夜紅譚

黒蝶

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第10章『かぼちゃの森』

第78話

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「あ、先輩!大丈夫なんですか?」
「ああ。もう動けるしまだ戦える。それに、どうしても解決しないといけないからな」
陽向はほっとしたように息を吐いたが、それでも不安そうだ。
「心配しなくても本当に大丈夫だ」
「ならいいですけど…」
夜になるまで待つと、燃やしたはずの巨大かぼちゃが動いているのが目にはいった。
《オガジヲグレナギャ…》
なんだ。簡単なことだったのか。
炎の矢を打とうとしたが、持っていたクッキーを差し出す。
「これなら食べられるか?」
《ワアイ、お菓子ダア!》
ばらばらと音をたて、人形が撒かれていく。
「いやいや、お菓子が欲しかったから言ってたんじゃないのかよ!」
「陽向、走れ」
「どこにですか?」
「放送室を護れ。あとは私がやる」
「分かりました。気をつけてくださいね」
「ああ」
おそらくこの怪異は、例年のジャック・オ・ランタンと同じようにお菓子がほしいだけだ。
視界の端で人形が消えていくのが視えた。
つまり、このままお菓子を渡し続けていれば相手に攻撃の意思はないということになる。
「ほら、まだあるからゆっくり食べてくれ」
《お菓子、お菓子…》
楽しそうに貪るかぼちゃに思い切って尋ねてみた。
「お腹がすいてたのか?」
《お菓子、美味しい。お菓子、嫌なこと忘れられる》
「…辛い思いをしたんだな」
《……何も、考えなくていい。それが1番大事》
少しずつ正気を取り戻しつつあるのか、はっきり発音するようになった。
「考えたくないことがあるのか。…分かるよ。私もそういう時があるから」
《…食べる?》
「おまえの分だろう?いいのか?」
《悲しいときは、食べるに限る》
「ありがとう。いただきます」
あまりもらいすぎてはまずいが、少量なら大丈夫だろう。
咀嚼すると、かぼちゃが口の中でほろりと崩れた。
「美味しい」
《分け合う心、大事》
「そうだな」
周囲から人形たちが消え、気づけばただお菓子を食べているだけの状態になっている。
体は大きいが、とても心優しい怪異のようだ。
「…寂しかったのか?」
《もう平気。今、お腹いっぱい。幸せ…》
巨大なかぼちゃだけをその場に残し、忽然と姿を消した。
「陽向、そっちは何か変わったことはないか?」
『大丈夫です。ただ寂しかったんですかね…』
「一緒にお菓子を食べる誰かが欲しかったのかもしれないな」
そんな会話をしていると、人形のうち1体が消えていないことに気づく。
「この通信が繋がってる奴、全員耳をふさげ!」
《キイイイ!》
巨大かぼちゃから感じたものよりずっと強い悪意。
旧校舎1階はたちまち蔦のようなもので覆われてしまった。
そこには大量のかぼちゃができている。
「…やるしかないのか」
両手に火炎刃を持ち、先程矢にくくりつけた分の札も組み合わせる。
「こい。私が相手だ」
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