぱり松葉杖って慣れないな」
陽向に支えてもらいながら穂乃に声をかける。
「こういう怪我を負うのが夜仕事だ。だから穂乃からは遠ざけておきたかった」
「でも、私は……」
「分かってる。強くなったな」
おいていかないでほしい、なんて言われてしまえば折れるしかなかった。
はじめこそどうすればいいか苦戦したが、少しずつ身を護る術が増えてきていることは悪いことじゃない。
「私が言えることじゃないけど、怪我だけはしないようにな」
「…うん」
「すまないが穂乃を頼む」
「分かりました。お気をつけて」
事情があると察してくれたのだろう。
穂乃に寄り添ってくれる桜良に感謝しつつ、視界の隅にうつった駒を握りしめ外に出た。
「何かあったんですか?」
「少し探しものをしているんだ。たまたまそこに転がってた」
このペースで探して間に合うのか不安だが、どうにか誤魔化しつつやるしかない。
「その探しものって、俺のせいですか?」
「なんでそうなるんだ」
「俺が無傷で解放されたのって、先輩のおかげですよね?それに、願いを叶えられなかったら氷漬けにされるなら…」
自分を逃がす代わりに私が凍らされることになったのでは、と思っているんだろう。
「断じて違う。これはおまえが凍らされる前から頼まれていたんだ。
けど、今日が終わるまでに集めてなんとか持っていってやりたい」
流石に現物を見せるのはまずいと判断し、ケースに入れ終わったところで頭を下げた。
「え、ちょ、先輩!?」
「本当はひとりでやろうと思っていたんだ。けど、今の私じゃただ移動するにも時間がかかる。
…だから、陽向の負担にならない程度に力を貸してほしい」
しばらく沈黙が流れた後、恐る恐る頭をあげる。
怒っているかと思いきや、陽向は何故かにやにやしていた。
「当たり前じゃないですか!というか先輩、頼るの遅すぎます」
「…怒ってないのか?」
「怒ってませんよ。…あ、けど、もうちょっと早く言ってくれればよかったのに、とは思ってます」
陽向はいつものように笑って車椅子を動かしはじめた。
「先に放送室に寄ってもいいですか?」
「勿論」
「けど、あそこって車椅子じゃ無理ですよね」
「迷惑じゃなければ松葉杖でついていってもいいか?」
「はい!穂乃ちゃんがいるはずですから」
身構えながら教室に入ると、瞳をうるうるさせた穂乃を桜良が困った顔で慰めていた。
「えっと…どういう状況?」
「穂乃さんが心配だからと泣き出してしまって、その…」
「穂乃、私は大丈夫だから」
「お姉ちゃん…本当?」
「嘘じゃない」
言えない。体が凍りつつあるなんて話せば確実に周囲を追い詰めることになる。
「……!」
一瞬手の感覚が消え、近くの机に倒れそうになる。
「大丈夫ですか?」
「ごめん。やっぱり松葉杖って慣れないな」
陽向に支えてもらいながら穂乃に声をかける。
「こういう怪我を負うのが夜仕事だ。だから穂乃からは遠ざけておきたかった」
「でも、私は……」
「分かってる。強くなったな」
おいていかないでほしい、なんて言われてしまえば折れるしかなかった。
はじめこそどうすればいいか苦戦したが、少しずつ身を護る術が増えてきていることは悪いことじゃない。
「私が言えることじゃないけど、怪我だけはしないようにな」
「…うん」
「すまないが穂乃を頼む」
「分かりました。お気をつけて」
事情があると察してくれたのだろう。
穂乃に寄り添ってくれる桜良に感謝しつつ、視界の隅にうつった駒を握りしめ外に出た。
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