夜紅譚

黒蝶

文字の大きさ
上 下
132 / 309
閑話『それぞれの平穏』

寒空の下で

しおりを挟む
「瞬」
「あ、先生」
「あ、じゃない。声をかけていたの、気づかなかったのか?」
「ごめん。なんだかちょっと静かだからぼんやりしてた」
いつもなら、ひな君なり誰かの声がする。
それが全く聞こえないというのは不思議なことで、どう時間を使えばいいか分からなくなっていた。
「受験の子の付添はもうないの?」
「そもそも引き受けてない」
「なんで?」
「…飛行機だの車だの、そういうのは得意じゃないんだ。昔から」
意外だった。結構一緒にいるのに、先生についてまだ知らないことが多い気がする。
「僕も飛行機は苦手だけど、車もなの?」
「……エンジン音が大きい」
そう呟いた先生がなんだか可愛くて、ついからかってしまいそうになる。
だけど、足元をつんつんする小さな雪だるまを視て、そんなことも言っていられなくなった。
《……》
「また来たの?今夜は天体観測するから、申し訳ないけど…」
子犬みたいなきゅるきゅるした目で見られて、どうしても断れなくなる。
「しかたないな…はいこれ」
《感謝感謝》
「友だちと仲良くね」
小さな雪だるまが去っていった後、先生が怪訝そうな顔で僕を見つめる。
「嫌なことをさせられているんじゃなくて、強風で仲間のマフラーや手袋がなくなっちゃったから助けてほしいって言われたんだ。
…雪だるまとはいえ、寒いなか防寒具もなかったら心まで凍るでしょ?」
「器用だな」
はじめは断ろうと思ったけど、なんだか昔の自分を見ているみたいで放っておけなかった。
「…今夜、星見られるかな?」
「大丈夫だろ。仕事も片づいたし、生徒がほとんどいないこの時期におかしな噂が流行ったりはしない。折原たちも休んでいるはずだ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ある公爵令嬢の生涯

ユウ
恋愛
伯爵令嬢のエステルには妹がいた。 妖精姫と呼ばれ両親からも愛され周りからも無条件に愛される。 婚約者までも妹に奪われ婚約者を譲るように言われてしまう。 そして最後には妹を陥れようとした罪で断罪されてしまうが… 気づくとエステルに転生していた。 再び前世繰り返すことになると思いきや。 エステルは家族を見限り自立を決意するのだが… *** タイトルを変更しました!

笑わない妻を娶りました

mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。 同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。 彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。

もしもしお時間いいですか?

ベアりんぐ
ライト文芸
 日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。  2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。 ※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。

【完結】ぼくとママの3,735日 ~虹の橋の天使~

朔良
ライト文芸
子犬と飼い主が出逢い お互いの信頼を築いていく お出掛けや旅行 楽しいことも悲しいことも 一緒に乗り越えていく ワンコ目線で描いています。 ※著者の体験談を元に書いてます。

透明の「扉」を開けて

美黎
ライト文芸
先祖が作った家の人形神が改築によりうっかり放置されたままで、気付いた時には家は没落寸前。 ピンチを救うべく普通の中学2年生、依る(ヨル)が不思議な扉の中へ人形神の相方、姫様を探しに旅立つ。 自分の家を救う為に旅立った筈なのに、古の予言に巻き込まれ翻弄されていく依る。旅の相方、家猫の朝(アサ)と不思議な喋る石の付いた腕輪と共に扉を巡り旅をするうちに沢山の人と出会っていく。 知ったからには許せない、しかし価値観が違う世界で、正解などあるのだろうか。 特別な能力なんて、持ってない。持っているのは「強い想い」と「想像力」のみ。 悩みながらも「本当のこと」を探し前に進む、ヨルの恋と冒険、目醒めの成長物語。 この物語を見つけ、読んでくれる全ての人に、愛と感謝を。 ありがとう 今日も矛盾の中で生きる 全ての人々に。 光を。 石達と、自然界に 最大限の感謝を。

シャウトの仕方ない日常

鏡野ゆう
ライト文芸
航空自衛隊第四航空団飛行群第11飛行隊、通称ブルーインパルス。 その五番機パイロットをつとめる影山達矢三等空佐の不本意な日常。 こちらに登場する飛行隊長の沖田二佐、統括班長の青井三佐は佐伯瑠璃さんの『スワローテールになりたいの』『その手で、愛して。ー 空飛ぶイルカの恋物語 ー』に登場する沖田千斗星君と青井翼君です。築城で登場する杉田隊長は、白い黒猫さんの『イルカカフェ今日も営業中』に登場する杉田さんです。※佐伯瑠璃さん、白い黒猫さんには許可をいただいています※ ※不定期更新※ ※小説家になろう、カクヨムでも公開中※ ※影さんより一言※ ( ゚д゚)わかっとると思うけどフィクションやしな! ※第2回ライト文芸大賞で読者賞をいただきました。ありがとうございます。※

暴走族のお姫様、総長のお兄ちゃんに溺愛されてます♡

五菜みやみ
ライト文芸
〈あらすじ〉 ワケあり家族の日常譚……! これは暴走族「天翔」の総長を務める嶺川家の長男(17歳)と 妹の長女(4歳)が、仲間たちと過ごす日常を描いた物語──。 不良少年のお兄ちゃんが、浸すら幼女に振り回されながら、癒やし癒やされ、兄妹愛を育む日常系ストーリー。 ※他サイトでも投稿しています。

処理中です...