56 / 309
閑話『それぞれの夏』
夏の音
しおりを挟む
「風鈴作り体験…」
一緒に旅行に来た友だちと別行動している間、気になった場所にふらっと立ち寄る。
「白露、いる?」
《呼んだか?》
「あのお店、一緒に入らない?」
《俺を何だと思っているんだ…》
友人との旅行なら、自分がいれば邪魔になるだろう…白露はそう言ったきり、離れた場所から追いかけてくれていた。
ずっと遠慮させてしまって申し訳ない。
だからせめて、ふたりでいられる時間くらいはいっぱいおしゃべりしたかった。
「ごめんなさい。私はまだ、白露の好みを知らないから…。嫌だった?」
《……好きにすればいい。ただ、俺は他の人間たちには視えないことを忘れるな》
「分かった。ありがとう」
風鈴キットをふたつ買って、目立たない隅の方で作業に取り掛かる。
「白露はそっちの風鈴を完成させてね」
《だから、俺はここにいる人間たちには…》
「そんなの関係ないよ。お姉ちゃんがよく言ってるんだけど、自分にしっかり視えて聞こえているならそれでいいと思うんだ」
白露は一瞬固まっていたけど、大きく息を吐く。
《…俺もまだおまえたち姉妹や仲間を理解しきれていない。特におまえのことはよく分からない》
「そうかな?私は分かりやすいけど…って、もうできたの?しかも上手だし…。やったことあった?」
《筆を使った作業は経験があるが、こういったものづくりは初めてだ》
白露は可愛らしい赤と黒の金魚を描いている。
涼しそうだし、金魚たちも生き生きしている気がして見ているだけで楽しい。
「それではみなさん、これで教室は終わりです。また参加しにいらしてくださいね!」
お姉さんの明るい声と同時に、ばらばらと教室から沢山の人が出ていく。
「わっ…」
段差につまずいて転びそうになった私を、白露がしっかり支えてくれた。
「ありがとう」
《護るのが仕事だからな》
「…友だちだから、じゃ駄目?」
《俺は人間では、》
「そんなの関係ないよ。私が友だちになってほしいの」
白露はなんだか困った顔をしていたけど、苦笑いしながら隣を歩いてくれる。
《本当によく分からない奴だ》
「そんなことないよ…」
私はまだ白露のことをよく知らないけど、いつかもっと仲良くなりたい。
ふと隣の白露に視線をやると、パフェのお店に目を向けていた。
「食べたことない?」
《あんなに輝いているものがあるのかと見ていただけだ》
「パフェ食べよう!持ちこみオッケーのホテルだから、部屋に入っちゃえばふたりきりだし…」
《…距離があるのではないか?それに、他にやりたいことがあるならそちらを優先すべきだ》
「白露と一緒にできることがいいの。どれがいいか選んで?」
白露は困った顔をしていたけど、いちごソースがかかったパフェを遠慮がちに指さす。
お姉ちゃんにお願いして時々やらせてもらっている内職のお金を持ってきているし、もらったお小遣いもあるから問題ない。
ひとりひとり別の部屋にしてもらってよかった…なんて思いながら、歩幅を合わせてくれる白露の隣をゆっくり歩いた。
一緒に旅行に来た友だちと別行動している間、気になった場所にふらっと立ち寄る。
「白露、いる?」
《呼んだか?》
「あのお店、一緒に入らない?」
《俺を何だと思っているんだ…》
友人との旅行なら、自分がいれば邪魔になるだろう…白露はそう言ったきり、離れた場所から追いかけてくれていた。
ずっと遠慮させてしまって申し訳ない。
だからせめて、ふたりでいられる時間くらいはいっぱいおしゃべりしたかった。
「ごめんなさい。私はまだ、白露の好みを知らないから…。嫌だった?」
《……好きにすればいい。ただ、俺は他の人間たちには視えないことを忘れるな》
「分かった。ありがとう」
風鈴キットをふたつ買って、目立たない隅の方で作業に取り掛かる。
「白露はそっちの風鈴を完成させてね」
《だから、俺はここにいる人間たちには…》
「そんなの関係ないよ。お姉ちゃんがよく言ってるんだけど、自分にしっかり視えて聞こえているならそれでいいと思うんだ」
白露は一瞬固まっていたけど、大きく息を吐く。
《…俺もまだおまえたち姉妹や仲間を理解しきれていない。特におまえのことはよく分からない》
「そうかな?私は分かりやすいけど…って、もうできたの?しかも上手だし…。やったことあった?」
《筆を使った作業は経験があるが、こういったものづくりは初めてだ》
白露は可愛らしい赤と黒の金魚を描いている。
涼しそうだし、金魚たちも生き生きしている気がして見ているだけで楽しい。
「それではみなさん、これで教室は終わりです。また参加しにいらしてくださいね!」
お姉さんの明るい声と同時に、ばらばらと教室から沢山の人が出ていく。
「わっ…」
段差につまずいて転びそうになった私を、白露がしっかり支えてくれた。
「ありがとう」
《護るのが仕事だからな》
「…友だちだから、じゃ駄目?」
《俺は人間では、》
「そんなの関係ないよ。私が友だちになってほしいの」
白露はなんだか困った顔をしていたけど、苦笑いしながら隣を歩いてくれる。
《本当によく分からない奴だ》
「そんなことないよ…」
私はまだ白露のことをよく知らないけど、いつかもっと仲良くなりたい。
ふと隣の白露に視線をやると、パフェのお店に目を向けていた。
「食べたことない?」
《あんなに輝いているものがあるのかと見ていただけだ》
「パフェ食べよう!持ちこみオッケーのホテルだから、部屋に入っちゃえばふたりきりだし…」
《…距離があるのではないか?それに、他にやりたいことがあるならそちらを優先すべきだ》
「白露と一緒にできることがいいの。どれがいいか選んで?」
白露は困った顔をしていたけど、いちごソースがかかったパフェを遠慮がちに指さす。
お姉ちゃんにお願いして時々やらせてもらっている内職のお金を持ってきているし、もらったお小遣いもあるから問題ない。
ひとりひとり別の部屋にしてもらってよかった…なんて思いながら、歩幅を合わせてくれる白露の隣をゆっくり歩いた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
君の中で世界は廻る
便葉
ライト文芸
26歳の誕生日、
二年つき合った彼にフラれた
フラれても仕方がないのかも
だって、彼は私の勤める病院の 二代目ドクターだから…
そんな私は田舎に帰ることに決めた
私の田舎は人口千人足らずの小さな離れ小島
唯一、島に一つある病院が存続の危機らしい
看護師として、 10年ぶりに島に帰ることに決めた
流人を忘れるために、 そして、弱い自分を変えるため……
田中医院に勤め出して三か月が過ぎた頃 思いがけず、アイツがやって来た
「島の皆さん、こんにちは~
東京の方からしばらく この病院を手伝いにきた池山流人です。
よろしくお願いしま~す」
は??? どういうこと???
サレ夫が愛した女性たちの追憶
しらかわからし
ライト文芸
この小説は、某ブログで掲載していたものですが、この度閉鎖しアクアポリス様だけで掲載いたします。
愛と欲望、裏切りと再生をテーマに主人公自身が女性たちと交錯し、互いに影響をし合いながら変化していく、様子を描きました。暫く、公開を停止していたのですが、本日(2024年10月5日)より再公開させて頂きました。
表紙の画像はCANVA様からお借りしました。
夜紅の憲兵姫
黒蝶
ライト文芸
烏合学園監査部…それは、生徒会役員とはまた別の権威を持った独立部署である。
その長たる高校部2年生の折原詩乃(おりはら しの)は忙しい毎日をおくっていた。
妹の穂乃(みの)を守るため、学生ながらバイトを複数掛け持ちしている。
…表向きはそういう学生だ。
「普通のものと変わらないと思うぞ。…使用用途以外は」
「あんな物騒なことになってるなんて、誰も思ってないでしょうからね…」
ちゃらい見た目の真面目な後輩の陽向。
暗い過去と後悔を抱えて生きる教師、室星。
普通の人間とは違う世界に干渉し、他の人々との出逢いや別れを繰り返しながら、詩乃は自分が信じた道を歩き続ける。
これは、ある少女を取り巻く世界の物語。
未だ分からず《人間らしくない人間と人間らしい怪物》
甘党でやる気ないおおかみ
ライト文芸
あるクリスマスの日、人間らしくない主人公 「僕」 は人間らしい怪物 「人猿」 に襲われる。再び目覚めた時には、体と心臓が他人の体のモノと入れ替えられていた。魔法使協会に保護されたのち、人猿を止めるために協会の一員になることを決意する。
『道具の能力を極限まで引き出せる』魔法を使えるようになるが・・・
悪夢に触れ、人に触れ、魔法に触れ、「僕」はどう生きるのか。
café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~
yolu
ライト文芸
café R のオーナー・莉子と、後輩の誘いから通い始めた盲目サラリーマン・連藤が、料理とワインで距離を縮めます。
連藤の同僚や後輩たちの恋愛模様を絡めながら、ふたりの恋愛はどう進むのか?
※小説家になろうでも連載をしている作品ですが、アルファポリスさんにて、書き直し投稿を行なっております。第1章の内容をより描写を濃く、エピソードを増やして、現在更新しております。
桜の華 ― *艶やかに舞う* ―
設樂理沙
ライト文芸
水野俊と滝谷桃は社内恋愛で結婚。順風満帆なふたりの結婚生活が
桃の学生時代の友人、淡井恵子の出現で脅かされることになる。
学生時代に恋人に手酷く振られるという経験をした恵子は、友だちの
幸せが妬ましく許せないのだった。恵子は分かっていなかった。
お天道様はちゃんと見てらっしゃる、ということを。人を不幸にして
自分だけが幸せになれるとでも? そう、そのような痛いことを
仕出かしていても、恵子は幸せになれると思っていたのだった。
異動でやってきた新井賢一に好意を持つ恵子……の気持ちは
はたして―――彼に届くのだろうか?
そしてそんな恵子の様子を密かに、見ている2つの目があった。
夫の俊の裏切りで激しく心を傷付けられた妻の桃が、
夫を許せる日は来るのだろうか?
―――――――――――――――――――――――
2024.6.1~2024.6.5
ぽわんとどんなstoryにしようか、イメージ(30000字くらい)。
執筆開始
2024.6.7~2024.10.5 78400字 番外編2つ
❦イラストは、AI生成画像自作
【本編完結】繚乱ロンド
由宇ノ木
ライト文芸
番外編更新日 11/19 『夫の疑問、妻の確信3』
本編は完結。番外編を不定期で更新。
11/15
*『夫の疑問、妻の確信2』
11/11
*『夫の疑問、妻の確信 1 』
10/12
*『いつもあなたの幸せを。』
9/14
*『伝統行事』
8/24
*『ひとりがたり~人生を振り返る~』
お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで
*『日常のひとこま』は公開終了しました。
7月31日
*『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。
6/18
*『ある時代の出来事』
6/8
*女の子は『かわいい』を見せびらかしたい。全1頁。
*光と影 全1頁。
-本編大まかなあらすじ-
*青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。
林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。
そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。
みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。
令和5年11/11更新内容(最終回)
*199. (2)
*200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6)
*エピローグ ロンド~廻る命~
本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。
※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。
現在の関連作品
『邪眼の娘』更新 令和6年1/7
『月光に咲く花』(ショートショート)
以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。
『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結)
『繚乱ロンド』の元になった2作品
『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』
カクテルの紡ぐ恋歌(うた)
弦巻耀
ライト文芸
鈴置美紗が「あの人」と出会ったのは、国家公務員になって三年目の初夏。異動先で新たな一歩を踏み出した美紗は仕事中に問題を起こし、それが、二十歳も年上の自衛官との許されぬ恋の始まりとなる……。
中央官庁の某機関という特殊な職場を舞台に、運命のパズルピースがひとつ揃うたびに、真面目に生きてきたはずの二人が一歩ずつ不適切な関係へと導かれていく様を、「カクテル言葉」と共にゆっくり描いてまいります。
この物語はフィクションです。実在する人物及び団体とは一切関係ありません。本文中に登場する組織名について、防衛省と自衛隊各幕僚監部以外はすべて架空のものです(話の主要舞台に似た実在機関がありますが、組織構成や建物配置などの設定はリアルとは大きく変えています)。
作者が酒好きなためお酒を絡めた話になっていますが、バーよりは職場のシーンのほうがかなり多いです。主人公が恋する相手は、若いバーテンダーではなく、二十歳年上の渋い系おじさんです(念のため)。
この物語は、社会倫理に反する行為を容認・推奨するものではありません。
本文に登場するカクテルに関しては、
・Coctail 15番地 監修『カクテルの図鑑』マイナビ出版, 2013, 208p
・KWHR様のサイト「カクテル言葉」
などを参考にいたしました。
職場に関する描写については、防衛省・自衛隊公式ページ(http://www.mod.go.jp/)、その他関連ウェブサイトを参考にしています。
(他サイトにも投稿しています。こちらはR15以上R18未満の内容を含むオリジナル版を挿絵付きで通しで掲載しております)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる