夜紅譚

黒蝶

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第14章『冬女咲きほこる』

第113話

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その日の夜、周囲に誰もいないのを確認して陽向からの連絡を待つ。
静かな旧校舎で着信音がやけに大きく感じられた。
「陽向」
『すみません、遅くなっちゃって…』
「私のことは気にしなくていい。それより何があったんだ?」
陽向は話しづらそうにしていたが、ゆっくり話しはじめた。
『…実は、家の人間が俺に会おうとしているみたいなんです。
今まで俺の生活の心配さえしてこなかったのに、監査部の生徒たちに聞いてまわってるみたいで…』
陽向の親は、1位以外は認めないという外道だ。
幼い頃からすぐにいなくなってしまいそうな存在だったと桜良から聞いている。
親と折り合いがつかないという意味では私も似たようなものだ。
「…せめて放っておいてくれればいいのにな」
『そういえば、先輩の家にいた男はどうなったんですか?』
そういう事情もあって、お互い家にいた人間たちのことを家族と表現していない。
私にとっての家族は穂乃と病死した母、そして白露だけだ。
「分からないんだ。闇金に追いかけ回されてるはずだから、適当に逃げて暮らしてるんじゃないかな」
『…そっちの方が気楽でいいかもしれません』
「やっぱり辛いか?」
『辛いというか、苦しいっていうのが本音かもしれません。あと、何を言われるんだろうって恐怖はあります』
それはそうだろう。私ももしあの男が現れて金銭以外の話をされれば、確実にうんざりするだろうから。
ましてやクズではない猛毒というのは余計困りものかもしれない。
「今のところ見つかってないんだよな?」
『はい。けど、もし知られたら桜良にも迷惑かけるかもしれなくて…。先輩ならどうしますか?』
「引っ越すのは現実的ではないし、不審者が現れるかもしれないから個人情報を教えないでほしいって周りに話しておくかもしれない。
あるいは、事情をありのまま包み隠さず話して説得するかだな。…どっちにしろ厳しいことに変わりないが」
少し考えてひとつ思いついたことがある。
「解決になるか分からないけど、一旦うちにこないか?部屋なら余ってるし、桜良とおまえを匿ったところで不都合はない」
『…それ、前向きに検討してもいいですか?』
「勿論だ」
『ありがとうございます!』
「…ごめん。こんなことで根本的な解決にはならないよな」
『いえ。俺は──』
通話がそこまでで途切れる。
ふと顔をあげると、目の前に真っ白な着物を着た女の子が立っていた。
《ねエ、遊ボウ?》
「……電波にも干渉できるなんて聞いてない」
少女の背後でゆらゆら蠢く巨大な白蛇に目をやりつつ、紅を塗ってかまえる。
「遊びって具体的にどんなことをすればいいんだ?」
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