夜紅譚

黒蝶

文字の大きさ
上 下
96 / 309
第11章『そよ風の知らせ』

第80話

しおりを挟む
ハロウィンの事件から数日、いつもどおり先生の診察を受けている。
「腕の調子はどうだ?」
「だいぶよくなった。ありがとう。先生のおかげだな」
「買いかぶりすぎだ」
先生はそう言ってるけど、本当に感謝している。
自分ひとりじゃ傷を悪化させてしまっていただろう。
「先生がいなかったら、今の私はここにいない」
「…不安定なのか?」
「具合が悪いわけじゃないよ。ただ、こんなふうに誰かに頼りきりになる状況になったことがあんまりないからどうすればいいか分からないんだ」
いつだってひとりでなんとかしようと思っていた。
上手くいかないこともあったが、いつもそう思いこんでいたのだ。
それを先生に見抜かれて、今ではこうしてお世話になりっぱなしの状態が続いている。
「血液検査の結果だが、何故か鉄分不足が続いてる。取り敢えず引き続きサプリを飲んでくれ」
「分かった。ありがとう」
旧校舎の保健室を出ると同時に陽向が駆け寄ってきた。
「おはようございます、先輩」
「おはよう。どうしたんだ?顔が青いが…」
陽向は深刻そうな表情でゆっくり話しはじめた。
「先輩は、新しい噂が流行りはじめたのを知ってますか?」
「先生からちょっと聞いた程度だ」
そよ風にさらわれた者が忽然と姿を消してしまう、という内容の噂だったはずだ。
そして、いつもどおり消えた人間のことを周囲の人間たちはどんどん忘れていく。
「あれがどうかしたのか?」
「…俺のクラス、昨日遅くまで今度秋のクラス遠足をどうするかって話し合いをしてたんです。
監査部の後輩たちに呼ばれて席を外して戻ったら、教室には誰も残っていませんでした」
話し合いが終わったから帰った、なんていう簡単な話ではないのだろう。
「桜良は放送室にいたから見てなくて…。今日教室に入ろうとしたら、机と椅子が積み上げられていたんです。
まるで、最初から倉庫だったみたいに…。しかも、この時間なのに誰も来てないんです」
「…かなりまずいな」
集団失踪事件、ということになるのだろうか。
もう1時限目の時間なのに、誰ひとりいないというのはおかしい。
「私の方でも調べてみる。たしか、大学棟におまえのクラスメイトの兄弟がいたはずだから」
「すみません。お願いします」
「それから、先生はそこの保健室にいるから話しておいた方がいい」
「そうします。…なんか、先輩と話してちょっと冷静になれました。ちょっと報告してきます!」
陽向が走り去っていったのを見届け、大学棟へ向かう。
空いている席に座ると、どこからか飛ばされてきたであろう写真が落ちてきた。
「これは…」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

詩集☆心から書く詩《うた》

〜神歌〜
ライト文芸
こんにちは神歌神明です。 私は時折しか詩を書きません ですから、、、 申し訳無いのですが 更新は定期的ではないです。 ただその分、心から感じた事を 精一杯、私の表現で書きます もし、宜しければ ご覧頂ければ嬉しく思います。 では、、、 私の詩があなたの何かの支えになれれば 幸いです

放浪探偵の呪詛返し

紫音@キャラ文芸大賞参加中!
ミステリー
※第7回ホラー・ミステリー小説大賞にて異能賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  観光好きで放浪癖のある青年・永久天満は、なぜか行く先々で怪奇現象に悩まされている人々と出会う。しかしそれは三百年前から定められた必然だった。怪異の謎を解き明かし、呪いを返り討ちにするライトミステリー。 ※2024/11/7より第二部(第五章以降)の連載を始めました。  

『笑顔のパン屋さん』

シエル
ライト文芸
アイデンティティにかけ毎日を退屈に過ごす高校2年生の花澤美心。 そんなある日、移動販売としてパンを売りにきた『笑顔のパン屋』の店主 宮原笑実と出会う。 笑実の作るパンに心動かされアルバイトを始める事を決意する美心。 働く中で自分自身と向き合い成長していく美心、それを見守る笑実。 しかしそんな笑実も過去の大震災のトラウマから精神疾患を患っていた。 「笑顔を届ける」をテーマに前に進んでいく二人を描くヒューマンストーリー。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

フリーの祓い屋ですが、誠に不本意ながら極道の跡取りを弟子に取ることになりました

あーもんど
キャラ文芸
腕はいいが、万年金欠の祓い屋────小鳥遊 壱成。 明るくていいやつだが、時折極道の片鱗を見せる若頭────氷室 悟史。 明らかにミスマッチな二人が、ひょんなことから師弟関係に発展!? 悪霊、神様、妖など様々な者達が織り成す怪奇現象を見事解決していく! *ゆるゆる設定です。温かい目で見守っていただけると、助かります*

【完結】試される愛の果て

野村にれ
恋愛
一つの爵位の差も大きいとされるデュラート王国。 スノー・レリリス伯爵令嬢は、恵まれた家庭環境とは言えず、 8歳の頃から家族と離れて、祖父母と暮らしていた。 8年後、学園に入学しなくてはならず、生家に戻ることになった。 その後、思いがけない相手から婚約を申し込まれることになるが、 それは喜ぶべき縁談ではなかった。 断ることなったはずが、相手と関わることによって、 知りたくもない思惑が明らかになっていく。

完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。 結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに 「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……

加藤純一と高田健志といぶさん、時々もこう

いぶさん
ライト文芸
何か寝ていれば、スゴイ夢(小並感)見るんですよ。ゆめにっきみたいで、ホントは良くないんでしょうけど、印象に残った夢だけ、ここに書いていこうと思います。

処理中です...