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第12章『甘美な声』
第101話
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《…お手玉、私だけ持ってなかった》
「そう言うんじゃないかと思っておもちゃを持ってきたんだ。必要なものがあれば持っていってくれ」
《どうしてここまでしてくれるの?》
「約束しただろ?絶対に助けるって」
少女は他の年頃の子どもたちのように遊ぶことさえ許されなかった。
それならせめて、穴の中にいる他の少女たちと一緒に遊べるものがあってもいいだろう。
《ありがとう。村の人たちみたいに、仕方ないって言わないんだね》
「仕方ないことだと思わない。それから…ごめん。こんなことしかできなくて」
《いいの。その代わり、私たちのことをなかったことにしないで》
その言葉に頷き、そういえばと話しかける。
「名前、まだ聞いてなかったな」
《私?》
「ああ。こんなに落ち着いて話せたことがなかったから…」
《ふふ。私は藤。お姉さん、ありがとう》
その直後、突如としてその場が地獄絵図と化した。
《歌、止メ、テ…》
「狂歌だ」
「聞こえるのか?」
「…どうも波長が合ってきたらしい」
このままでは先生も危険だ。
どうしようか考えていると、インカムから声がした。
『大丈夫です。あとは私がやります』
「でも、」
『一時的なものを気にしたりしません。それより人命第一です』
「分かった。…ごめん」
足元にスピーカーを置くと、清らかな声が流れはじめた。
今夜は満月、月がのぼりきるまでに対処できなければ狂歌の効果が確実に出てしまう。
それに対抗できるのは、同じように満月に最大の効果を発揮する桜良の祈歌だけだ。
《歌が、終わる…》
《鏡花さん!》
《よかった。これでもう、何もいらない》
ほっとした様子の女性は、そのまま井戸へと戻っていく。
《お姉さん、助けてくれてありがとう。私も行かなくちゃ》
災厄の泥と持ってきたおもちゃと共に、少女は笑って姿を消した。
「あとはこれを被せれば終わりだ」
先生と瞬のお手製蓋を閉め、今夜のために用意しておいた札で封じる。
「桜良、大丈夫だ。歌はもう終わった」
『……終わり?』
「うん。終わりだ。ありがとう。全部桜良のおかげだ」
『終わり……』
『桜良!』
ぷつっと音がして、ふたりの様子が分からなくなる。
「終わったな」
「ああ。みんなのおかげだ」
傷は若干痛むものの、哀しみの歌はもう聞こえない。
だが、今回もやはり気になる点が残ってしまった。
「何かあったのか?」
「…いや、なんでもない」
あの男が絡んでいるなら、もう少し暴走していてもおかしくないはずだ。
それに、紙切れというのがひっかかってしかたない。
先生に先に出てもらって持っていた花束を供えようとすると、どこからか少女が現れた。
《気をつけて。次は名前を奪われる》
「それってどういう意味だ?誰を救ってほしくてここにいるんだ?」
そう尋ねたが、少女は涙を零し風にのって消えてしまった。
この事件も誰かが絡んでいる。
それを示すように、アメジストのような輝きを放つ玉が転がっていた。
「そう言うんじゃないかと思っておもちゃを持ってきたんだ。必要なものがあれば持っていってくれ」
《どうしてここまでしてくれるの?》
「約束しただろ?絶対に助けるって」
少女は他の年頃の子どもたちのように遊ぶことさえ許されなかった。
それならせめて、穴の中にいる他の少女たちと一緒に遊べるものがあってもいいだろう。
《ありがとう。村の人たちみたいに、仕方ないって言わないんだね》
「仕方ないことだと思わない。それから…ごめん。こんなことしかできなくて」
《いいの。その代わり、私たちのことをなかったことにしないで》
その言葉に頷き、そういえばと話しかける。
「名前、まだ聞いてなかったな」
《私?》
「ああ。こんなに落ち着いて話せたことがなかったから…」
《ふふ。私は藤。お姉さん、ありがとう》
その直後、突如としてその場が地獄絵図と化した。
《歌、止メ、テ…》
「狂歌だ」
「聞こえるのか?」
「…どうも波長が合ってきたらしい」
このままでは先生も危険だ。
どうしようか考えていると、インカムから声がした。
『大丈夫です。あとは私がやります』
「でも、」
『一時的なものを気にしたりしません。それより人命第一です』
「分かった。…ごめん」
足元にスピーカーを置くと、清らかな声が流れはじめた。
今夜は満月、月がのぼりきるまでに対処できなければ狂歌の効果が確実に出てしまう。
それに対抗できるのは、同じように満月に最大の効果を発揮する桜良の祈歌だけだ。
《歌が、終わる…》
《鏡花さん!》
《よかった。これでもう、何もいらない》
ほっとした様子の女性は、そのまま井戸へと戻っていく。
《お姉さん、助けてくれてありがとう。私も行かなくちゃ》
災厄の泥と持ってきたおもちゃと共に、少女は笑って姿を消した。
「あとはこれを被せれば終わりだ」
先生と瞬のお手製蓋を閉め、今夜のために用意しておいた札で封じる。
「桜良、大丈夫だ。歌はもう終わった」
『……終わり?』
「うん。終わりだ。ありがとう。全部桜良のおかげだ」
『終わり……』
『桜良!』
ぷつっと音がして、ふたりの様子が分からなくなる。
「終わったな」
「ああ。みんなのおかげだ」
傷は若干痛むものの、哀しみの歌はもう聞こえない。
だが、今回もやはり気になる点が残ってしまった。
「何かあったのか?」
「…いや、なんでもない」
あの男が絡んでいるなら、もう少し暴走していてもおかしくないはずだ。
それに、紙切れというのがひっかかってしかたない。
先生に先に出てもらって持っていた花束を供えようとすると、どこからか少女が現れた。
《気をつけて。次は名前を奪われる》
「それってどういう意味だ?誰を救ってほしくてここにいるんだ?」
そう尋ねたが、少女は涙を零し風にのって消えてしまった。
この事件も誰かが絡んでいる。
それを示すように、アメジストのような輝きを放つ玉が転がっていた。
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