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第13章『聖夜の贈り物』
第111話
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「……」
先生が無言で見つめてくる視線が痛い。
「その…ごめん」
「あれほど怪我を増やすなと言っただろ」
「避けきれなかったんだ。あと、今日だけはどうしても行かないといけないところがある」
「…ひとりで行かせられない」
なんとか外へ出る許可はもらえたものの、先生と瞬がついてきた。
向かったのは、大男と会った場所。
「簪は女性に返した」
《見つけたのか?》
「たまたまな。だからもう誰かを襲う心配もない」
《…ならば、俺の役目はここまでだな》
ブラックサンタはその場に袋を置き、どっしりと座りこむ。
「あの人とはどういう関係なんだ?」
《…恨みで動けなくなっているのを見つけた。大切な簪を落としてしまい、ずっと探しているのも知っていた。
…もし見つかれば憎悪だけで動くこともなくなるだろうと考えたんだ》
「優しいんだな」
《困っている相手を少し手助けしたまで。大したことはしていない》
この大男も、もう誰かを害そうとは思っていないだろう。
…そもそも、攻撃する意思はなかったのかもしれない。
《俺はこれで退散するとしよう》
大男は満足げに微笑み、そのまま姿を消した。
「ひとつ問題が残るな」
「逮捕された人たちの話か?」
「ああ」
まさか奇行に及んだのは取り憑かれていたからです、なんて説明できない。
そうこうしているうちに、ブルーシートがかけられた一角を通り過ぎた。
「問題、もうひとつあると思う」
「せ、せんせ…」
「大丈夫だ。おまえは何も見なかった。いいな?」
怯える瞬を抱き寄せながら先程通り過ぎた場所を見つめる。
《なんだこれ、なんでこんな…》
《あの化け物は?あたしたち死んだの?》
おそらく、遊び半分で簪を破壊した者たちだ。
普通の人間が怨念に勝てるはずがない。
「死因不明ってことになるのかな」
「おそらく。あるいは心臓発作で突然死、とか…。なんにせよ、俺たちにできることはない」
今の私には、あんなに強い怨念をどうにかできるほどの器量はない。
だが、できれば誰も傷つけずに解決できる方法を探したかった。
「全てを救えるほど万能な人はいない」
「…そうだな。分かってはいるんだけど、やっぱり割り切れないんだ」
先生は瞬の頭を撫でながら、雪降る空を見上げてぽつりと呟く。
「だが、それを目標にしてひたむきに努力することに意味はあると思う。俺はそう信じてる」
こんなときでも先生は優しい。
ただ、怪我をしたことは絶対に見逃してくれそうにない。
「反省文、とまでは言わないが…何をしてもらおうか」
「何かする前提なのか」
「考えておく」
傷はどうしても痛むが、胸の痛みは不思議と消えている。
思考をリセットさせるように雪が降り積もっていった。
先生が無言で見つめてくる視線が痛い。
「その…ごめん」
「あれほど怪我を増やすなと言っただろ」
「避けきれなかったんだ。あと、今日だけはどうしても行かないといけないところがある」
「…ひとりで行かせられない」
なんとか外へ出る許可はもらえたものの、先生と瞬がついてきた。
向かったのは、大男と会った場所。
「簪は女性に返した」
《見つけたのか?》
「たまたまな。だからもう誰かを襲う心配もない」
《…ならば、俺の役目はここまでだな》
ブラックサンタはその場に袋を置き、どっしりと座りこむ。
「あの人とはどういう関係なんだ?」
《…恨みで動けなくなっているのを見つけた。大切な簪を落としてしまい、ずっと探しているのも知っていた。
…もし見つかれば憎悪だけで動くこともなくなるだろうと考えたんだ》
「優しいんだな」
《困っている相手を少し手助けしたまで。大したことはしていない》
この大男も、もう誰かを害そうとは思っていないだろう。
…そもそも、攻撃する意思はなかったのかもしれない。
《俺はこれで退散するとしよう》
大男は満足げに微笑み、そのまま姿を消した。
「ひとつ問題が残るな」
「逮捕された人たちの話か?」
「ああ」
まさか奇行に及んだのは取り憑かれていたからです、なんて説明できない。
そうこうしているうちに、ブルーシートがかけられた一角を通り過ぎた。
「問題、もうひとつあると思う」
「せ、せんせ…」
「大丈夫だ。おまえは何も見なかった。いいな?」
怯える瞬を抱き寄せながら先程通り過ぎた場所を見つめる。
《なんだこれ、なんでこんな…》
《あの化け物は?あたしたち死んだの?》
おそらく、遊び半分で簪を破壊した者たちだ。
普通の人間が怨念に勝てるはずがない。
「死因不明ってことになるのかな」
「おそらく。あるいは心臓発作で突然死、とか…。なんにせよ、俺たちにできることはない」
今の私には、あんなに強い怨念をどうにかできるほどの器量はない。
だが、できれば誰も傷つけずに解決できる方法を探したかった。
「全てを救えるほど万能な人はいない」
「…そうだな。分かってはいるんだけど、やっぱり割り切れないんだ」
先生は瞬の頭を撫でながら、雪降る空を見上げてぽつりと呟く。
「だが、それを目標にしてひたむきに努力することに意味はあると思う。俺はそう信じてる」
こんなときでも先生は優しい。
ただ、怪我をしたことは絶対に見逃してくれそうにない。
「反省文、とまでは言わないが…何をしてもらおうか」
「何かする前提なのか」
「考えておく」
傷はどうしても痛むが、胸の痛みは不思議と消えている。
思考をリセットさせるように雪が降り積もっていった。
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