夜紅譚

黒蝶

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第13章『聖夜の贈り物』

第106話

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「詩乃ちゃん!?」
手当ての途中だったことも忘れて、そのまま新校舎へ走り抜ける。
「今どこにいるんだ?」
『新校舎と旧校舎の間の廊下…。普段施錠されていて通れないのに、開いてたから入っちゃったの』
「分かった。できるだけじっとしててくれ」
見つかれば何をされるか分からない。
相手の目的が分からない以上、このまま向かうしかないだろう。
普段は老朽化を理由に使えなくなっている場所が開いているなんて、未知の世界でしかない。
《カ、カラカラ……》
そう乾いた笑い声をあげながらこちらを振り向いたそれは、間違いなく人間ではない何かだった。
視線を動かすと、クローゼットのようなもののところに穂乃のスカートが挟まっている。
「……誰なんだ」
《カラカラ》
「それが名前なのか?」
《カラカラ》
どうやらそれ以外は話せないようで、言葉が通じているかは分からない。
そもそも何故こんなところにクローゼットがあるんだろう。
疑問に思いながらも、穂乃たちの方を向かせまいと話しかけた。
「人間を襲っているのはおまえなのか?」
《カラカラ》
「どうしてそんなことをするんだ」
《カラカラ》
…通じている気がしない。
どうしたものかと困惑していると、相手は持っていた袋の中身をぶちまけた。
普通の大きさではない、ムカデのような虫。
うじゃうじゃとはってくるそれをどう止めようか迷った。
「近づかれても困る」
燃やしてしまっては後が怖い。
持っていた矢で囲い、中から出てこられないようにする。
《……エ》
「え?」
《食エ、食エ!》
ひとつかみした虫の塊をこちらに投げつけてくる。
そこに紛れていたのは間違いなく毒虫で、どう考えても食べられるものではない。
「ごめん。これは食べられない」
《クエエエ!》
その姿はまさしく、真っ黒な巨大サンタクロース。
ブラックサンタは虫を食べるよう強要してくるが、なんとか攻撃をかわす。
《クエクエクエクエクエクエ》
「無理なものは無理だ」
《クエクエクエクエ》
どうやら生きている毒虫が紛れていたらしく、針が傷口を抉る。
「う……!」
腕に激痛がはしり、その場にへたりこむ。
《クエ》
近づいてきた大男の力に敵うはずもなく、そのまま首を掴まれる。
……これは終わったかもしれない。
何もかもから目を背けたくて瞼をおろす。
「やめて!」
直後、無数の光が降り注ぐ。
《グア!》
「……っ、ごほごほ!」
倒れこんだ私の前に誰かが立っている。
その手足は震えていて、とても戦える状況じゃない。
──それなのに。
「これ以上お姉ちゃんに意地悪しないで!」
穂乃は私が思っていた以上に成長したらしい。
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