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第14章『冬女咲きほこる』
第118話
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『折原、聞こえるか?』
「う……」
『折原』
先生の声は聞こえるが、今は答えられる状況じゃない。
マイクのスイッチを入れ、目の前の女の子に話しかけた。
「ごめん。まだ全部は見つかってないんだ」
《そっか…残念。急イデね。次マデ抑エラレナイカモシレナイカラ》
もしかすると、この少女の本当の望みは──
「ぐあ!」
『すぐ行くからじっとしてろ。いいな』
あまりの痛みに腕を押さえ、その場にうずくまる。
いつの間にか右腕が所々凍っていて、感覚がなくなっていく。
「ひな、た…」
持っていたひざ掛けを肩にかけたが、これで多少はマシになるだろうか。
瞼が重くなっていくのに耐えられず、そのまま目を閉じた。
……次に目を開けたとき、見覚えのある白い天井がはっきり見えた。
「気がついたか」
「先生…」
「まだ動かない方がいい。温かくしておかないと悪化するぞ」
ちらっと見えたのは、右足まで氷の破片が広がっていることだ。
「休んでいられないんだ。早く見つけないと、冬女はきっと力を失う」
「どういうことだ」
仮説の話はしたくなかったが、そんなことは言っていられない。
ひととおり説明すると、先生は息を吐いた。
「…足跡が咲くほど力が強いやつと、そいつを抑えるおまえに頼みごとをした女児…厄介だな」
「早く見つけてやらないと、あの子は救われない」
足に感覚なんてないけど、それより残りの駒を探す必要がある。
「もう四の五の言わず他の奴らにも協力してもらった方がいい。その足で歩くのは無理だろう」
「でも、」
「車椅子を押してもらうだけだ。それなら影響も出ない」
先生はそれ以上は譲れないという表情をしていて、説得しきれる自信がなかった。
結局折れて小さく首を縦にふると、陽向がにこにこしながらこちらに寄ってくる。
「陽向…?大丈夫なのか?」
「はい。流石に死ぬかもって思ったんですけど、先輩のおかげでなんとかなりました!
ありがとうございます。ブランケット、洗って返しますね」
なんだかすっきりした表情をしているところを見ると、迷いは晴れたようだ。
「そういえば、後でちゃんと穂乃ちゃんと話した方がいいですよ。すごく心配してましたから」
「…そうだな」
車椅子を押してもらいながら中庭へ到着すると、陽向は少しずつ教えてくれた。
「必要なら分籍だってする、お金だっていらないし二度と関わる気はないから俺の生活を壊さないでほしいって連絡しました」
「そうか」
「自宅を突き止められたわけではなさそうだし、このまま逃げ切ってみせます。…先輩を見てたら強くなれました」
「私は特に何もしてないぞ」
「そんなことないです。こんなふうに話せたの、先輩だけだったので。今度何かお礼させてください」
陽向はにこにこでそんなことを言ってくる。
この1年、色々なことで迷いに迷ってきたはずなのにそれを一切感じない。
「また困ったときは頼ってほしい。私にできることならなんでもするよ」
「ほんと、先輩ってかっこよすぎて困ります。桜良が惚れちゃわないか心配です」
「……?」
意味をよく理解できず首を傾げた瞬間、目の前の花壇で何かが光っているのを見つける。
「ごめん。少し待ってくれ」
「う……」
『折原』
先生の声は聞こえるが、今は答えられる状況じゃない。
マイクのスイッチを入れ、目の前の女の子に話しかけた。
「ごめん。まだ全部は見つかってないんだ」
《そっか…残念。急イデね。次マデ抑エラレナイカモシレナイカラ》
もしかすると、この少女の本当の望みは──
「ぐあ!」
『すぐ行くからじっとしてろ。いいな』
あまりの痛みに腕を押さえ、その場にうずくまる。
いつの間にか右腕が所々凍っていて、感覚がなくなっていく。
「ひな、た…」
持っていたひざ掛けを肩にかけたが、これで多少はマシになるだろうか。
瞼が重くなっていくのに耐えられず、そのまま目を閉じた。
……次に目を開けたとき、見覚えのある白い天井がはっきり見えた。
「気がついたか」
「先生…」
「まだ動かない方がいい。温かくしておかないと悪化するぞ」
ちらっと見えたのは、右足まで氷の破片が広がっていることだ。
「休んでいられないんだ。早く見つけないと、冬女はきっと力を失う」
「どういうことだ」
仮説の話はしたくなかったが、そんなことは言っていられない。
ひととおり説明すると、先生は息を吐いた。
「…足跡が咲くほど力が強いやつと、そいつを抑えるおまえに頼みごとをした女児…厄介だな」
「早く見つけてやらないと、あの子は救われない」
足に感覚なんてないけど、それより残りの駒を探す必要がある。
「もう四の五の言わず他の奴らにも協力してもらった方がいい。その足で歩くのは無理だろう」
「でも、」
「車椅子を押してもらうだけだ。それなら影響も出ない」
先生はそれ以上は譲れないという表情をしていて、説得しきれる自信がなかった。
結局折れて小さく首を縦にふると、陽向がにこにこしながらこちらに寄ってくる。
「陽向…?大丈夫なのか?」
「はい。流石に死ぬかもって思ったんですけど、先輩のおかげでなんとかなりました!
ありがとうございます。ブランケット、洗って返しますね」
なんだかすっきりした表情をしているところを見ると、迷いは晴れたようだ。
「そういえば、後でちゃんと穂乃ちゃんと話した方がいいですよ。すごく心配してましたから」
「…そうだな」
車椅子を押してもらいながら中庭へ到着すると、陽向は少しずつ教えてくれた。
「必要なら分籍だってする、お金だっていらないし二度と関わる気はないから俺の生活を壊さないでほしいって連絡しました」
「そうか」
「自宅を突き止められたわけではなさそうだし、このまま逃げ切ってみせます。…先輩を見てたら強くなれました」
「私は特に何もしてないぞ」
「そんなことないです。こんなふうに話せたの、先輩だけだったので。今度何かお礼させてください」
陽向はにこにこでそんなことを言ってくる。
この1年、色々なことで迷いに迷ってきたはずなのにそれを一切感じない。
「また困ったときは頼ってほしい。私にできることならなんでもするよ」
「ほんと、先輩ってかっこよすぎて困ります。桜良が惚れちゃわないか心配です」
「……?」
意味をよく理解できず首を傾げた瞬間、目の前の花壇で何かが光っているのを見つける。
「ごめん。少し待ってくれ」
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