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第10章『かぼちゃの森』
第76話
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「ごめん。ずっと持たせてるな」
「もう慣れたんで大丈夫です」
相変わらず生首だけのままの生者を抱えてもらいながら、瞬が行っていた場所へと向かう。
「…ここか」
ジャック・オ・ランタンらしき姿が目に入り、思わず立ち止まる。
「今年の、なんか大きくないですか?」
「そうだな。この距離で私たちより大きいってことは…」
《キシシ!》
歩いてきた人形を火炎刃で斬り刻む。
「そんなに火炎刃出しちゃって大丈夫ですか…?」
「これ以上は厳しいかもしれない」
本来であれば、火炎刃を満月近くに使うなんて霊力切れで倒れていただろう。
だが、今の私はただの人間と体のつくりが少し違っている。
そのことを知るのは先生だけだが、できればあまり知られたくない。
《やめて!》
包丁を片手に息を切らす瞬は、いつもの姿ではなく限りなく暴走した死霊に近いものになっていた。
「瞬」
《やめ、て…》
「大丈夫だ。瞬、ゆっくり深呼吸しようか」
瞬は満月近くになると、力が暴走しやすくなる。
感情が大きく揺さぶられると大変なことになる、ちゃんと止められないかもしれないと先生が話していた。
《……詩乃ちゃん》
「よかった。落ち着いたか」
「ちび、大丈夫か?」
《うん。今は平気…》
瞬ははっと顔をあげ、私の腕を掴んだ。
《先生は!?》
「まだ見てないんだ。ただ、ここからでもあれは視えてる」
巨大なジャック・オ・ランタンは相変わらず暴れている。
《助けに行かない、と…》
勢いよく立ちあがってふらついた瞬を陽向が支える。
「おまえはもうちょっと休んでないと駄目。俺もここにいるから。…先輩、申し訳ないんですけど、」
「分かってる。様子を見てくるよ」
白露のことも気になるし、陽向が死ぬ瞬間を穂乃には見せられない。
それに、ここで瞬をひとりにしておくのは嫌だった。
「ちゃんと連絡するから心配しないでくれ」
《…ありがとう、詩乃ちゃん》
その場を離れ、走りながら穂乃たちを探す。
だが、どれだけジャック・オ・ランタンに近づいても見当たらなかった。
「む、室星先生!」
「俺はいいから、早く逃げろ」
「でも…」
《今のおまえが戦うのは厳しい》
先生たちの声が聞こえて、顔をあげる。
肩から血を流しながら糸で巨大かぼちゃを止めている先生と、刀を構えた白露の背後にかばわれている穂乃。
その光景を見た瞬間、自分の中で何かが弾けた。
「…燃やしてやる」
複数の札を矢に巻きつけ、相手の顔面に向かってそれを放つ。
「…無炎仏」
轟々と燃え盛る炎を見つめながら、その場に崩れ落ちる。
流石に力を使いすぎたようで、そのまま意識を飛ばした。
「もう慣れたんで大丈夫です」
相変わらず生首だけのままの生者を抱えてもらいながら、瞬が行っていた場所へと向かう。
「…ここか」
ジャック・オ・ランタンらしき姿が目に入り、思わず立ち止まる。
「今年の、なんか大きくないですか?」
「そうだな。この距離で私たちより大きいってことは…」
《キシシ!》
歩いてきた人形を火炎刃で斬り刻む。
「そんなに火炎刃出しちゃって大丈夫ですか…?」
「これ以上は厳しいかもしれない」
本来であれば、火炎刃を満月近くに使うなんて霊力切れで倒れていただろう。
だが、今の私はただの人間と体のつくりが少し違っている。
そのことを知るのは先生だけだが、できればあまり知られたくない。
《やめて!》
包丁を片手に息を切らす瞬は、いつもの姿ではなく限りなく暴走した死霊に近いものになっていた。
「瞬」
《やめ、て…》
「大丈夫だ。瞬、ゆっくり深呼吸しようか」
瞬は満月近くになると、力が暴走しやすくなる。
感情が大きく揺さぶられると大変なことになる、ちゃんと止められないかもしれないと先生が話していた。
《……詩乃ちゃん》
「よかった。落ち着いたか」
「ちび、大丈夫か?」
《うん。今は平気…》
瞬ははっと顔をあげ、私の腕を掴んだ。
《先生は!?》
「まだ見てないんだ。ただ、ここからでもあれは視えてる」
巨大なジャック・オ・ランタンは相変わらず暴れている。
《助けに行かない、と…》
勢いよく立ちあがってふらついた瞬を陽向が支える。
「おまえはもうちょっと休んでないと駄目。俺もここにいるから。…先輩、申し訳ないんですけど、」
「分かってる。様子を見てくるよ」
白露のことも気になるし、陽向が死ぬ瞬間を穂乃には見せられない。
それに、ここで瞬をひとりにしておくのは嫌だった。
「ちゃんと連絡するから心配しないでくれ」
《…ありがとう、詩乃ちゃん》
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だが、どれだけジャック・オ・ランタンに近づいても見当たらなかった。
「む、室星先生!」
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「…燃やしてやる」
複数の札を矢に巻きつけ、相手の顔面に向かってそれを放つ。
「…無炎仏」
轟々と燃え盛る炎を見つめながら、その場に崩れ落ちる。
流石に力を使いすぎたようで、そのまま意識を飛ばした。
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