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第7章『十五夜の戯れ』
第53話
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ひととおり話が終わり、席を立つ。
「…穂乃には怪我のことを黙っておいてほしい」
「分かりました。私からは何も言いません」
「ありがとう。それじゃあ今夜は、」
そこまで言ったところで、近くから爆発音がした、
「桜良はここにいてくれ。誰かから連絡がきたら出られるように」
「分かりました」
桜良がいる放送室の扉に小さめの結界をはり、音がした方へ向かう。
《私ト来レバイイジャナイ》
「…誰が行くか。こんな、乱暴なことして…。普通の人間なら、死んでてもおかしくない」
傷だらけの陽向の正面には見知らぬ怪異が立っている。
片手に楽器を持っているのを見てほぼ確信した。
《ソノ怪我ジャ辛イデショウ?》
「行か、ない…」
相手は陽向しか眼中にないらしく、私に全く気づいていない。
紅を塗り直し、急いで組み立て式の弓を使った。
《ギャア!》
「先、輩…」
左半身から血を大量に流している陽向は、安堵したように微笑む。
「…おまえが連れ去る方だな」
《邪魔ヲ、スルナ!》
琵琶のような楽器が弾かれる度、一撃ずつ爆弾のような攻撃が飛んでくる。
それをひたすら避け続け、相手に矢を命中させた。
《畜生…》
相手が去っていったのを確認してから陽向に近づく。
呪いなどの痕跡がないかたしかめたが、奇跡的に問題なさそうだ。
「先輩、すみません」
「いい。今は喋るな。これ以上傷が酷くなったら桜良が泣く。
それに…私も他のみんなも、陽向が傷つくことを望んでいない」
「ありがとう、ございます。いい仲間ができてよかった…」
そのまま力なくもたれかかってきた陽向の体を支え、近くの空き教室で様子を見る。
白露が言ったとおり、もうひとり別の怪異が存在しているようだ。
そしておそらく、あの怪異が人間を拐っているのだろう。
「…桜良、聞こえるか?」
『すごい音がしていましたけど、何かあったんですか?』
「怪異がもうひとりいる。陽向がそいつにやられた」
『…そうですか』
「ごめん。もっと早く着いていれば間に合ったかもしれないのに」
『詩乃先輩がいなかったら、陽向は行方不明になっていたはずです。
元気に帰ってきてくれればそれが1番ですが、警戒していないはずがないので急襲されたんでしょうね』
「…うん。私もそう思う」
他のみんなにも報告しなければならないが、まだ状況を完全に呑みこめていない。
陽向が回復するのを待ちながら、崩れた矢を補強する。
そのうち一本の鏃に何かついているのを見つけて、そのままにしておくことにした。
やはり先生に訊いてみるのが1番だろうか。
「先生、後でちょっと見てもらいたいものがある」
それだけ連絡して、痛む傷を押さえた。
「…穂乃には怪我のことを黙っておいてほしい」
「分かりました。私からは何も言いません」
「ありがとう。それじゃあ今夜は、」
そこまで言ったところで、近くから爆発音がした、
「桜良はここにいてくれ。誰かから連絡がきたら出られるように」
「分かりました」
桜良がいる放送室の扉に小さめの結界をはり、音がした方へ向かう。
《私ト来レバイイジャナイ》
「…誰が行くか。こんな、乱暴なことして…。普通の人間なら、死んでてもおかしくない」
傷だらけの陽向の正面には見知らぬ怪異が立っている。
片手に楽器を持っているのを見てほぼ確信した。
《ソノ怪我ジャ辛イデショウ?》
「行か、ない…」
相手は陽向しか眼中にないらしく、私に全く気づいていない。
紅を塗り直し、急いで組み立て式の弓を使った。
《ギャア!》
「先、輩…」
左半身から血を大量に流している陽向は、安堵したように微笑む。
「…おまえが連れ去る方だな」
《邪魔ヲ、スルナ!》
琵琶のような楽器が弾かれる度、一撃ずつ爆弾のような攻撃が飛んでくる。
それをひたすら避け続け、相手に矢を命中させた。
《畜生…》
相手が去っていったのを確認してから陽向に近づく。
呪いなどの痕跡がないかたしかめたが、奇跡的に問題なさそうだ。
「先輩、すみません」
「いい。今は喋るな。これ以上傷が酷くなったら桜良が泣く。
それに…私も他のみんなも、陽向が傷つくことを望んでいない」
「ありがとう、ございます。いい仲間ができてよかった…」
そのまま力なくもたれかかってきた陽向の体を支え、近くの空き教室で様子を見る。
白露が言ったとおり、もうひとり別の怪異が存在しているようだ。
そしておそらく、あの怪異が人間を拐っているのだろう。
「…桜良、聞こえるか?」
『すごい音がしていましたけど、何かあったんですか?』
「怪異がもうひとりいる。陽向がそいつにやられた」
『…そうですか』
「ごめん。もっと早く着いていれば間に合ったかもしれないのに」
『詩乃先輩がいなかったら、陽向は行方不明になっていたはずです。
元気に帰ってきてくれればそれが1番ですが、警戒していないはずがないので急襲されたんでしょうね』
「…うん。私もそう思う」
他のみんなにも報告しなければならないが、まだ状況を完全に呑みこめていない。
陽向が回復するのを待ちながら、崩れた矢を補強する。
そのうち一本の鏃に何かついているのを見つけて、そのままにしておくことにした。
やはり先生に訊いてみるのが1番だろうか。
「先生、後でちょっと見てもらいたいものがある」
それだけ連絡して、痛む傷を押さえた。
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