夜紅譚

黒蝶

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第12章『甘美な声』

第91話

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「封印されたものってどんなものなんだ?」
「人間を惑わせ、自らの栄養を運んでくるよう仕向ける存在だ」
「え、なにそれ怖っ!」
「…成程。つまり今捕まっている人間たちが次に姿を見せたとき、それはもう操り人形に近い存在になっている可能性が高いってことか」
それに、誰も覚えていないとなると洗脳を解くのは至難の業だ。
「先生って校長に嫌われてるんでしたっけ」
「直球だな…」
「あの男とは反りが合わない。というより、根本的な考え方の違いがある」
先生がここまで嫌悪感丸出しで話すのは珍しい。
中等部は知らないが、たしかに高等部の校長は腐っている。
だから副校長の方が人望があるのだ。
「洗脳を解く方法は確立されてないんだな」
「…俺が知る限りでは」
「そんな…。じゃあ、そこから俺たちで探さないといけないってことですか?」
「外に出た災厄をもう一度封じられればおそらく元に戻せる」
どちらかといえばそっちの方が難しいかもしれない。
いつどこに現れるか分からない相手を、しかも別の場所に移動されてしまった百葉箱を使うとなるとかなり厳しいだろう。
「百葉箱の代わりはないのか?」
「それらしい形をしたものなら用意できるかもしれないが、あまり期待しないでくれ」
「分かった。ひとまず噂を調べるところからだな」
相手をどうするかはまだ保留として、私たちにできるのは少しでもいなくなってしまった人の痕跡をたどることだ。
「陽向、やれそうか?」
「多分。というか、なんとかやってみるしかないですよね…。これが証言をまとめた資料です」
陽向がまとめたそれには、まだ人々から失踪者がたしかにそこにいたという証が残されていた。
よく読んでみると、生徒たちには共通点がある。
「何かしら音楽に関わっていたんだな」
「ほんとだ、気づかなかった…!」
中等部コーラス部パートリーダーに、カラオケ大会優勝者…そして、吹奏楽部副部長。
「声で魅了して自分のことを認めさせたいってことなのか?」
「どうなんでしょうね…。実は本人に自信がないってタイプにも見えます」
「自信がないから他者を操って声を奪ってしまおう、ということか?一理あるな」
ふたりで資料を見ながら話しているうちに、ある人物が目にはいる。
「ちょっと話を聞いてみるよ」
「誰にですか?」
複雑な気持ちになるが、彼女ならきっと覚えているはずだ。
もしかすると、手がかりに繋がるかもしれない。
「同じゼミを取ってる生徒の弟が消えてる。多少力があるみたいだから、ある程度弟さんのことも分かるはずだ」
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