夜紅譚

黒蝶

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第12章『甘美な声』

第100話

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「須郷さん」
夕方、偶然須郷美穂と会った。
「憲兵姫…!講義大丈夫なの?」
「ああ。レポートは提出しているし、出席日数は足りてるから」
「怪我が多くて心配になるよ。あたしの…」
須郷さんはそこまで言って動きを止める。
「あたしの、なんだろ?なんかに似てて、えっと…」
「弟さんか?」
「そうだ、弟!まだ帰ってきてないみたいなんだよね。なんで忘れてたんだろ…」
頭をかかえる彼女に寄り添うことしかできない。
「きっと疲れているんだ。弟さんのこと、私も色々あたってみるよ」
「ありがたいけど、なんでそこまでしてくれるの?あたし、こんななりだし、関わりたくないって思う人の方が多いと思ってた」
「見た目なんて関係ない。私はただ、目の前で困っている人の力になりたいんだ」
「かっこいい…あたしもそうなりたいな」
友だちなんてできないと思っていたが、意外としっかり話せていることに少し違和感を覚える。
そもそも、敬遠したいであろう監査部関係者の私に声をかけてくれたんだろう。
…今はそんなことを考えている場合ではないが。
「それじゃあまた」
「ありがと、憲兵姫」
手をふる彼女の表情には、少しだけ明るさが戻っていた。
「仲がいいのか?」
「よく分からない。腐れ縁みたいなものかな」
なんだか先生がほっこりしている気がするが、見なかったことにしよう。
「…歌が聞こえる」
「例の歌か?」
「うん。私やっぱり男だと思われてるんだろうな」
苦笑しながら歌の方へ進むと、やはり辿り着いたのは旧校舎第2会議室だった。
「そういえば、どうしてこの場所になったんだろう」
「おそらく、井戸が埋まっているのが丁度このあたりだからだろう」
「それでか。…陽向、今から中に入る。開かなくなったらごめん」
『分かりました。気をつけてくださいね』
ぞろぞろとわき出ている災厄を前に、私はただ声をかけることしかできない。
「鏡花さんか?」
《え、なンデ……》
「ごめん。ちょっとだけ調べた」
《…アナタモ違ウ》
「そのことについて話しにきたんだ。残念だが、おまえの待ち人は来ない」
《…アノ人は逃げタモの。だカラ壊しテやり直スノ!》
こちらへ向かって勢いよく飛んできた泥のようなものは、全て細い糸に絡めとられた。
「最後まで話を聞いてほしい」
《…慰めナラいらナイ》
「あなたの婚約者は殺された。約束どおり、あなたに会いに行こうとしたんだ。
それが住人たちに見つかって、秘密裏に処理されたらしい。…ここに書かれてる」
彼女は目を見開き、指さした箇所を細かく読む。
そして、口をぱくぱくさせながら呆然としていた。
《慶彦さん…そう、そうだったの…》
奥からこの前強制退場させられた少女がこちらを見つめている。
「おまえもやり残したことがあるんじゃないか?」
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