夜紅譚

黒蝶

文字の大きさ
上 下
71 / 309
第8章『サバト再び』

第58話

しおりを挟む
大人しく関わらないのが正解だってことくらいちゃんと分かっている。
それでも、どうしても放っておくことができなかった。
《なんだおまえ?やんのか?》
「この子はただ物を売っていただけだ。ここはそういう場だろう。…何も悪いことをしていないこの子に謝れ」
《この俺に口答えするなど、何様のつもりだ!》
できるだけ手荒な真似はしたくなかったが仕方ない。
持っていた札を並べ、相手を拘束した。
「…さあ?他人様?」
《なんだこれ、う、動けない…》
「大口叩いてその程度か。…これ以上暴れて、楽しい祭りの気分を台無しにするなよ」
《ひ、ひい!化け物!》
相手は複数人だったが、全員逃げていった。
今の私は、相手の目にどう写っているんだろう。
「…ごめん。お店、直すの手伝うよ」
《あ、あ…あいがと!》
「お礼を言われるようなことはしてない」
舌っ足らずな話し方が微笑ましく感じる。
何箇所か曲げられていて、どうにもならない部分があった。
「流石に釘は持ってないな…」
《あう…》
こんなに小さな体でこれだけ大きい店を組み立てるのは大変だっただろう。
「補強すればなんとかなる」
「先生?」
「岡副たちが知らせにきた。なんか囲まれてヤバそうな雰囲気だって」
「…そうか。正直助かった。私だけじゃどうにもできなかっただろうから」
先生は自前の糸でどんどん固定していく。
小さな妖は、ぱっと目を輝かせて組みあがった屋台に商品を並べはじめた。
「…風の精霊か」
「知ってるのか?」
「小さな子どもの姿をしているが、力が覚醒すると大人と同じサイズになるらしい。…何かあったらすぐ言え」
《あ、あう》
天蚕糸のようなものを渡し、先生はそのまま去っていく。
「またおかしなことに巻きこまれそうになったら呼んでくれ。必ず助けるから」
《あい、あと》
からからと風車を回しながら見送ってくれた。
頭を撫でて、一旦その場を離れる。
何も食べていなさそうだったから、焼きそばでも買ってこようと思った。
「先輩、大丈夫でしたか?」
「ああ。先生を呼んできてくれてありがとう。おかげでなんとか穏便に片づいたよ」
「穏便…」
陽向は苦笑しながら、桜良と射的の列に並ぶ。
「今年は特に問題なく終わりそうですね」
「そうなることを祈ろう」
なんとなくだが、嫌な予感がする。
目的の店をまわってわらわらと人が集まる様子をぼんやり眺めていると、後ろでわっと歓声があがった。
「先生、相変わらず上手いよね…」
「思いの外人が集まってきたな」
《なんだあれ、すげえ!》
《※※□!》
話している言葉全てを理解できたわけではないが、好意的に受け取られているようで安心した。
《お母さん、僕も欲しい…》
《ごめんね。下手だから無理なの》
なんとなく見ていられなくて、親子に声をかけた。
「あの、欲しい物を取るついででよければやってみましょうか?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

借景 -profiles of a life -

黒井羊太
ライト文芸
人生は、至る所にある。そこにも、ここにも、あそこにも。 いつだったかの群像・新人文学賞一次通過作。 ライト文芸大賞に参加してます。

アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?

無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。 どっちが稼げるのだろう? いろんな方の想いがあるのかと・・・。 2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。 あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。

視えてるらしい。

月白ヤトヒコ
ホラー
怪談です。 聞いた話とか、色々と・・・ どう思うかは自由です。 気になった話をどうぞ。 名前を考えるのが面倒なので、大体みんなAさんにしておきます。ちなみに、Aさんが同一人物とは限りません。

少女漫画と君と巡る四季

白川ちさと
ライト文芸
 尾形爽次郎はこの春、出版社に就職する。  そこで配属されたのが少女漫画雑誌、シュシュの編集部。しかも、指導係の瀬戸原に連れられて、憧れの少女漫画家、夢咲真子の元を訪れることに。  しかし、夢咲真子、本名小野田真咲はぐーたらな性格で、現在連載中の漫画終了と同時に漫画家を辞めようと思っているらしい。  呆然とする爽次郎に瀬戸原は、真咲と新しい企画を作るように言い渡す。しかも、新人歓迎会で先輩編集者たちに問題児作家だと明かされた。前途多難な中、新人編集者の奮闘が始まる。

出来損ないのなり損ない

月影八雲
ライト文芸
鉱一は、生まれながらの『呪い』により、過度に他人を恐れていた。 そして『独り』を選んだ。 それは自分を守るため。 本心を隠し、常にその人にとっての『いい子』であり続けようとする鉱一。 しかし、ニセ者は段々と彼の心を蝕んでいくのだった。

【完結】君に伝えたいこと

かんな
ライト文芸
  食中毒で倒れた洋介は一週間の入院をすることになった。    治療をしつつ、入院生活をする洋介。そんな中、1人の少女と出会う。 美しく、そして綺麗な少女に洋介は思わず見惚れてしまったが――? これは病弱な女の子と人気者の男の子の物語である。 ※表紙の絵はAIのべりすとの絵です。みのりのイメージ画像です。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

処理中です...