夜紅譚

黒蝶

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第9章『死者還り』

第70話

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氷空の予想は私たちが掴んでいた情報と合致した。
やはりあの不気味なマスコットが絡んでいるようだ。
そこからすぐ共同戦線をはり、なんとか事なきを得た。
「ありがとう。全部氷空のおかげだ」
疲れると眠ってしまうらしい氷空は今、車掌の腕のなかで眠っている。
「その子、大切にな」
「なんで夜紅までそんなこと…」
「人と関わるのって、結構大事なんだ。その子はおまえを差別しなかったんだろ?
…一緒にいてくれる人の存在って、かけがえのないものだから」
私には穂乃がいて、陽向たちがいて、先生たちもいて、白露がくわわって…そして、今まで出会ってきた仲間たちもいる。
だが、車掌が他の人といるところをほとんど見たことがない。
それだけ心を閉ざしている理由が何かは分からないが、氷空は必死に手を伸ばしているような気がする。
「…肝に銘じておく」
「そろそろ交換実習も終わりだけど、少しでも手伝えたか?」
「助かった。俺ひとりじゃどうしようもなかったから…本当にありがとう」
頭を下げられて、硬直してしまう。
いつも落ち着いた様子の車掌が焦っていたなんて予想していなかったし、困っているところなんて初めて見た。
「また何かあれば言ってくれ。私でよければいつでも力になるから」
「俺もだ。…またな宵月」
「待って」
引き止められてふりかえると、幼い子どものような表情で問いかけられる。
「どうすれば人と仲良くできるの?…というより、俺は仲良くしていいのかな」
「それは俺が決められることじゃない。ひとつ言えるのは、恐怖を乗り越えることだ。…無理そうなら俺が一緒に背負ってやる」
人間ではないということは、関わりを持っていてもいつか必ず先立たれてしまうということだ。
だから車掌は周囲の人たちと距離をとっているのかもしれない。
「…相変わらずすごいことを言うよね、室星は」
「俺もそっち側だったからな」
ふたりの絆の深さを再確認したところで、インカムにぴりぴりした音声が届く。
『先輩、そっちで人形破壊しました?』
「ああ。なんとか終わった。明後日にはそっちに戻るから、どういうものを視たのか細かく教えてくれ」
『…それが、ちょっとやばそうなんです』
「何があったんだ」
陽向は言いづらそうにしていたものの、重苦しい言葉を発した。
『人形師らしきものを発見したんです。…けど、腐敗臭がします』
「つまり、死者の皮を被っている可能性があるってことか」
『それだけならよかったんですけど、その…』
「…大体分かった」
先生たちからは離れているから聞こえていないだろう。
「何人犠牲になったんだろうな。…しかも、何年前からそんな事になっていたのか調べる必要がありそうだ」
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