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第8章『サバト再び』
第61話
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《ハナセハナセハナセハナセ》
「嫌だね。おまえにばりばり喰われたくないから!」
陽向は相手を押さえつけながら、飛んでくる邪気のようなものを避けている。
私は私で邪気を燃やすのでせいいっぱいだ。
…札はあとどれくらい持つだろう。
「穂乃、頼む!」
何かが足に絡みついた感触がして、離れた場所にいる穂乃に届くよう叫ぶ。
流石にヤマノケ系統に憑かれても、無事でいられる自信がない。
《ケガレタケガレタケガレタ…ギャア!》
いつも以上の威力で放たれた水は、きらきら光って相手の体を灰へと変える。
取り憑かれていた妖は衰弱していたものの、処置を施せばなんとかなりそうだ。
「今夜が満月じゃなかったら私がやってたのにな…」
「手当てしないとやばいですよね?先生を探しに行けば、」
「それじゃ間に合わない。やり方を説明するから手伝ってくれるか?…桜良」
「え、桜良!?」
木の影に隠れていた桜良は、困惑した表情をこちらに向ける。
「ついてきたら危ないって言ったのに」
「放っておけるわけない。…みんなのことも、あなたのことも」
桜良は妖に寄り添うようにその場に腰を下ろし、じっと見つめていた。
「何をすればいいですか?」
「まずはこの布とこっちの包帯を使う。あとは滋養があるものを食べさせられればなんとかなるだろうけど…」
「俺、買ってきます!」
陽向が露店を見てくれている間にさっさと処置を施す。
「この布に力をこめればいい、ということですか?」
「ああ。あと、巻くときに早く治るように祈りを添える。
包帯へ注ぐ程度の霊力は残ってるけど、布にこめられるだけの霊力が残ってないんだ。…悪いけど頼んでいいか?」
「勿論です」
桜良の生活にできるだけ支障をきたすことがないよう、声の力を使ってもらうのではなく霊力だけでなんとか治してもらうことにした。
《い、ああ!》
「ごめん。すぐ終わらせるからそのまま待っててくれ」
じたばた暴れる妖に声をかける。
無理矢理体を動かされ、私の炎を浴びてしまっているわけだし痛くないはずがない。
「…できました」
「ありがとう。手早いな」
包帯を巻いてしばらく様子を見ていたけど、やっぱり力が弱まっている気がする。
「おまたせしました!」
薬膳料理と焼き魚、だろうか。
「ありがとう。助かった」
陽向から受け取った食事を、少しずつ妖に食べさせる。
はじめは飲みこむ力もなかったようだが、なんとか食べてくれた。
「これで大丈夫だろう」
《…何故だ》
白露が首を傾げ、問いかけてくる。
《いつも思っていたが、何故妖を助ける?》
「傷ついて弱っている人を助けるのに理由なんて必要か?…それに、人間の方が何百倍も怖い」
穂乃が桜良と話しているのを確認して即答する。
「正体なんて関係ない。理性があって意思を伝えられる限り、人であることに変わりないんだから」
白露はずっと首を傾げていた。
たしかに式神からすれば不思議だろう。
だが、私はいつだってこうしてきた。…私たちは誰でも彼でも殺そうと思っていない。
どうすれば分かりやすく説明できるだろう。
「嫌だね。おまえにばりばり喰われたくないから!」
陽向は相手を押さえつけながら、飛んでくる邪気のようなものを避けている。
私は私で邪気を燃やすのでせいいっぱいだ。
…札はあとどれくらい持つだろう。
「穂乃、頼む!」
何かが足に絡みついた感触がして、離れた場所にいる穂乃に届くよう叫ぶ。
流石にヤマノケ系統に憑かれても、無事でいられる自信がない。
《ケガレタケガレタケガレタ…ギャア!》
いつも以上の威力で放たれた水は、きらきら光って相手の体を灰へと変える。
取り憑かれていた妖は衰弱していたものの、処置を施せばなんとかなりそうだ。
「今夜が満月じゃなかったら私がやってたのにな…」
「手当てしないとやばいですよね?先生を探しに行けば、」
「それじゃ間に合わない。やり方を説明するから手伝ってくれるか?…桜良」
「え、桜良!?」
木の影に隠れていた桜良は、困惑した表情をこちらに向ける。
「ついてきたら危ないって言ったのに」
「放っておけるわけない。…みんなのことも、あなたのことも」
桜良は妖に寄り添うようにその場に腰を下ろし、じっと見つめていた。
「何をすればいいですか?」
「まずはこの布とこっちの包帯を使う。あとは滋養があるものを食べさせられればなんとかなるだろうけど…」
「俺、買ってきます!」
陽向が露店を見てくれている間にさっさと処置を施す。
「この布に力をこめればいい、ということですか?」
「ああ。あと、巻くときに早く治るように祈りを添える。
包帯へ注ぐ程度の霊力は残ってるけど、布にこめられるだけの霊力が残ってないんだ。…悪いけど頼んでいいか?」
「勿論です」
桜良の生活にできるだけ支障をきたすことがないよう、声の力を使ってもらうのではなく霊力だけでなんとか治してもらうことにした。
《い、ああ!》
「ごめん。すぐ終わらせるからそのまま待っててくれ」
じたばた暴れる妖に声をかける。
無理矢理体を動かされ、私の炎を浴びてしまっているわけだし痛くないはずがない。
「…できました」
「ありがとう。手早いな」
包帯を巻いてしばらく様子を見ていたけど、やっぱり力が弱まっている気がする。
「おまたせしました!」
薬膳料理と焼き魚、だろうか。
「ありがとう。助かった」
陽向から受け取った食事を、少しずつ妖に食べさせる。
はじめは飲みこむ力もなかったようだが、なんとか食べてくれた。
「これで大丈夫だろう」
《…何故だ》
白露が首を傾げ、問いかけてくる。
《いつも思っていたが、何故妖を助ける?》
「傷ついて弱っている人を助けるのに理由なんて必要か?…それに、人間の方が何百倍も怖い」
穂乃が桜良と話しているのを確認して即答する。
「正体なんて関係ない。理性があって意思を伝えられる限り、人であることに変わりないんだから」
白露はずっと首を傾げていた。
たしかに式神からすれば不思議だろう。
だが、私はいつだってこうしてきた。…私たちは誰でも彼でも殺そうと思っていない。
どうすれば分かりやすく説明できるだろう。
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