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第12章『甘美な声』
第95話
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「そんな濃厚な夢だったのか」
桜良の話に出てきた少女は、おそらく昨夜見たあの子と同一人物だ。
周囲を覆っていた泥のような形状の呪いに、本人の意志ではない攻撃…他にも共通点がある。
「彼女は自分だけでは止められないと話していました」
「私の前に現れた子もそう言っていた。止めてって何度も…。それだけ多くの人間が犠牲になっているなら納得だな」
「つまり、また半端じゃない呪いを相手しなきゃならないってことですか」
苦笑する陽向に桜良がぴしゃりと言い放った。
「嫌なら来なくていい。絶対危ない目に遭うことになるから」
「嫌なわけないでしょ?俺、壁役としては適任だし」
「…そんな理由?」
「なんで今になって封印が解かれたのかとか、気になることは色々あるしね」
ふたりの会話を聞きながら、気になったことを考えてみる。
紙切れの束というのがメモ帳のような形状だったなら、燃やしたはずの具現化ノートが再出現した可能性が高い。
そうなると事態はさらにややこしくなる。
「心配しなくても、あの男はもう絡めないでしょ」
「え?」
「先輩が心配するのも分かるけど、あんだけとどめを刺されたら流石にこないですよ」
「…それもそうか」
私には因縁の相手がいた。
みんなに協力してもらったおかげでその人物の力を全て切り捨てることができたが、行方知れずになったというのが不気味だ。
「杭が抜かれたと話していましたが、周りにそれらしいものはありませんでしたか?」
「折れているものならあったけど、真新しいものはなかった。新しい杭を作るにしても、手順を間違えれば呪いをふりまくことになるし…難しいな」
傷が痛むのを隠しながら、ふたりと話をすすめていく。
やはり現場を直接確認してもらうのがいいだろうか。
「…生贄たちについて知りたいか?」
突然声がしたと思ったら、先生と瞬が古い資料の束をかかえていた。
「それに記載されているのか?」
「ああ。おそらくこれで全部だ」
「少し読ませてくれ」
新聞記事のようになったそれを読んでみたが、少女と合致する見た目の人間の記事が見当たらない。
次の束に手を伸ばした瞬間、運よく顔写真がうつっているものを見つけた。
「桜良が視たのもこの子か?」
「はい。首筋にほくろがふたつ並んでいるし、着ているものが少し似ています」
これで別人だったらかなりまずかったが、なんとかなりそうだ。
「第2会議室を調べてみるしかなさそうだな」
「そうですね。今のところ他に手がかりがありませんし…」
夜まで待とうということになり、保健室に桜良とふたり残される。
「…残酷な儀式って、思っていた以上に頻繁に行われていたんですね」
「そうだな。私もびっくりだよ」
【生贄は笑顔を崩すことは赦されない。
赦しのときがくるまで井戸の封が切られることはなく、大人しくしていること。
生贄の歳の数だけ杭を立て、目印にする。
そこに降り注いだ災厄とともに少女ごと封じれば儀式完了だ】
…そんな走り書きが残っていれば、嫌でも想像してしまう。
少女たちの無念と憎悪、そして共に封じられた厄災。
ただひとつ気になったのは、あの少女のことだ。
彼女は誰も傷つけるつもりはなさそうだった。
何故人間を憎んでいないのだろうか。
「…まだ調べることがありそうだ」
桜良の話に出てきた少女は、おそらく昨夜見たあの子と同一人物だ。
周囲を覆っていた泥のような形状の呪いに、本人の意志ではない攻撃…他にも共通点がある。
「彼女は自分だけでは止められないと話していました」
「私の前に現れた子もそう言っていた。止めてって何度も…。それだけ多くの人間が犠牲になっているなら納得だな」
「つまり、また半端じゃない呪いを相手しなきゃならないってことですか」
苦笑する陽向に桜良がぴしゃりと言い放った。
「嫌なら来なくていい。絶対危ない目に遭うことになるから」
「嫌なわけないでしょ?俺、壁役としては適任だし」
「…そんな理由?」
「なんで今になって封印が解かれたのかとか、気になることは色々あるしね」
ふたりの会話を聞きながら、気になったことを考えてみる。
紙切れの束というのがメモ帳のような形状だったなら、燃やしたはずの具現化ノートが再出現した可能性が高い。
そうなると事態はさらにややこしくなる。
「心配しなくても、あの男はもう絡めないでしょ」
「え?」
「先輩が心配するのも分かるけど、あんだけとどめを刺されたら流石にこないですよ」
「…それもそうか」
私には因縁の相手がいた。
みんなに協力してもらったおかげでその人物の力を全て切り捨てることができたが、行方知れずになったというのが不気味だ。
「杭が抜かれたと話していましたが、周りにそれらしいものはありませんでしたか?」
「折れているものならあったけど、真新しいものはなかった。新しい杭を作るにしても、手順を間違えれば呪いをふりまくことになるし…難しいな」
傷が痛むのを隠しながら、ふたりと話をすすめていく。
やはり現場を直接確認してもらうのがいいだろうか。
「…生贄たちについて知りたいか?」
突然声がしたと思ったら、先生と瞬が古い資料の束をかかえていた。
「それに記載されているのか?」
「ああ。おそらくこれで全部だ」
「少し読ませてくれ」
新聞記事のようになったそれを読んでみたが、少女と合致する見た目の人間の記事が見当たらない。
次の束に手を伸ばした瞬間、運よく顔写真がうつっているものを見つけた。
「桜良が視たのもこの子か?」
「はい。首筋にほくろがふたつ並んでいるし、着ているものが少し似ています」
これで別人だったらかなりまずかったが、なんとかなりそうだ。
「第2会議室を調べてみるしかなさそうだな」
「そうですね。今のところ他に手がかりがありませんし…」
夜まで待とうということになり、保健室に桜良とふたり残される。
「…残酷な儀式って、思っていた以上に頻繁に行われていたんですね」
「そうだな。私もびっくりだよ」
【生贄は笑顔を崩すことは赦されない。
赦しのときがくるまで井戸の封が切られることはなく、大人しくしていること。
生贄の歳の数だけ杭を立て、目印にする。
そこに降り注いだ災厄とともに少女ごと封じれば儀式完了だ】
…そんな走り書きが残っていれば、嫌でも想像してしまう。
少女たちの無念と憎悪、そして共に封じられた厄災。
ただひとつ気になったのは、あの少女のことだ。
彼女は誰も傷つけるつもりはなさそうだった。
何故人間を憎んでいないのだろうか。
「…まだ調べることがありそうだ」
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