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第11章『そよ風の知らせ』
第80話
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ハロウィンの事件から数日、いつもどおり先生の診察を受けている。
「腕の調子はどうだ?」
「だいぶよくなった。ありがとう。先生のおかげだな」
「買いかぶりすぎだ」
先生はそう言ってるけど、本当に感謝している。
自分ひとりじゃ傷を悪化させてしまっていただろう。
「先生がいなかったら、今の私はここにいない」
「…不安定なのか?」
「具合が悪いわけじゃないよ。ただ、こんなふうに誰かに頼りきりになる状況になったことがあんまりないからどうすればいいか分からないんだ」
いつだってひとりでなんとかしようと思っていた。
上手くいかないこともあったが、いつもそう思いこんでいたのだ。
それを先生に見抜かれて、今ではこうしてお世話になりっぱなしの状態が続いている。
「血液検査の結果だが、何故か鉄分不足が続いてる。取り敢えず引き続きサプリを飲んでくれ」
「分かった。ありがとう」
旧校舎の保健室を出ると同時に陽向が駆け寄ってきた。
「おはようございます、先輩」
「おはよう。どうしたんだ?顔が青いが…」
陽向は深刻そうな表情でゆっくり話しはじめた。
「先輩は、新しい噂が流行りはじめたのを知ってますか?」
「先生からちょっと聞いた程度だ」
そよ風にさらわれた者が忽然と姿を消してしまう、という内容の噂だったはずだ。
そして、いつもどおり消えた人間のことを周囲の人間たちはどんどん忘れていく。
「あれがどうかしたのか?」
「…俺のクラス、昨日遅くまで今度秋のクラス遠足をどうするかって話し合いをしてたんです。
監査部の後輩たちに呼ばれて席を外して戻ったら、教室には誰も残っていませんでした」
話し合いが終わったから帰った、なんていう簡単な話ではないのだろう。
「桜良は放送室にいたから見てなくて…。今日教室に入ろうとしたら、机と椅子が積み上げられていたんです。
まるで、最初から倉庫だったみたいに…。しかも、この時間なのに誰も来てないんです」
「…かなりまずいな」
集団失踪事件、ということになるのだろうか。
もう1時限目の時間なのに、誰ひとりいないというのはおかしい。
「私の方でも調べてみる。たしか、大学棟におまえのクラスメイトの兄弟がいたはずだから」
「すみません。お願いします」
「それから、先生はそこの保健室にいるから話しておいた方がいい」
「そうします。…なんか、先輩と話してちょっと冷静になれました。ちょっと報告してきます!」
陽向が走り去っていったのを見届け、大学棟へ向かう。
空いている席に座ると、どこからか飛ばされてきたであろう写真が落ちてきた。
「これは…」
「腕の調子はどうだ?」
「だいぶよくなった。ありがとう。先生のおかげだな」
「買いかぶりすぎだ」
先生はそう言ってるけど、本当に感謝している。
自分ひとりじゃ傷を悪化させてしまっていただろう。
「先生がいなかったら、今の私はここにいない」
「…不安定なのか?」
「具合が悪いわけじゃないよ。ただ、こんなふうに誰かに頼りきりになる状況になったことがあんまりないからどうすればいいか分からないんだ」
いつだってひとりでなんとかしようと思っていた。
上手くいかないこともあったが、いつもそう思いこんでいたのだ。
それを先生に見抜かれて、今ではこうしてお世話になりっぱなしの状態が続いている。
「血液検査の結果だが、何故か鉄分不足が続いてる。取り敢えず引き続きサプリを飲んでくれ」
「分かった。ありがとう」
旧校舎の保健室を出ると同時に陽向が駆け寄ってきた。
「おはようございます、先輩」
「おはよう。どうしたんだ?顔が青いが…」
陽向は深刻そうな表情でゆっくり話しはじめた。
「先輩は、新しい噂が流行りはじめたのを知ってますか?」
「先生からちょっと聞いた程度だ」
そよ風にさらわれた者が忽然と姿を消してしまう、という内容の噂だったはずだ。
そして、いつもどおり消えた人間のことを周囲の人間たちはどんどん忘れていく。
「あれがどうかしたのか?」
「…俺のクラス、昨日遅くまで今度秋のクラス遠足をどうするかって話し合いをしてたんです。
監査部の後輩たちに呼ばれて席を外して戻ったら、教室には誰も残っていませんでした」
話し合いが終わったから帰った、なんていう簡単な話ではないのだろう。
「桜良は放送室にいたから見てなくて…。今日教室に入ろうとしたら、机と椅子が積み上げられていたんです。
まるで、最初から倉庫だったみたいに…。しかも、この時間なのに誰も来てないんです」
「…かなりまずいな」
集団失踪事件、ということになるのだろうか。
もう1時限目の時間なのに、誰ひとりいないというのはおかしい。
「私の方でも調べてみる。たしか、大学棟におまえのクラスメイトの兄弟がいたはずだから」
「すみません。お願いします」
「それから、先生はそこの保健室にいるから話しておいた方がいい」
「そうします。…なんか、先輩と話してちょっと冷静になれました。ちょっと報告してきます!」
陽向が走り去っていったのを見届け、大学棟へ向かう。
空いている席に座ると、どこからか飛ばされてきたであろう写真が落ちてきた。
「これは…」
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