夜紅譚

黒蝶

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第11章『そよ風の知らせ』

第84話

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逃げた先には先生がいて、瞬が治療を受けていた。
「その怪我はどうした」
「……言いたくない」
「瞬」
「だって、もし言ったら先生は気にするでしょ…?」
「それは…」
会話に入っていいか迷ったが、さり気なく訊いてみることにした。
「何があったんだ?」
「先生に向かって風が吹いたから、突き飛ばしたんだ。そうしないと、怪我したら大変なこと、に…」
はっとした顔をして瞬がこちらを見た。
「え、詩乃ちゃん!?」
「だから先生が落ちこむと思って隠してたのか」
「……あ」
ふと先生を見ると、肩を落として黙っている。
「違う。この怪我は、」
「悪かった。…油断してたうえに気を遣わせたな」
「そんなことない。僕は、先生が無事ならそれで…」
俯く瞬を頭をわしわしと撫で、先生は手袋を取り出した。
「何かやるのか?」
「少しな」
「先生?怖いよ?」
「心配する必要はない。…少々おいたがすぎるからな」
糸で作られた鞠のようなものは、触れただけで体をばらばらにしてしまいそうなほど妖力がこめられている。
「あの小さいのがやってるなら、これで充分だろう」
「充分どころか相手を消しちゃいそうだよ?もうちょっと優しく、」
「無理」
先生が子どもみたいに話すところなんて見たことなかった。
やっぱり瞬のことになると、冷静ではいられなくなるらしい。
「先生たちが会ったのはどんな奴だったんだ?」
「子どもの姿をしていた」
「小さい男の子だったよ。風を自由に操ってるみたいに見えたけど、どうなっていたのかよく分からない」
やはり予想どおりか。
「私が聞いたのは女の声で、祠を壊されたって怒っていた。先生のクラスの生徒たちが消えたのは、その中に犯人がいると疑われているからだ」
かなり怒っていたが、無理もない。
もし平穏な生活を壊されてしまったのだとすれば、怒るのも当然だ。
だが、それならもうひとり…おそらく噂に左右されているのは誰なんだろう。
「ふたりいるの?」
「一方は噂、もう一方は偶然同じ時期に祠を壊されて怒ってる妖なんじゃないかと思ってる」
「そっか。だからひな君のクラスの人たちは夕方消えた…」
ふたりが考えこむ様子を見て、一旦大学に顔を出すことにした。
「ちょっと行ってくるよ」
どうしても大学棟で確認したいことがあった。
「須郷さん、おはよう」
「あれ、憲兵姫じゃん!おはよう!」
「昨日の写真、また見せてもらってもいいかな?私にも妹がいて、どこかで記念写真を撮ろうと思って迷ってるんだ」
「あの写真は、近所の公園で撮ったやつだよ。カメラ派ならここのメーカーのやつ、アプリならこっちがおすすめだよ」
色々話しているうちに、昨日少しだけ話した相手がやってくる。
「おはよう。ねえ麻由里、いいアプリ知らない?妹とよく写真撮ってるじゃん。
あたしが使ってるやつより麻由里のやつの方が綺麗に撮れてるでしょ?」
すると、少女は首を傾げはっきり告げた。
「…妹?何のこと?」
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