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第9章『死者還り』
第68話
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「大きくなったのは聞いたけど、女性も追いかけてきたのか」
『はい。はじめは俺の方に向かってきたんです。けど、いつの間にか自立して動きはじめて…』
「穂乃へ標的を変えたのか」
『周りはそうだと思ってるみたいなんですけど、その…俺にはちびや白露を狙ってるように見えたんです』
陽向は自信なさげに話しているが、根拠がないことを言うタイプじゃない。
「なんでそう思ったんだ?」
『多分ですけど、辛いこととか苦しいことを抱えている人に入りこみやすいんですよね?
穂乃ちゃんよりちびの方が闇深いでしょ?それに、穂乃ちゃんが走って攻撃を避けた後、白露を見てにやって笑ったんです』
「…そうか」
瞬には壮絶な過去がある。自ら命を絶ってしまうほどのものを抱えているのだから。
白露は自分の話をあまりしないが、それは思い出したくないものがあるからだろう。
「厄介だな」
『どういうことですか?』
「今の話を加味すると、取り憑く相手が人間とは限らないってことになる」
『あ!てことは、強い相手に憑かれたら終わる…?』
「…こっちでも調べてみる。白鷺学園にも手がかりがあるはずだ」
『了解です。こっちも引き続き調べてみますね。また何か分かったら報告します』
「悪いけどしばらく頼む」
通話が切れたのを確認して学園へ入ろうとすると、背後から呼び止められる。
…昨日声をかけてきた教師だ。
「おはよう」
「…おはようございます」
「ねえ、彼氏とかいるの?」
「いません」
「それじゃあ、俺と連絡先交換しない?」
「そういったことはお断りさせていただいておりますので…すみません」
「言わなきゃばれないって。ね?」
腕を掴まれ、もう一方の手で髪を触られる。
健気なふりをしておこうと思っていたが、どうしても不快感が消えず思いきり払い除けてしまった。
「い、今のは問題行動だ!校長に言いつけてやるから覚えてろ!」
「…やれるものならやってみろ。そのときは嫌がってるのに連絡先を聞いてきたり、無理矢理腕や髪に触れたって報告してやる」
私の呟きは相手に届いていない。
だが、その方が好都合だ。
「──燃えろ」
密かにはっておいた札がちりちりと音をたて、教師が持っていた鞄を燃やしていく。
怨念が突出しているのがそれだったため、近づかれたすきに札を入れておいたのだ。
霊力のこめ方を調整できれば書類や鞄そのものが燃えることはない。
「…顔色が悪いが、何かあったのか?」
「いや、なんでもない。それより、私は何を用意すればいいんだ?」
「化学室にある薬品を運ぶのを手伝ってくれ」
「分かった」
先生には気づかれないよう、少しずつ調べていこう。
これ以上負担を増やすわけにはいかないから。
『はい。はじめは俺の方に向かってきたんです。けど、いつの間にか自立して動きはじめて…』
「穂乃へ標的を変えたのか」
『周りはそうだと思ってるみたいなんですけど、その…俺にはちびや白露を狙ってるように見えたんです』
陽向は自信なさげに話しているが、根拠がないことを言うタイプじゃない。
「なんでそう思ったんだ?」
『多分ですけど、辛いこととか苦しいことを抱えている人に入りこみやすいんですよね?
穂乃ちゃんよりちびの方が闇深いでしょ?それに、穂乃ちゃんが走って攻撃を避けた後、白露を見てにやって笑ったんです』
「…そうか」
瞬には壮絶な過去がある。自ら命を絶ってしまうほどのものを抱えているのだから。
白露は自分の話をあまりしないが、それは思い出したくないものがあるからだろう。
「厄介だな」
『どういうことですか?』
「今の話を加味すると、取り憑く相手が人間とは限らないってことになる」
『あ!てことは、強い相手に憑かれたら終わる…?』
「…こっちでも調べてみる。白鷺学園にも手がかりがあるはずだ」
『了解です。こっちも引き続き調べてみますね。また何か分かったら報告します』
「悪いけどしばらく頼む」
通話が切れたのを確認して学園へ入ろうとすると、背後から呼び止められる。
…昨日声をかけてきた教師だ。
「おはよう」
「…おはようございます」
「ねえ、彼氏とかいるの?」
「いません」
「それじゃあ、俺と連絡先交換しない?」
「そういったことはお断りさせていただいておりますので…すみません」
「言わなきゃばれないって。ね?」
腕を掴まれ、もう一方の手で髪を触られる。
健気なふりをしておこうと思っていたが、どうしても不快感が消えず思いきり払い除けてしまった。
「い、今のは問題行動だ!校長に言いつけてやるから覚えてろ!」
「…やれるものならやってみろ。そのときは嫌がってるのに連絡先を聞いてきたり、無理矢理腕や髪に触れたって報告してやる」
私の呟きは相手に届いていない。
だが、その方が好都合だ。
「──燃えろ」
密かにはっておいた札がちりちりと音をたて、教師が持っていた鞄を燃やしていく。
怨念が突出しているのがそれだったため、近づかれたすきに札を入れておいたのだ。
霊力のこめ方を調整できれば書類や鞄そのものが燃えることはない。
「…顔色が悪いが、何かあったのか?」
「いや、なんでもない。それより、私は何を用意すればいいんだ?」
「化学室にある薬品を運ぶのを手伝ってくれ」
「分かった」
先生には気づかれないよう、少しずつ調べていこう。
これ以上負担を増やすわけにはいかないから。
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