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第14章『冬女咲きほこる』
第112話
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新学期早々、厄介な噂が流行りはじめている。
「ねえ、聞いた?雪女の話…」
「あれって雪女じゃないんでしょ?出会った人を凍らせるのは同じだけど、それは女性の願いを叶えられなかったからって聞いたよ」
「それはそれで怖くない?」
広まる噂を止めることはできない。
旧校舎へ向かうと、先生がいつものように検査の準備をしていた。
「桜良はもう大丈夫なのか?」
「…いや。そろそろくると思う」
「そうか」
先生の言うとおり、陽向に付き添われて桜良が顔を出す。
「おはよう」
「おはようございます。先輩も治療中ですか?」
「まあ、そんなところだ。桜良、体調はどうだ?」
「ゆっくり休めたからかだいぶよくなりました。心配をかけてしまってすみません」
「謝る必要はない。回復してきているならよかった」
少しだけ沈黙が流れたものの、陽向が思い出したように話し出す。
「そういえば、もう新しい噂が広まってるの聞きました?」
「ああ。雪女に似ている存在の噂だろ?」
「最近また活発に噂が飛び交ってますよね…」
どうしても過去のことを思い出してしまうが、なんとか顔に出さないよう頷く。
「いい加減な人間がいるのか、別の力がはたらいているのか…どのみち厄介だな」
「そうですね」
桜良の処置がおこなわれている間、陽向に問いかける。
「そういえば、この前話しかけてやめたことがあっただろう。何か問題でもあったのか?」
「ちょっとした悩みごとです。今話して心配かけたくないので、後でメッセージ送ってもいいですか?」
「勿論。電話の方がいいなら今夜なら必ず出るよ。夜仕事はあるけど、バイトは全部休みだし大丈夫なはずだから」
「ありがとうございます」
いつも元気いっぱいな陽向が、一瞬暗い顔をするほど深刻な悩みを抱えている。
そのまま放っておくことなんてできるはずがない。
「あまり無理しないように」
「ありがとうございます」
桜良が出てきたところで入れ違いにカーテンの奥へ入る。
ふたりの足音が遠ざかっていったのを確認して、先生が少し深刻そうな顔をして検査結果を見せてくれた。
「若干妖力が強まってる。一時的なものなのか半永続的なものなのかは不明だ」
「血液からそんなことも分かるんだな」
「…一応な」
先生は相変わらず苦い表情を浮かべていたが、カーテンが開かれるのと同時にそれをひっこめる。
「ふたりとも、何してたの?」
「怪我の具合を診ていただけだ」
「先生に怒られてただけだよ」
「そうなんだ…。先生、怒りすぎたら駄目だよ。詩乃ちゃんも、もうちょっと怪我減らそうよ。僕も頑張るから」
瞬に言われてしまっては何も言い返せない。
大人しく頷き、その場を後にする。
それにしても、陽向の悩みごととはなんだろう。
「ねえ、聞いた?雪女の話…」
「あれって雪女じゃないんでしょ?出会った人を凍らせるのは同じだけど、それは女性の願いを叶えられなかったからって聞いたよ」
「それはそれで怖くない?」
広まる噂を止めることはできない。
旧校舎へ向かうと、先生がいつものように検査の準備をしていた。
「桜良はもう大丈夫なのか?」
「…いや。そろそろくると思う」
「そうか」
先生の言うとおり、陽向に付き添われて桜良が顔を出す。
「おはよう」
「おはようございます。先輩も治療中ですか?」
「まあ、そんなところだ。桜良、体調はどうだ?」
「ゆっくり休めたからかだいぶよくなりました。心配をかけてしまってすみません」
「謝る必要はない。回復してきているならよかった」
少しだけ沈黙が流れたものの、陽向が思い出したように話し出す。
「そういえば、もう新しい噂が広まってるの聞きました?」
「ああ。雪女に似ている存在の噂だろ?」
「最近また活発に噂が飛び交ってますよね…」
どうしても過去のことを思い出してしまうが、なんとか顔に出さないよう頷く。
「いい加減な人間がいるのか、別の力がはたらいているのか…どのみち厄介だな」
「そうですね」
桜良の処置がおこなわれている間、陽向に問いかける。
「そういえば、この前話しかけてやめたことがあっただろう。何か問題でもあったのか?」
「ちょっとした悩みごとです。今話して心配かけたくないので、後でメッセージ送ってもいいですか?」
「勿論。電話の方がいいなら今夜なら必ず出るよ。夜仕事はあるけど、バイトは全部休みだし大丈夫なはずだから」
「ありがとうございます」
いつも元気いっぱいな陽向が、一瞬暗い顔をするほど深刻な悩みを抱えている。
そのまま放っておくことなんてできるはずがない。
「あまり無理しないように」
「ありがとうございます」
桜良が出てきたところで入れ違いにカーテンの奥へ入る。
ふたりの足音が遠ざかっていったのを確認して、先生が少し深刻そうな顔をして検査結果を見せてくれた。
「若干妖力が強まってる。一時的なものなのか半永続的なものなのかは不明だ」
「血液からそんなことも分かるんだな」
「…一応な」
先生は相変わらず苦い表情を浮かべていたが、カーテンが開かれるのと同時にそれをひっこめる。
「ふたりとも、何してたの?」
「怪我の具合を診ていただけだ」
「先生に怒られてただけだよ」
「そうなんだ…。先生、怒りすぎたら駄目だよ。詩乃ちゃんも、もうちょっと怪我減らそうよ。僕も頑張るから」
瞬に言われてしまっては何も言い返せない。
大人しく頷き、その場を後にする。
それにしても、陽向の悩みごととはなんだろう。
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