夜紅譚

黒蝶

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閑話『それぞれの夏』

夏の音

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「風鈴作り体験…」
一緒に旅行に来た友だちと別行動している間、気になった場所にふらっと立ち寄る。
「白露、いる?」
《呼んだか?》
「あのお店、一緒に入らない?」
《俺を何だと思っているんだ…》
友人との旅行なら、自分がいれば邪魔になるだろう…白露はそう言ったきり、離れた場所から追いかけてくれていた。
ずっと遠慮させてしまって申し訳ない。
だからせめて、ふたりでいられる時間くらいはいっぱいおしゃべりしたかった。
「ごめんなさい。私はまだ、白露の好みを知らないから…。嫌だった?」
《……好きにすればいい。ただ、俺は他の人間たちには視えないことを忘れるな》
「分かった。ありがとう」
風鈴キットをふたつ買って、目立たない隅の方で作業に取り掛かる。
「白露はそっちの風鈴を完成させてね」
《だから、俺はここにいる人間たちには…》
「そんなの関係ないよ。お姉ちゃんがよく言ってるんだけど、自分にしっかり視えて聞こえているならそれでいいと思うんだ」
白露は一瞬固まっていたけど、大きく息を吐く。
《…俺もまだおまえたち姉妹や仲間を理解しきれていない。特におまえのことはよく分からない》
「そうかな?私は分かりやすいけど…って、もうできたの?しかも上手だし…。やったことあった?」
《筆を使った作業は経験があるが、こういったものづくりは初めてだ》
白露は可愛らしい赤と黒の金魚を描いている。
涼しそうだし、金魚たちも生き生きしている気がして見ているだけで楽しい。
「それではみなさん、これで教室は終わりです。また参加しにいらしてくださいね!」
お姉さんの明るい声と同時に、ばらばらと教室から沢山の人が出ていく。
「わっ…」
段差につまずいて転びそうになった私を、白露がしっかり支えてくれた。
「ありがとう」
《護るのが仕事だからな》
「…友だちだから、じゃ駄目?」
《俺は人間では、》
「そんなの関係ないよ。私が友だちになってほしいの」
白露はなんだか困った顔をしていたけど、苦笑いしながら隣を歩いてくれる。
《本当によく分からない奴だ》
「そんなことないよ…」
私はまだ白露のことをよく知らないけど、いつかもっと仲良くなりたい。
ふと隣の白露に視線をやると、パフェのお店に目を向けていた。
「食べたことない?」
《あんなに輝いているものがあるのかと見ていただけだ》
「パフェ食べよう!持ちこみオッケーのホテルだから、部屋に入っちゃえばふたりきりだし…」
《…距離があるのではないか?それに、他にやりたいことがあるならそちらを優先すべきだ》
「白露と一緒にできることがいいの。どれがいいか選んで?」
白露は困った顔をしていたけど、いちごソースがかかったパフェを遠慮がちに指さす。
お姉ちゃんにお願いして時々やらせてもらっている内職のお金を持ってきているし、もらったお小遣いもあるから問題ない。
ひとりひとり別の部屋にしてもらってよかった…なんて思いながら、歩幅を合わせてくれる白露の隣をゆっくり歩いた。
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